魔導師
「なあ、ちょっと」
「……」
「なんでついてくるんだ?」
「……興味が、あるから」
この少女はダイアというらしい。
金髪のきれいなロングヘアで、多少好みではあるのだが、それは俺の目的ではない。
「興味があるって言ったって…」
ダイアはあい変わらず無表情である。感情が読み取れないため、少し対応に困ってしまう。
「んじゃあ、どうせついてくるならこっちのこと、色々教えてくんねぇかな?」
彼女は少し首を傾げると、そうかと思いついたように小さく頷いた。
町を歩きながら、こっちの大陸のことやちょっとした笑い話(向こうはそう思ってはいないかもしれない)などを聞いた。
気がつくともう日が沈みかけている。
「悪い、もう宿を探さないと。ありがとな」
「…あ…えっと、まだお礼していないんだけど…」
ダイアは少し俯いた。
「そんなのいいさ、んじゃな!」
変わらず無表情の顔が、ちょっとだけ悲しくなったような気がした。
「さてと、疲れたなぁ」
今日の戦闘でたった少しだが、魔力を使ってしまった。魔力を使うには精神を削る、少しでも、疲労感を無くしたかった。
「ふぅ、風呂でも入って寝ますか…」
俺は宿を出て、少し歩いた所にある浴場へ向かった。
ボロい布地でできた衣服を脱いで、浴槽に浸かる。
気持ちよくて思わず「はぁ〜」とため息が出てしまった。
既に深夜のため、人気はない。
つまり、独占状態なのである。
この間にリラックスしておこうと背伸びをした瞬間だった。
目の前の空間が捻じ曲がり、急にダイアが出現したのだった。
「どわぁっ!!?」
ダイアにのしかかられて、俺は大きな飛沫をあげて浴槽に沈んだ。
「ぶはっ!!」
俺は慌ててダイアを押しのけて、水面から顔を出し不足しそうな酸素を一気に取り込む。
「…?」
何が起きたのだと言わんばかりの顔でこちらを見ていたが、やっと今の状況を把握したダイアは少し顔を赤くした。
「……」
「……」
宿に戻ったが、やはり気まずい。
「あの…さ」
どうにかして空気を変えたい。
「どうやって俺の所に来た?瞬間移動みたいなのか?」
彼女は若干俯いてから、答えた。
「……私、魔導師だから、空間転移で……」
魔導師、本などでちょっとだけ読んだことがある。
多種多様な魔術を操り、人に災いをもたらす…らしい。
もちろん迷信だろうと全く信じてはいなかったが、まさか本当に存在してこのように出会うとは思いもしなかった。
「…あ、あの?…」
少し心配そうにこちらの様子を伺っている。しかし顔は無表情である。
「それじゃあ、俺と同じようなもの…なのかな?」
魔導師や魔剣士も大昔から人間から迫害されたと読んだことがある。
もちろん俺は田舎の島から来たので、迫害などは受けたことはないが、彼女はきっとあるのだろう。
「……」
「ん、悪い…嫌なこと思い出させたか?」
ダイアは首を横にぶんぶん振ったが、彼女はネックレスにつけられたペンダントを握り締めた。
「…お母さん…」
気まずい空気がさらに気まずくなってしまった。
どうする?どうする?と頭の中で思考を巡らせていると、ダイアが小さい声で話し始めた。
「…私の…お母さんも私と同じ魔導師だった。…けれど人間達に殺されてしまった…いや追い詰められて、私を結界でかばって死んだ…」
ダイアは続ける。
「…昨日まで仲良しだったお友達や、近所のおじさんおばさん達がみんな敵になってしまった…すごく…悲しかった…」
ダイアの目はどんどん潤っていく。
「…私は…もう一度…人間と仲良くなりたい。私やお母さんのような魔導師やあなたみたいな魔剣士が迫害されない世の中にしたい…」
返す言葉がない。涙ながらに話すダイアを見つめて思った。
「……」
俺は見ていることしか出来なかった。
そうだ、あの時も…