魔剣士
「それじゃ、元気でなじいさん!」
「あぁ、気をつけてなぁ」
村長はやせ細った手で俺に手を振った。
俺は今年で15歳。つい先日やっと島を出ることを許された。
(やっとこの海の向こうに行けるんだ…)
しかし、隣にリズやフーマの姿はない。
フーマは先に島を出てしまったし、リズは…。
あまり思い出したくない事だったので頭を振って忘れようとした。
数日、船に揺られた後、船長の野太い声が響いた。
「大陸が見えたぞぉ!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は跳ね起き、急いで身支度をして甲板に出た。
船から見えたのは大きな港町。
まるで俺と育った村とは桁違いだ。
「すっげぇ……」
思わず声に出してしまい慌てて口を抑えて、周りを見回した。
幸い、周りには誰もおらずホッと息をついたところで、船が港に着いた。
俺は一番乗りで船を飛び降り、船長の制止を聞かずに町中へとダッシュした。
「どわぁ……」
町中に溢れる活気と熱気。人のざわめきや店主の大きな声が耳に入ってくる。
気迫に圧倒され、人混みをかき分けて路地に入った。
今までの熱気が嘘のように冷たくなった。
路地を進んでいると、前から不思議な格好をした女の子がすごい勢いで走って来た。
俺はよける間も無く、彼女と転倒した。
「あ、すみません!」
「……」
女の子は睨みつけるような顔をして、また走り出した。
なんだよあいつ…と毒づいていると、彼女か走って来た方向から男が2~3人走って来た。
「おい小僧!女を見なかったか!?」
俺は慌てて首を横に振った。
「ちっ、おい!いくぞ!」
男達はドスドスと足音を立てて走り去っていった。
「な、なんなんだ…」
困惑していると、急に誰かに、襟首を引っ張られ、俺は狭い通路に連れていかれた。よくよく見るとさっきの女の子だった。彼女は確か反対の方向に逃げたはず…。
「な、なんだよあんた!離せよ!」
彼女は無言で俺を引っ張り続けて、最終的に人気のない港に出た。
「…大丈夫?」
「大丈夫も何も、誰だよあんた」
その謎の女の子は表情を動かさずに答えた。
「…私はダイア。さっきは助けてくれてありがとう」
無表情でそうつぶやいた。
「助けたって、やっぱり追われてたのか?」
彼女は無言で頷いた。
「あんた、なんか連中に追いかけられるようなことでもしたのかよ」
そう言うと、少しうつむいて口を開けかけたその時、背後から男がダイアを差し押さえた。
「へっへっへ、もう逃がさねぇぜ嬢ちゃんよぉ」
男達が下卑た笑いをこぼす。
「ん?なんださっきの小僧か。やっぱり嘘ついてたのか。まあいい、目的のブツは手に入ったからなぁ」
男はダイアの金髪を引っ張ると強引に連れていこうとした。
その時、俺の手は男の腕をがっしり捕まえていた。
「その娘、離せよ」
「あ?なんだガキ。殺されてぇのか!」
男達がナイフの入った鞘に手をかけた。
俺は素早く背中の両手剣の柄を右手で掴む。
「やる気か?上等だ!死ねぇ!」
その時、俺以外の時間が止まったように感じた。
敵が振りおろしてくるナイフを左手で白羽取り。
そして右手で剣を抜いた。
「ウラァ!!」
男が力任せに振るナイフを避けて、剣でそのナイフを弾き飛ばした。
「あ、あッツ!!」
俺の剣は炎を纏っていた。
「あぁ、あぁ、に、逃げろッ!」
男達は一目散に逃げ出した。
「ふう」
俺はため息をつくと、ダイアに手を差し伸べた。
「立てるか?」
彼女は無言で頷き、少しよろめきながらも立ち上がった。
「…あなたは、一体…?」
「そういえば、名乗ってなかったな。俺はリク。一応魔剣士だ。」
その言葉を聞いて、彼女の表情が少し変わった気がした。