テトリスと麦茶と汗と
「おっはー。テトリスしよー」
土曜日の朝8時。まだ寝たい体を無理やり起き上がらせてハンコを持って、宅配に応えたはずだった僕はもう一度玄関のドアを閉め
「ちょ!待て待て!」
「え、誰ですかマジで。やめてください警察呼びますよ」
なんて力の強い女だ。ゴリラか。
「ちょっとー。誰がゴリラよ。酷いなあ。これでも幼なじみだろーー」
「心読めんの?!」っていうか、なんでわざわざ土曜日から早起きしないといけないんだ。テトリスとか言ってるけど、どうせ
「クーラーが壊れたとかだろ…」
そう呟くと、暑そうな日照りの下ニヤリと笑った君は「せいかーい」と、甲高い声でピースを突き出した。
「だからさー、お願い!」
必死に頼む君の姿に少し照れたとかそんなんではなくて、家に入れない理由も特になかったし、ただ玄関の温度に耐えられなくなっただけ。
バタンッ
「あ、麦茶しかない。」
とりあえず何か飲み物を出そうと思って冷蔵庫を開けてみる。
「…」
後ろからついてきていた幼馴染はじとーっとこちらを見た。
「なんだよその目。…じゃあ青汁とー…ぁ、熱々の味噌汁なら出せるけど。どっちがい「麦茶大好きです。サイコー。」…はいはい」
とりあえず冷えた麦茶を二人で部屋まで運んで、アクションゲームをはじめてみる。何故か全く喋らなくなる隣の女。
「お前弱すぎ」
「…ぇ、あ!うるせぇ!」
話聞いてんのかよ。
「なに?悩み事?」
お前の元気がないと、こっちの調子も狂ってくるんだけど。
「ふみやってさー」
「ちゅーしたことある?」
「………」
「私はないよ。」
いきなり何を聞きだしたかと思えば、自分の謎のカミングアウトまでいれてくる。脳みそがついていかないのは、暑いからとかそんなんじゃないはず。
「え?いや、ちょっと待って」
「ん?」
「いやいや、いきなりどうした」
「そのまんまだよ」
何言ってんの?みたいな顔でこっちを見るな。…というか、これは期待するやつなのか?そうなのか?!
「うぉらっ!よっしゃー私の勝ちィー。
…で?」
画面には負けた俺のキャラクターが倒れ込んでいる。そんなことも気にならなくなってるぐらい脳みそが沸騰している。
「俺彼女できたことないし、ないけど。」
「ふーん。」
違った。聞いといて ふーん って…
ばかやろう。
少し恥ずかしくなって、コップに入った麦茶に手を伸ばす。
「…じゃあ私としようよ」
「…っぶはッ」
「ちょ!汚い!!」
むせ返る。
テトリスと麦茶と汗と君の匂い。