第8話「犬飼と雅彦」
現代転生の御曹司
2014/8/12投稿
いつも読んでいただきありがとうございます!一話の花屋敷が自己紹介する場面に”ロングヘアーで巻き髪のいかにもお嬢様という感じの女だった。”という一文を付け加えました。
木曜日の放課後。体育委員会があるので俺は珍しくやる気に満ちていた。
今日話し合うであろう運動会で、前世で俺のことをノロマやらウンチやらと馬鹿にしてきた奴らを見返すチャンスだからだ。
実は保育園時代は怪我をするからと言って母が出場させてくれなかった、恐ろしく過保護な母だが狗神が俺についてからはその過保護ぶりは無くなった。
昨日試しに運動会の話を夕食の席で出してみたが、止められるどころか応援された。
まぁ、見返すと言っても今の学園の奴らと昔俺を馬鹿にしてきた奴等とを重ね合わせた、ただの自己満足でしかないが。
もし俺が樫宮慊人ではなく前世のままならば、今の学園の奴等は確実に俺を馬鹿にしてきただろう。
そう考えれば今の学園のやつらを見返すと言ってもおかしくないのだ。
「なんか、慊人きげんがいいね。今日のごはんはハンバーグ?」
確かに俺はハンバーグが好きだが、夕食がハンバーグなくらいで……、いやなるが。それはいい。
「今日は体育委員会の日だろ。運動会のことを話し合うと思うとな」
「保育園のとき、運動会は休んでたから、ぼくと同じできらいなのかと思ってたよ」
どうやら結城は昔の俺と同じく運動が嫌いらしい。
そいえばこの間教室で得意ではないと言っていたな。
俺はそんな結城が好きだ。
「お前はそのままでいてくれ……」
「う、うん。よくわからないけど、わかったよ」
「あーでも、約束通り特訓はするので期待してくれ!」
俺は結城に特訓すると言ったことを思い出した。そう、勝利の誓を果たすために。
「慊人のことだからわすれてると思ったのに……」
おい、この前は鴻巣の俺に対する鳥頭発言に怒っていたのに、結城さんも俺のこと鳥頭だと思ってますよね!?
……否定は出来んが。
結城にはお互いの委員会が終わったらロイヤルルームで集合しようと伝え、同じく体育委員の女を探した。
確か高比良か。下の名前は忘れたが、仲がよくのない女を下の名前で呼ぶこともないので問題がない。
まぁ、そこそこ仲良くなったと思った女を下の名前で呼んだら凄く嫌がられたが。女は苗字で読んだほうが無難かもしれん。
高比良は気の強そうな顔をした奴で、髪の毛はショート程ではないが短めに切りそろえていた。
お嬢様喋りだが、同じお嬢様喋りでも明るくて泣き虫だけど温厚な花屋敷とは対照的なイメージを受けた。
俺がクラスを見回すと高比良は既に俺の近くにいた。俺が結城と話し終わるのを待っていたのかもしれない。
「慊人様そろそろまいりましょう」
「ああ、そうだな」
俺達は並んで教室を出た。
「高比良、お前は運動が得意なのか?」
「そうですわね、運動にはじしんを持っていますわ。ですから体育委員に、りっこうほしましたの」
自ら立候補するぐらいなら期待出来るか。
体育委員会の教室に着くと、中には学級委員会の半分くらいの人数がいた。
俺達が席に着くと少しすると会は始まった。
「俺は谷垣だ、運動会が近いのでその説明をしたい。みんな自己紹介は立って名前だけ言ってくれ」
筋肉質の教師が、大きな声で俺達に指示する。
あっという間に自己紹介が終わると数枚のプリントが配られた。
……今回もまともに自己紹介出来なかったな。もういい。俺は自己紹介では名前しか言わない。
プリントに視線を落とすと、運動会のルールと種目が書かれていた。
「ルールは低学年と高学年は別々で、AからE組の学年混合チームで争う。競技自体は同学年同士で競うから心配しなくて良いぞ。
一人複数の競技に参加してもいいが、必ずクラス全員が競技に参加するようにしてくれ。競技の種類は、50M走、100M走、玉入れ、借り物競争、障害物競争、騎馬戦、1000Mリレーだ。最後のダンスは全員参加で、競技ではない。
点数は1位の組が3点、2位が2点、3位が1点で、騎馬戦とリレーだけは点数が2倍になる。以上質問はあるか?」
谷垣教諭に質問する人間はいなかった。なんか無駄に厳ついし、ここに集まった低学年の奴らには怖いんじゃないだろうか。
