旅の始まり
コツコツ…と延々に続きそうな足音が響く。
その足音の主は、廊下に無数に存在する扉の1つの前で立ち止まり、ノックした。
「入っていいぞ」
「失礼致します」
扉を開けて、二三歩あゆみ出た。
「また失敗…か?」
「はい、魔導師の生き残り、ダイア・シンドリアの捕獲に失敗しました」
上司と思しき男は立ち上がると窓を覗いた。
外の天候は豪雨。雷がなりそうな勢いで降っている。
「仕方無い、次の機会を伺う」
「それより司令、捕獲に向かった下っ端から謎の報告が」
司令と呼ばれた男は眉をひそめると、口を開いた。
「…どんな報告だ?」
「ええ、それが炎を纏った剣を振る餓鬼がいたなどと…」
男は何かひらめいたかのように不気味な笑みをこぼした。
「なるほど、まさか…な」
その時、男が触れていた窓にヒビが入った気がした。
「本当についてくるのか?」
「……」
ダイアは小さく頷いた。
年頃の女の子(年上っぽく見える)を連れて旅するのはいささか不本意ではあったが、彼女の決心は揺らがない。
「うん、じゃあ、よし!出発するか」
すると馬車は馬の甲高い声がすると同時に歩み出した。
「…そういえば、旅の理由、聞いていなかった…」
「…」
俺はダイアの質問に少し言葉が詰まった。彼女に話させておいて、自分だけ秘密にするというのは卑怯だと思うが、それを思い出すのは辛いし、信じてもらえるかどうかわからない。
俺が少し深刻な顔になったことを察したのか「…また今度でいいよ…」と気を使ってくれた。
その時、馬車の荷台が大きく揺れたと思った直後、突如荷台が横転してしまった。
「な、なんだ!?」
馬車道の道沿いにある崖の上に数十人もの武装集団が並んでいた。
「ハッハッハッ!仕返しに来たぞぉ!ガキぃ!」
その中には、先日の拉致男のリーダーの姿も見えた。
「クロロさん!あいつが昨日の炎の剣使いです!」
クロロと呼ばれた男は全身藍色ずくめ、目の色までもが深い闇をもつ藍色をしていた。
顔立ちは幼いし、小柄だ
「ふーん、こいつが司令の言ってた魔剣士かな?」
つまらなさそうな顔でこちらを見ているが、邪悪な笑みを浮かべるとこちらに歩み寄ってきた。
俺は右手で剣の柄を握…ろうとしたときにクロロは既に目の前、たった数十センチの距離に近づいてきていた。
「はぁ、全く、魔力も覇気も全然感じない。本当にこんなのが強いのかい?」
くくっとおもしろがるように笑うと、クロロは腰に装着した鞘から黒い刀を抜いた。
「んじゃあ、お手合わせと行きますか」
「くっ…」
後ろからダイアの声がした。
「…他のザコは…任せて…」
俺は頷くと一気に剣を鞘から引き抜いて、紅蓮の炎を纏わせた。
「フッフッフッハッハッハッハ!!」
クロロも同じく刀に魔力を纏わせる。しかし、その魔力はリクの炎属性とは違い、黒い風のようなものを連想させた。
「僕の属性は闇・風。僕はこの刀を闇風と呼んでいるよ。」
刀を大きく構えると、一歩大きく踏み込んだ。
「ていやぁぁ!!」
俺も負けじと剣を振りかぶり斬りかかった。
そして、剣と刀がぶつかりあうと、とんでもない量の火花が飛んだ。