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第7話「微笑み」

現代転生の御曹司


2014/8/07投稿


「それでは、全員集まったようなので学級委員会をはじめます。私は学級委員会長の5年の古賀です。よろしくお願いします」


 俺達が最後だったようで、俺達が席に着くと会はすぐにはじまった。それにしても古賀ってどこかで聞いたことがあるな。

 そうだ、たしか旧五大名家の一つだ。確か、白藤はくどう、 嘉手納かでな、 高比良たかひら、 古賀こが、 千歳ちとせだったかな。

 結城の家が名を連ねているのでこちらはハッキリと覚えていた。

 苗字が同じだけだという可能性もあるが、この学校で学級委員会長などやっているのだ、おそらく五大名家の古賀だろう。



「そうだな、まずは自己紹介をするか。1-Aから順に頼む」


 1-Aは俺達だった。いきなりか。

 学級委員会が行われている場所は大きく、大学の教室のようになっていて生徒の数も結構な人数がいる。

 単純計算すれば全学年5クラスずつあるので60人と教師1人か。長い自己紹介になりそうで俺は少しため息が漏れた。


 俺は肘で鴻巣を突いて先に自己紹介をするように促す。レディーファーストというやつだ。

 鴻巣は不満そうな顔を向けながら立ち上がってその場で自己紹介をはじめた。


「はじめまして、鴻巣璃々葉と申します」


 鴻巣が名前を言うと教室が少しざわついた。


(あれがうわさの鴻巣なんだ)

(入学の噂は本当だったんだ)

(かわいい結婚したい)

(たしか樫宮の長男も今年入学しているんだよね)

(今年の1年は凄いね)


 御三家で五大名家でもないのに、鴻巣の家は中々に有名なようだった。


「まだまだみじゅくですが、良いクラスを作って行けるよう、がんばりますので、せんぱいがたも力をかしていただけるよう、おねがいいたします」


 教室のざわめきなど気に留めた様子もなく、通る声で鴻巣は自己紹介を終えた。鴻巣が席に座るのを確認して立ち上がる。


「えー樫宮慊人で――――」


 す。俺が一言言い終わる前に、先ほどとは比べ物にならないざわめきが教室を包む。



(樫宮も1-Aなのか!?)

(あれが樫宮の……)

(かわいい結婚したい)

(あれが”暴君”か)

(やばいらしいね)

(初等部の新校舎の屋上に城を構えているらしいよ)

(王室だっけ)

(お近づきになりたいですわ)

(樫宮様!)

(流石慊人様です、皆様の注目の的ですね)


