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第37話「夢と佳苗」

 夢、夢を見ている。

 俺はそれを自覚していた。


 しかし自覚しているからといって何かが出来るわけでもなく。

 自分の意思とは裏腹に、俺は暗闇の中一人、ゆらゆらと左右に体を揺らしながら立ち尽くしていた。


 俺は何かを待っていた。

 きっと今映し出された映像を待っていたのだ。


 映像の中で結城が学校の屋上に立って泣いていた。

 でも俺にはそれが結城なのか判らなかった。

 結城は屋上から飛び降りて死んだ。

 頭から落ちたせいで、赤い液体を四方にまき散らしてしまい、顔が無くなってしまった。

 おかげで、もうそれが本当に結城なのか判らなくなってしまったが、きっと結城なのだろうと思って俺は泣いて後悔した。



 次に佳苗が部屋にいた。

 佳苗の部屋は見たことがなかったが、きっとこれは間違いなく佳苗の部屋だ。

 佳苗は何かのコードを使って首を吊って死んだ。

 どんどん佳苗の顔は変色していって、まるで佳苗じゃないみたいだった。

 きっとこれは佳苗じゃないんだと思った。

 それでも俺は佳苗が死んでしまったと後悔した。



 次は鴻巣だった。

 腕と足を縛られたまま、助けてと心で叫びながら泣いていた。

 口をガムテ―プで塞がれ、恐怖と涙で表情は歪み、その上何度も殴られたせいで顔がぐちゃぐちゃだったため、それは鴻巣じゃないかとも思ったが、切り刻まれて殺されてしまったためきっと鴻巣だったのだと思った。

 六つに切断されて袋に入れられた鴻巣はもう鴻巣では無かったが、鴻巣が死んでしまったのだと俺は後悔した。



 他にも一杯死んで一杯後悔した。

 

 そして最後に樫宮喜美江かしみや きみえが映し出された。

 これが最後なのかは判らなかったが、死んでしまったんだと泣いていた。

 何を言っているのかは聞こえなかったが、そう言っていることは間違いなかった。

 俺は生まれて来れなかったことを後悔した。


 生まれて来ないから皆死んでしまったんだと思って何度も後悔した。


 夢の中で俺は樫宮慊人じゃなかった。


 当然だ。

 俺は生まれてこなかったんだから。




 夢から覚めると、俺は飛び起きた。


「嫌な夢だったな……」


 おかげで朝から気分は最悪だった。


 内容を思い出そうとすると頭に霧がかかったようになり、覚えているはずなのに思い出せないという、何とももどかしい感覚に襲われる。

 酷く嫌な夢だったのは間違いない、だがそれしか思い出せなかった。


「もどかしいな」


 体を起こした状態で思い出そうと唸っていると、ふと佳苗の顔が浮かぶ。

 そういえば2年ぐらい会っていない。

 

「佳苗、元気にしているんだろうか」


 もしかすると佳苗の夢だったのかもしれない。



 学校の支度をして、真田の運転する黒塗りのセダンに乗り込んでからも、俺はずっと佳苗の事を考えていた。


 狗神の話だと、学校にはちゃんと通っているとのことだが、社交界からは完全に姿を消しているそうだ。


 そいえば先日クラスの家族を招いて大々的に行った俺の誕生パーティーの招待状を送ったが、返事すらこなかったな。


「慊人様、考え事ですか?」


 窓の景色を眺めながら佳苗の事を考えていた、俺に隣に座っていた狗神が声をかけてくる。


「ああ、ちょっと佳苗の事をな……」

「佳苗様ですか、そういえば誕生パーティーにもいらっしゃいませんでしたね。そういえばここ一週間は学校にも通われていないようです」

「一週間? 長いな……、時期的にインフルエンザというわけでもなさそうだが」


 佳苗の事は定期的に報告をもらっていた。

 佳苗が顔を見せなくなって3年。

 気にならなかったといえば嘘になる。


 かといって俺に連絡が来なくなったからといって、自分から会いに行こうと思うほど俺は積極的な性格はしていない。

 ただ今になって考えれば、これはとても違和感がある事なのかもしれない。


 もちろん佳苗の心変わりである可能性の方が高いのだが、よく思い出せない夢のせいで、今は気になってしかたがない。


「もう少し詳しく調べられるか?」

「ここ最近、佳苗様の周辺は大変ガードが固く、周りに使用人を五人も付けています。その上現在は自宅か寮にいらっしゃるでしょうから更に難易度は上がります。お時間をいただければ数人忍び込ませて情報を集めますが」

「寮?」

「はい、佳苗様の通われる聖ステラ女学院は中等部より寮生活が義務付けられています」


「そうか佳苗はもう中学生か、つまり佳苗は寮の自室にいる可能性も十分あるわけか」

「その通りです」


「もう少し早く動いていれば学校で無理やり会うことも出来たのに、面倒になったな」


 何故今になって夢を見て、こんなにも気になっているのか。

 理由は判らないが、嫌な予感は早々に払拭するに限る。


 あのシスコン兄貴なら軟禁や監禁を佳苗に対して行っていたとしても不思議はなのだから。


 もしも勘違だとしても、それならそれでいい。


「何か策を考えるしかないな」


 取り敢えず狗神にも手を回させて、俺の方でも何か手を打ちたいところだ。


「狗神、佳苗の調査と共に、櫻田重工への調査もしておいてくれ。軍事兵器の開発なんてやっているんだ、叩けば埃が出る。」


 カードは多い方が良い。


「あと奏斗かなとが今度いつ表に顔を出すか調べておいてくれ、直接聞く」

「奏斗様の口から、佳苗様の情報を慊人様に話すでしょうか」


「一応な、櫻田夫妻と話をするよりはハードルが低いし、俺を見て感情的になれば口を滑らす可能性もある」

「流石慊人様です! そこまで考えていましたか。早急にお調べして放課後にはご報告いたします」

「頼んだ」


 話が終わる頃にはちょうど始業の時間10分前であった。

 今日は本を読む時間がなかったな。


 取り敢えず授業が終わったら、佳苗についてみんなに何か知っていないか聞いてみるか。



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