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第6話「鴻巣と歩く」

現代転生の御曹司


2014/8/05投稿


いつも読んでいただいてありがとうございます!


「おはよう」


「慊人様おはようございます」

「慊人様ごきげんよう」


 雅彦達と和解してから2週間が経った。雅彦は上手く立ち回ってくれたようでもうクラスに変な緊張感が走ることはなかった。

 雅彦は本当に将来有望な奴だ。是非とも兄に下剋上させたいものだが、この話を出すと雅彦は目に見えて嫌な顔をするのであった。


「おはよう、慊人。あいかわらずギリギリだな、もっと早くこれないのか?」

「おはよう慊人、雅彦の言うとおりだよ、もっと早くきなよー」

「ごきげんよう慊人様。お二人の言うとおりですわ、もっと早くいらっしゃれば、たくさんお話できますのに」


 席に座ると、雅彦、結城、花屋敷の順で話しかけてくる。結城は雅彦のことを、俺と同じく下の名前で呼ぶようになっていた。俺以外信じれないと言っていたが、良い傾向なのかも知れない。


 あれ以来結城だけでなくこの二人が朝と放課後に話しかけてくる事が多かった。

 あの時俺の友達申請を拒否した鴻巣は、決まって花屋敷の隣の自分の席で静かに座り、たまに俺の事を睨みつけくる。こわい。


「三人ともおはよう。俺は朝は出来るだけゆっくりするタイプなんだ、勘弁してくれ」


 前世では早く教室に着いたところでろくなことがなかった。そのため俺は予鈴近くに教室に入る癖が付いてしまっている。

 とは言っても学校の近くに車を停めて、本を読んでいるのだが。


 チャイムが鳴り、坂条教諭が教室に入ってくる。

 花屋敷は俺の前の席。結城は俺の隣。雅彦はドア側2列目の先頭の席へともどっていく。

 教室の座席は横に5列、縦に6列(一列だけ5列)となっていて、入学式の時に適当に座ったままの席順であった。

 この学園には席替えが無いのかもしれない。


 休み時間になると、結城と雅彦が席を寄せてきて下らない会話に花を咲かす。これも既に日課となっていた。

 休み時間花屋敷は基本的に鴻巣と話をしている。虐め問題が解決してもあの二人は特に他の女子と仲良くなることもなく、二人だけの世界を作っていた。


「ゆりの花が見えるな」


 俺が二人を観察していると、それに気付いた雅彦が視線を向けて呟く。その年で百合が判るとは雅彦は本当に侮れない男だ。


「わかるのか、雅彦」

「兄がそういうのが好きなんだよなー」


 なるほど、兄の影響か。斎藤兄ってオタクなのかもしれない。なんかイメージ変わるな。

 そして結城の頭にはクエッションマークが浮かんでいた。


 そんな話をひそひそとしていると、呆れた顔で鴻巣がこちらを見ていた。やだ、鴻巣って地獄耳。

 怖いので教室で二人の話をするのはやめようと心に誓った。



「そういえばもうすぐ運動会だな、おれ運動はとくいだから楽しみだ」

「あれ、運動会って秋にやるんじゃないのか?」


 斎藤の発言に俺は少し驚く、運動会といえば秋というイメージが俺にはあるのだが。


「慊人、ぜんぜん先生の話きいてないよね、秋には球技大会があるって話だよ」

「それは楽しみだな」


 少し呆れたような結城の言葉に俺の心は躍った。前世では全然運動が出来ず、運動会なんて憎んですらいたが……。

 今の俺は恐ろしく運動神経が良い。まるで自分の物ではないように体が軽いし、イメージした通りに体が動くのだ。

 努力では補えない才能の壁を俺は体を動かす度に感じていた。

 出来ないとあんなに詰まらないのに、上手く出来るとこんなに面白い事は無かった。


「慊人も体育好きか。気が合うな!」

「僕はびみょうだな、運動はとくいじゃないからね」

「俺はこのクラスの学級委員なうえに体育委員だからな、俺が率いてやるからには絶対に勝つ。結城も種目が決まり次第特訓だな」

「えー、とっくんなんてするの?っていうか慊人がそんなにやる気を見せるなんてめずらしい」

「俺は負けるのは嫌いだ」


 敗者はいつだって惨めだ。例えば殺されて、その家族が路頭に迷うくらいにな。

 俺はもう絶対に負けるつもりはない。それが運動会でもな。


「さすが慊人だ!おれもがんばるぞ」

「まぁ、ぼくもやれるだけのことはやるよ」


 まだ種目も決まっていないし、ルールも理解していなかったが、俺達は団結した。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 放課後、珍しく鴻巣が俺に話しかけてきた。


「慊人様、行きましょう」

「は?どこへだ?」

「……今日のほうかごは、学級委員会があります」


 そういえば坂条教諭がそんな事を言っていたのを胡乱げに思い出す。


「そいえば、そうだったな案内は任せたぞ璃々葉」


 俺は悪戯に鴻巣の下の名前で呼んでみた。

 実は俺はあんまり苗字で呼ぶのが好きではないというのもあった。家が大きいと色々とややこしいのだ。


「おふざけになるのはその、鳥頭だけにしてくだい。私のことは鴻巣とおよびください」


 怒ったような顔で鴻巣が拒否してくる。そんなに下の名前で呼ばれるのが嫌なのか、なんか意地でも呼びたくなってきたな。

 あと鳥頭は酷いぞ!否定できないけど!