「質問がないのら、今日は以上で解散だ。来週の木曜日までには誰がどの競技に出るか決めて体育委員会で提出してくれ」
何だか寂しそうな表情をして谷垣教諭は解散にした。
「それじゃあ高比良、俺寄るところあるから」
「うわさの王室ですわね。わたくしも花屋敷さんたちのように、ごしょうたいされたいですわ」
「ん?うーん。結城や雅彦次第だが、あんまり無闇に使わせるつもりもないんだ。悪いな」
ずうずうしい奴だな。今日初めて話した相手を用もないのに呼んで何をするんだ。
「そうですか……、ざんねんですわ」
「まぁ、高比良に何か用があれば呼ぶこともあるだろう。それじゃあな、結城を待たせてるんだ」
「はい、おひきとめしてすみません」
高比良は俺が苦手なタイプだと俺の勘が言っている。断った時一瞬怖い顔をしたのを俺は見逃さなかったのだ。
そういえば、こいつも旧五大名家なんだよな、あんまり子供だと舐めない方がいいかもしれない。怖いのでとっとと結城の所に行こう。
ロイヤルルームの廊下に差し掛かるとまた、雅彦の兄の執事である犬飼がいた。
また逃げ出すのかと思ったら、今回は俺に話しかけてきた。
「樫宮様どうかお願いいたします! 私を! 部屋の! 中に! どうか!!」
大きな声で懇願しだしたと思ったら、土下座を始めた。なんなのこの人。
「そう言われても雅彦が嫌がるしな。それに狗神が中に入れないってことは、入れない方が良い人間なんだろうと思っている」
「このままでは私はクビです!雅彦様の兄である八尋様は厳しい方なのです!」
「部屋に入れないくらいで?そんなのいくらでもごまかせるだろ」
「今まではもちろんごまかして来ました!ですが今日ボイスレコーダーを持たされまして、これで部屋での樫宮様との会話を録音してこいとの命令がでまして……」
そういって頭を下げながらボイスレコーダーを見せてくる。こいうのってこっそりやることだろ……、なりふり構ってられないのか。
「おそらく私の報告を疑っているのです!我が家は代々斎藤家の執事をしてきた家なのです、もしここでクビになれば一族の恥として扱われ、まともな生活は送れなくなるのです! どうか! ご慈悲を!」
なんか可哀想になってきたな、そうだなこいつを使って雅彦を家の中で有利にする事が出来るかもしれない。雅彦当主計画をこいつを使って裏で進めれないだろうか。
「狗神どう思う?」
俺がそう問うとどこからともなく狗神現れた。こいつ何時もどこにいるんだよ。
「私は反対ですね、私の調べたところによると斎藤八尋はそこそこの糞野郎です。そんな奴の執事を慊人様には近づかせたくないですね」
「雅彦はその弟なわけだが……」
「犬飼は八尋様の犬なので信用できませんが、雅彦様はいわば被害者。それに雅彦様は私の目から見ても優秀な人間に成長する可能性が高いです。慊人様と友人関係ともなれば八尋様のようになることもないでしょう」
俺にそんな影響力があるだろうか怪しいところだが、雅彦は狗神から見ても高評価らしい。
「俺に考えがあるんだが……」
俺は雅彦当主計画のことを狗神に耳打ちをする。
「なるほど、それは面白いですね。さすが慊人様です。この計画が成功すれば樫宮のためにもなるでしょう」
「計画?」
取り敢えず土下座しながら不安そうな顔をしている犬飼を部屋へ招いた。外で話していると誰かに聞かれているかもしれないしな。
中には結城と雅彦がいた。二人とも俺よりも早く委員会が終わっていたようだ。
「二人とも早いな」
「慊人はおそかったね、って犬飼さん?」
「慊人! なんで犬飼を!?」
「少し考えがあってな、本当は運動会の話をしたかったんだが、取り敢えず犬飼の事について斎藤を交えて話し合いたい。っておい犬飼、レコーダーをオンにするな!追い出すぞ!」
部屋に入れると早速ボイスレコーダーをオンにしようとしていた。雅彦にとって不利な会話が録音されると厄介なので狗神に取り上げさせる。
「あぁ……、そんな!それでは何故私は部屋の中に……」
「それを話し合おうって今言っただろうが!」
「そ、そうでした!申し訳ありません!」
次やったら本当に追い出してやる。
「単刀直入に言う。犬飼、雅彦の側に付け」
「なっ、私に八尋様を裏切れと言うのですか!?」
「別に裏切る必要はない、八尋の命令は雅彦が不利ならないようにこなせばいい。出来るだろ?」