 流石に気にせず自己紹介を続ける空気ではなかった。

 って、おい。今狗神の声が聞こえたぞ。


「みんな静かにしてくれー!有名な家の奴が入学してくるなんて、この学園じゃ珍しいことじゃないだろ。人数が多いんだ、早く自己紹介を終わらせてしまおう」


 古賀の発言でようやく教室が静まる。やっと自己紹介を続けることが出来るな。


「よし、次は1-B頼む」


 しかし俺の自己紹介は続けることは出来なかった。終ってしまった。下の名前で呼ぶよう頼もうと思ったのに。

 ついさっき廊下で自分の心に誓った事を果たすことは出来なかった。


 その後は順調に自己紹介は進んでいった。気になったことと言えば1-Dの九条くじょうって奴か。

 声は暗く、テンションは低い。見るからに根暗な感じの奴で、髪の毛は手入れをしているとは思えない伸び方をしていた。

 とてもこいつが御三家の九条とは思えなかった。噂も聞かないし、自己紹介の時も静かなものだったことから、恐らくたまたま同じ苗字なだけだろう。


 今日は自己紹介だけで解散になった。どうやら毎週火曜日にあるようだ。兼任している委員の集まりは木曜日にあるようで、そちらも忘れずに出るように古賀は釘を刺した。

 次こそはちゃんと自己紹介がしたいものだ。


 俺達が教室の出口に向かうと、教壇で皆を見送っていた古賀から声を掛けられる。


「二人ともすまなかったな。みんな悪気はないんだ許してくれ」

「わたしは気にしていません」

「俺も気にしていませんよ、それに古賀先輩が謝ることではないですよ」

「そいって貰えると助かる。何かあったら言ってくれ、出来る限りは力になる」


 中々古賀先輩は感じの良い人だった。なんというか、旧五大名家でありながら金持ちから感じる威圧感とか高慢さとかそういったものを一切感じないのだ。

 結城と少し似たタイプだなと思った。


 教室を出たところで俺は鴻巣を部屋に誘った。鴻巣が自己紹介したときのざわめきが少し気になったのだ。


「家で花に水を上げなければいけませんので……」


 っと適当な理由で断ろうとする鴻巣を引っ張って部屋に向かった。

 そんなこと使用人にやらせておけ。


 部屋のある廊下に差し掛かると、雅彦の執事である犬飼が部屋の扉に耳を当てていた。

 俺達に気付くと慌てて逃げていった。俺は見なかったことにした。


 部屋に入ると結城、雅彦、花屋敷が中央の円卓で紅茶を飲んでいた。

 俺達の分の紅茶も狗神によって既に用意されており、入るなり席に通された。 

 お前さっきまで俺達と一緒にいたよな?教室で声聞いたよ?


「お前たち暇人だな」


 のんきに紅茶を飲んでいる3人に声を掛けて席に座る。


「そんなことないぞ、これでもいそがしいんだ。ただ慊人をりゆうにすれば、習い事をサボろうが、おそく帰ろうが全くおこられないんだよ、本当に慊人様様だ」

「僕もずっと慊人といると思われてるから、何してても特に何も言われないかな。それにここに来るのは、もうにっかだよ」

「わたくしは毎日璃々葉と帰っていますので……、でもまさか璃々葉がこちらに来ると思いませんでしたわ」

「呉羽をむかえに来ました。帰りましょう」

「嘘を付くな、嘘を。お前花屋敷がここにいるって知らなかっただろうが。少し話があって俺が引っ張ってきたんだ」

「そうでしたか……」


 結城と雅彦はもう完全にここの住人だな。

 鴻巣は早く帰りたくてしょうがないようなので、すぐに本題に入ることにする。


「学級委員会でのことが気になってな。五大名家に名を連ねているわけでもないのに、結構有名なようだな?」

「そのことですか。わたしの家は言うならば、うらのかぎょうによって力を付けてきたのです。ひとによってはきょうふをもったり、いやなきもちをもったりするのでしょうね」


 鴻巣は渋い顔をしながら、自分の家のことを話す。もしかしてあまり話したくないことなのかもしれない。

 花屋敷はそんな鴻巣の様子を見ると、手を握って「わたくしは何があっても璃々葉の味方ですわ!」と励ましていた。

 とはいえここまで聞いてしまったら同じことだ。


「裏の家業っていうと……、ヤクザの組長の娘とかだったりするのか?」


 極道の娘とかかっこいいな。積極的に関わり合いにはなりたくないが。


「そういったひとたちをまとめてはいますが、ぼうりょくだんというわけではありません。ちゃんとしたしごともやっています」

「私から一言付け加えると、鴻巣家は表の方だけではそうでもありませんが、裏の顔も含めれば御三家に匹敵する力を有する御家です」


 狗神が鴻巣の言葉を補足する。そうだったのか、結構凄いんだな鴻巣の家って。


「そうか、鴻巣も結構大変なんだな、ま、頑張れよ」


 疑問が解消して満足したので、適当に鴻巣を励ましておく。


「慊人様、璃々葉のことをしんぱいして、はげまして下さるのですね!なんておやさしい」


 適当に励ましただけなのに、花屋敷は感動していた。当然それを察している鴻巣は微妙な顔をしている。


「しかし慊人は本当にこういうこと知らないんだな。もっと知っておいた方がいいんじゃないか?」

「子供のうちは知りたいときに知れれば良い。余計な知識があると変な偏見を持ったりしてしまうからな。先に鴻巣の家の事情を知っていれば暴力団との関係を恐れてこうして喋ることも無かったかもしれない」

「そういうものか?」

「ああ、お蔭で俺はこのように全然鴻巣が怖くない」


 俺は雅彦に証明するように隣に座っている鴻巣の頬を突っついて見せた。


「やめてください」


 三回くらい突いたところで嫌そうに手をはたかれてしまった。怒ったかな?と思い表情を伺うと鴻巣は微かに笑っていた。


 あまりに微かすぎて気のせいの可能性もあるが、初めてこいつの笑顔を見たなと俺は思った。


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