「鴻巣さん、鳥頭はないんじゃない?慊人のことバカにしてるの?」


 俺が鳥頭と言われたことに対して、結城が反発する。

 これちょっと怒ってるな。温厚な結城にしては珍しいことだ。


「否定できないところが辛いところだな。まぁ嫌なら辞めておこう」

「ありがとうございます。すみません少し言いすぎました」


 結城の機嫌が悪くなってしまったので今回は引き下がることにした。

 正直鴻巣から謝れても心が籠っていないように感じるから不思議だ。

 そのせいかまだ少し結城が不満そうだったので俺は切り上げて、鴻巣と二人で学級委員会に向かうことにした



 「鴻巣、お前結構口が悪いな」


 放課後になって騒がしくなった廊下を鴻巣と二人で歩く。どうやら学級委員会が行われるのは学園の中央にある生徒会棟の中にある教室で行われるらしく、初等部の教室からは渡り廊下を使って中等部を経由して行かねばならず、結構な距離があった。


「慊人様が下の名前をよびすてるからです。慊人様はもう少しご自分のえいきょうりょくを、にんしきしていただきたいです」

「下の名前で呼んだくらいで何を言ってるんだ、ちゃんと自分の立場くらい理解している」


 そもそもお前も俺の下の名前で呼んでいるじゃないか。呼び捨てではないが。

 まぁ理由は俺が保育園で苗字で呼ばれるのを嫌がったかららしい。そのうえ、そのことを顔の広い雅彦が広めた結果、同じ学年で俺の事を苗字で呼ぶ奴はいなくなったらしい。


 今でも俺は樫宮と呼ばれるのはあまり好きではない。この名前はちょっと重たいのだ。

 そういえば花屋敷が泣き出してしまったせいで自己紹介で下の名で呼ぶよう頼むのを忘れていたな。次自己紹介の機会があれば自分の口から伝えよう。


「それでしたら、呉羽と私にだけ声をかけるのをおやめ下さい」

「別にお前らだけと喋ってるわけじゃないだろうが」


 俺が反論すると鴻巣は俺を少し睨んで黙ってしまった。何が言いたいんだこいつは。

 まだ生徒会棟まで距離があるというのに。特に仲の良くない女との沈黙の道のりは、中々に居心地が悪く、俺は仕方なくまたこちらから話しかけることにする。


「黙るな鴻巣、気まずいだろ。そうだな、何か面白い話でもしてくれ」

「なんですかそれは……、そんなこと言われて本当におもしろい話をしたにんげんを聞いたことがありません。それに、わたしはぜんぜん気まずくありません」


「……可愛げのない奴め。鴻巣って本当に小学1年生か?留年とかしてないか?」

「どうやったら初等部で、りゅうねん出来るんですか。子供らしくないのは慊人様も同じではないですか。慊人様は樫宮なのですから、とうぜんだとは思いますが、私の家もかなり大きいのですよ」


 当然?鴻巣は妙な事を言うな。俺は前世の記憶を持っているからそう感じるのだと思うが。


「なぜ樫宮だと当然なんだ?」


「知らないのですか?樫宮のような大きな家は幼少の頃よりとくべつな教育を受けています。また血筋も、えいきょうしていると言われていますね。大きな家の子は、だいたい小学校に入るころにはそれなりに大人びているらしいのです。だからでしょうね、慊人様が白藤様や斎藤様となかよくなさるのは。ほかのクラスメイトよりもあの二人は大人びていますから」


 なにそれ、金持ち凄い。それにこわい。

 確かにあの二人とは、他の奴に比べて気が合うし話しやすいと感じていた。


「たしかにあの二人は小学一年とは思えない違和感のようなものを感じていたが、そんな理由があったのか。あ、でも花屋敷は子供っぽいよな?」

「呉羽は少し泣き虫ですが、ほかの子にくらべればしっかりしていますよ。それに花屋敷は……」


 鴻巣が少し言い淀んだところで目的の教室の前に着いた、続きが聞きたかったが同時にチャイムがなってしまって俺達は急いで教室に入った。

 時間に余裕はあったはずだが、話しながらだったので無意識に歩く速度が遅くなっていたようだ。


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