第4話「斎藤雅彦」
現代転生の御曹司
2014/7/30投稿
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放課後のロイヤルルームで俺は結城と狗神が入れた珈琲を飲んでいた。
鴻巣が部屋に乗り込んで来てから1週間、俺は花屋敷とクラスの様子を注意深く観察していた。
その事について今日は結城と話し合う事にしていた。
「結論として花屋敷は虐められていない。これは鴻巣に抗議をしなければならないと思うのだがどうだろう」
「ええ……、慊人の目ってふしあななの!?あからさまにみんなからさけられていたと思うんだけど」
……どうやら結城の目からは花屋敷は虐められているように映っているらしい。
「結城の報告を聞こうか」
「花屋敷さんを見てみんなで笑ったり、授業中にけしゴムのカスなげられたりしてたよ。このままだと花屋敷さんに話しかけている鴻巣さんもターゲットになっちゃうかも」
「……なぁ結城。それって虐めなのか?人間気に入らない奴の一人や二人はいるだろう。その程度の事を虐めだと騒いでたらきりがないと思うんだが」
どうやら俺と結城の間には虐めの定義に対する齟齬があるようだった。大体それが虐めなら俺が生前やられていたことはなんだ、とても同列には語れないぞ。
「うーん、でも、もっとひどくなる可能性は高いよ。慊人がいないときに斎藤が慊人の名前を使ってクラスを仕切りだしているしね、あんまりいい感じはしないね」
「なんでそこで俺の名前が出てくるんだ」
「慊人は保育園の頃からみんなにおそれられているしね、それに樫宮には逆らうな。取り入れって、どこの家でも子供に言い聞かせてるだろうし、それを斎藤が利用しているんだと思うよ。」
そんなの初耳だ、勝手に人の名前を使うな。
それに何で恐れられているんだ、周りから見て俺ってどんな感じなんだ?家の権力を傘に着て偉ぶっているバカ息子みたいな評価だったら嫌だな……。
「それで、その斎藤はどんな奴なんだ?」
そう問うと、「それは私から」と狗神が会話に入ってきた。
「まず斎藤家について、簡単に説明いたしますと、斎藤家は樫宮、櫻田、九条の御三家に続く新五大名家の一つです。
新五大名家とは近代に入って力を付けてきて成り上がった御家を指します。旧五大名家との力関係は現状拮抗していますが、
旧世代の方が若干押され気味のようです。新五大名家の構成は、斎藤、有栖川、常盤金成、七瀬、服部です。
新といっても斎藤、常盤金成、服部は古くからある御家ですけどね。」
「御三家とか名家とかの話はどうでもいい」
「慊人様、こういったことは次期樫宮家当主しては重要なことですよ。こういった御家同士の力関係が、少なからず人間関係にも影響を及ぼすのです」
「わかった、わかったから続けてくれ」
狗神が真面目な顔をして迫ってくるので少し怖かった。
「つまり、斎藤様も樫宮ほどではないですが、それなりの御家なのです。それに慊人様の名前が加われば誰も逆らえないでしょう」
「斎藤は新五大名家なんだろ?俺の名前を使わなくてもなんとかなるんじゃないか?」
「それは、斎藤様が慊人様に気に入られたくて行動しているからだと考えられます。恐らく慊人様の気に入らない人間を虐めて、忠誠を示しているのでしょう」
「そんな勝手な話があるか!俺に気に入られたいのなら、俺の意思を確認するのが筋だろう」
「言われるまでもなく動く事で、目に留まろうとしているのではないかと」
「つまり俺は、そんなことで喜ぶ人間だと思われているってことか」
「そのようです」
心外だ!
「ぼくも狗神さんの言うとおりだと思うよ、斎藤って保育園の頃から慊人を気にかけてたし。慊人があまりにも相手にしないから、かわいそうなくらいだったよ。たぶん相手にしてほしくてやってるんじゃないかな」
俺は保育園時代何かと用はないかと聞いて来たり、近くをうろ付いていた奴の事を思い出した。
「そういえば、俺の周りをうろうろしていた奴がいたな……」
「おそらく斎藤様もご両親から慊人様と仲良くするように強く言われているのでしょう」
話を聞いてると全て俺のせいみたいじゃないか!気分が悪いぞ!