「それは可能ですが、ばれれば私はクビですよ!」
「俺達が協力しなければどの道クビだぞ、それに俺は雅彦の方が当主に相応しいと思っている」
「樫宮様本気ですか?確かに私も雅彦様の方が当主に相応しいとは思いますが、それは内政干渉ですよ。それに雅彦様のことを考えれば得策とは……」
「そうだぞ慊人、おれは家をつぎたくない!」
二人は俺が思っていた以上の反発を見せた。
「判っている。保健だよ保険。まだ小学1年生だぞ、なにが起こるか判らない。それに犬飼が雅彦に不利ならないように立ち回れば当主にならなくても家での立場は相当に改善されるんじゃないか?」
「んー、それもそうか。今まで兄のしつじだからきらっていたけど、それなら悪くはなさそうだな」
「先にも言いましたが、私の家は代々斎藤家に仕える身。例えクビになろうとも……」
犬飼は思ったよりも忠誠心がある男のようだ。さっき雅彦の方が当主に相応しいと本音をこぼしていたのに、兄の八尋を裏切ろうとしないとは少し見直した。
「犬飼、雅彦も八尋と同じ斎藤家の人間だ。そのうえ樫宮の次期当主が贔屓にしている。この事実お前ならわかるな?」
「なるほど、確かにその通りですが、やはり優先されるのは現当主と次期当主。これは譲るわけには」
「おれは、全然わからないんだが」
俺は雅彦の疑問に答える。
「どうやら八尋は評判がよろしくないらしいからな、今の所悪い評判もなく俺と仲の良い雅彦を次期当主にしようという声は必ず上がるということだ」
「えー!やだよ!」
雅彦から聞いた話では、俺と仲良くなったことで、家族はおろか周りの人間の対応もかなり良くなったという話だ。既に水面下では雅彦を当主にという動きがあるのかもしれない。
この可能性を考えず俺に近づけた八尋は馬鹿だな。
まぁ大きい家に生まれた宿命だ、あきらめろ雅彦。
「そうだな、雅彦の側に付けと言ったが、雅彦を優先する必要はないな。しかし継承権が無いわけではないんだ、多少雅彦を気に掛けたところで斎藤家に対する裏切りにはならない」
「そうですね、わかりました。流石樫宮の次期当主ですね、言い包められましょう。ただ雅彦様に不利ならない報告をするのは良いのですが、やはり私は八尋様の執事ですので裏切るような行動は出来るだけ控えたいのです。
そこで私の妹を雅彦様の執事に推薦したく思います。妹は八尋様を嫌っていまして、斎藤家に仕えさすことは諦めていたのですが現状であれば、樫宮様のお言葉添えがあれば雅彦様に付けることも可能でしょう」
「お言葉添えね、狗神電話」
そう言うとすぐに狗神が俺にスマートフォンを渡して来る。数コールして母が電話に出た。
「どうしたの慊人さん?電話してくるなんて珍しいわね」
「お母様お忙しいところすみません。実は相談がありまして」
「何かしら?」
「実は俺が仲良くしている斎藤雅彦のことなのですが、正式な執事が付いておらず、監視目的で兄の執事がうろついていて目障りなのです」
「そう、その執事をクビにすればいいのね?」
「いえ、クビにする必要はないのですが、雅彦に私の推薦する人物を執事に付けるよう斎藤家に話をしてほしいのです」
「わかったは、話はそれだけ?」
「はい。ありがとうございますお母様。愛しています」
「私もよ慊人さん、それじゃあ切るわね」
電話を切って狗神に渡すと、犬飼が泣きそうな顔をしていた。
「樫宮様酷いです!目障りだなんて!クビだなんて!」
「ちゃんとクビにしなくて良いと言ったじゃないか、もしこの件でクビになったら家で雇ってやるから安心しろ」
「全然安心出来ないのですが……」
犬飼が情けない声を出すが、クビにしなくて良いと言ったのだから恐らく大丈夫だろう。
「おーいなんか俺置いてけぼりなんだけど、なんだかせっかく収まった兄との仲が悪くなりそうで気が重たいぞ」
そういえば、雅彦の意見を聞いていなかったな。
「大丈夫ですよ雅彦様、妹は恐ろしく優秀ですので。それに樫宮様の推薦付きともなれば八尋様は何も出来ないでしょう」
「それならいいんだけど、まぁ前とくらべれば、どうなっても天国か」
雅彦はついこの間までの不遇を思い出しているのか、遠い目をした。納得してくれたようでよかった。今更母にやっぱやめとは言いづらいしな。
それにしてもやっと運動会の話が出来るな。