まぁ勝手に斎藤の行動について予想したところで埒が明かない、俺は斎藤に直接話を聞くことにした。
「狗神、斎藤をここへ呼べ」
「かしこまりました」
15分ほどすると、狗神が斎藤を連れて部屋に入ってきた。
帰宅していたようで私服だ。
気の強そうな顔をしていて髪は短く運動が得意そうな少年で、保育園で俺の周りをうろついていた奴だった。
表情は固いが、嬉しそうに部屋を見渡している。嬉しさ半分、不安半分といったところか。
「あ、慊人様。慊人様におうしつに、入れてただけるなんて、うれしいです!ありがとうございます!」
王室って……、そんな風に言われてるのかこの部屋は。まぁロイヤルルームって外に書いてあるし間違ってはいないか。
俺の名前を使って虐めをしていたことを叱りつけようと思ったが、斎藤の嬉しそうな顔を見て気分が削がれてしまった。
どうやら、狗神と結城の予想は当たっていたようだ。
「斎藤。お前が俺の名前を使って虐めを行っているという噂を聞いた」
「そ、そんなごかいです。たしかに慊人様の名前は出したけど、いじめなんてしていません!」
「花屋敷と鴻巣が虐められていると聞いたが?」
「それは……、おれは花屋敷に慊人様にあやまりにいって、二度と慊人様に近づくなと言いましたが、いじめについては何もしりません!」
なんか話が食い違ってきたぞ。嘘を付いているのか、自覚がないのか……。
「クラスメイトにも慊人様のことをはなして、逆らうことのないよう言ったり委員長にすることなども決めましたけど……」
「どんな話をしたんだ」
「保育園で白藤をいじめていたやつを血まみれにした話などの、ぶゆうでんを話させてもらいました」
恐れられているのも、委員長になったのもお前のせいか!
というかその話忘れて!武勇伝でも何でもないから!
「慊人様はかんちがいをしています。花屋敷に慊人様に近づくなと言ったら、
「なんでそんなことを斎藤様にいわれなければいけませんの!あやまりには行きますけど、あなたにそんなこと言われたくありませんわ!」
とおこってしまって。それで、慊人様はお前がきらいなんだから言うことをきけと言ったら、おれのほほをたたいて、泣きながらにげてしまったのです。
なので、おれのグループと、仲がわるいだけなんです」
「……お前のグループとは?」
「慊人様と白藤様。それに花屋敷と鴻巣いがいの、クラスメイトぜんいんです」
「そうゆうのを虐めというんだ!!」
女二人にクラスメイト全員とか完全に虐めだった。しかも無自覚とか達が悪い。
「それに俺は花屋敷が嫌いなどと一言も言った覚えはない!勝手に俺の気持ちを代弁するな!」
「ご、ごめんなさい!!」
俺が怒鳴りつけると、斎藤は即土下座をして謝りだした。小学生の土下座とか何か凄いな。
別にこんなの見たくない。
「いや、俺に謝られても困る。花屋敷と鴻巣をここへ呼ぶから謝罪して和解してくれ。どう考えても今回ことは斎藤に非がある」
狗神に目配せをすると、部屋を出て2人を呼びに行く。
これで解決すればいいのだが……。どうもまだ斎藤の事を掴み切れない。自覚がないっていうのも怪しいところだし。
俺が怒れば即土下座をする小学生とか正直気持ちが悪い。
虐めの件以外もはっきりさせておいたほうが良いかもしれない。
「それで斎藤。お前はどういったつもりで今回のような事をした。俺をクラスで祭り上げてどうするつもりだ」
「それは慊人様のために……」
「お前の意思とは思えないな、俺に執着するには若すぎる。小学1年生が家の事を考えてそこまで動くか?誰の入れ知恵だ?」
特に確証も無かったが取り敢えず問い詰めておく。べつにいないのならいないでいいのだ。
「それは……」
斎藤は一瞬目を見開いた後に渋い顔を見せた。これは完全に裏に誰かいるな。
「別にそれを咎めたり、問題にするつもりはない。反省しているというのなら言ってくれ」
「う……」
斎藤は黙り込むときょろきょろと周りを気にしだした。誰かに聞かれることを恐れているのだろうか。
「斎藤様ここには犬飼はいませんよ」
俺が斎藤に何を気にしているのか聞こうと思ったところ、狗神が戻ってきて斎藤に話しかけた。
それを聞いて斎藤はあからさまに肩の力を抜いて見せた。おそらくその犬飼って奴を気にしていたのだろう。
っていうか犬飼って誰だ。お前の親戚かなにかか。
「いえ、慊人様。執事という同じ犬ではありますが、なんの関わりもありませんよ」
執事ということは、斎藤の執事か?あと俺の心を読むな!こえーよ!
「早かったな、花屋敷と鴻巣はどうした」
「榛名さんに行かせました」
元妹の榛名か……、なんか、ちょっと心配だな。
狗神が行かせたのなら大丈夫だと信じ、俺は話を戻すことにした。
「それで、斎藤どうなんだ」
「犬飼がいないのでしたら……」
斎藤はそう言いながら狗神に視線を移す。
「大丈夫です。それにこの部屋は防音ですから外にも漏れません」
狗神は斎藤の不安を上手く払拭したようで、斎藤はやっと重い口を開き始める。
「おれは保育園のときから、慊人様にとりいるよう、お母様やお父様や兄に、なんども言われていました。そもそもおれを産んだのも、慊人様と
仲良くさせようと、樫宮喜美江様が、ごかいにんしたからだと、なんどもきかされました」
喜美江は今の俺の母だ。
そういえば俺の世代は有名どころが例年よりも異常に多いと言われている。懐妊の情報が漏れて広まったのかもしれないな。
それにしても、俺に近づけるために産んだと子供に言うなんて酷い家もあったものだ。
「それで、俺は保育園では上手く慊人様と仲良くすることができなくて、そのことに兄はとにかく怒っていました。
俺はやめたほうが良いと言ったのですが、兄の調査では慊人様の気に入らないやつをいじめ、クラスを慊人様のコマとしてまとめれば、気に入ってもらえるということで……。
花屋敷と鴻巣には悪いことをしましたが、兄の執事である犬飼が、俺をいつも見ていたので、兄の言うことを無視することも出来ませんでした。
ただあまり、ひどいことにならないように頑張ったんですよ、これでも」
それで満足するのは俺じゃなくて斎藤兄なんだろうな。話を聞く限り性格悪そうだし五大名家に名を連ねているのならやりたい放題も出来ただろう。
なんとゆうか斎藤は可哀想なやつだな、斎藤は斎藤家の政治の駒か。しかも小学1年生になにやらせてるんだ。まぁこいつも大概子供らしくないが。
「その年で大変だな。……お前自身は自分の家の事をどう思っているんだ」
「きょうみないですね。保育園のころは、みとめられなければという気持ちでしたが、いまは早く家を出たいです」
小学一年生にして家を出たいとは……、俺の周りのガキ共に可愛げが無いのは環境のせいか?金持ちこわい。
こうなってくると、面倒だと思っていた泣き虫花屋敷が子供らしくて可愛く感じてくるな……。
「そうだな、じゃあ俺達と友達になるか、どうだ、結城?」
俺は話しているうに家の事情を、そこまで話さなくてもいいのではってくらい語った結構斎藤を気に入っていた。
まぁ同情心もあるが、これある意味DVな気がするしな。
「いいとおもうよ、話を聞いたかぎり、斎藤は悪くなさそうだしね、うそも付いてないとおもうな」
あっさりと結城の許可もでた。決定だな。
……結城も思えば保育園の頃は可愛げがあった、それが気付けばなんか俺の参謀みたいになっている。子供の成長って早い。
「結城もこう言っていることだし、どうだ?なんだったら俺が斎藤を次期当主として押し上げる手伝いを……」
「そ、それはやめてください!ぜったいに兄にいじめられます!」
昔ならともかく、今の時代でそこまで当主争い程度できにする必要もないと思うが、まぁ家で気が休まらないのも辛いか。
「そ、そうか……、気が変わったらいつでも言ってくれ」
でも正直、こいつの兄にまかせるよりも絶対に良い気がする。
その予定はありませんと断り斎藤は嬉しそうに友達の申し出を受け入れてた。
「斎藤、下の名前はなんて言うんだ?」
「え……、雅彦ですけど」
え?知らないの?と斎藤の顔に書いてあった。うん知らないんだ。ごめん。
「そうか、雅彦、今日から敬語禁止で、俺の事は慊人と呼ぶように、結城のことも呼び捨てでかまわない」
「それは……、兄になんといわれるか……」
「俺に取り入る事に成功して、そうするよう命令されたと言えばいいじゃないか」
「……そうだな、ありがとう慊人。ははっいきなりタメ口に呼び捨てとか、へんなかんじだ」
「同級生なんだからそれが普通なんだよ」
こうして俺達は友達になり、ロイヤルルームの住人が一人増えるのだった。