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第36話「勇気の代償」

取り敢えずこれで一段落、次の章は佳苗の話になる予定です。

 結城は俺の手を弱々しく掴んだ。

 それを俺は強く握りがえし、結城を立たせた。


「何があった、全部話せ」

「……うん、……うん」


 結城は観念したように袖で涙を拭きながら頷く。



 話の内容は想像していたよりも酷いものだった。

 これが小学四年生のすることなのか。

 許せる範囲を越えている。


 俺の様に、虐めで人が死ぬことだってあるんだ。


 そうなればもう取り返しは付かない。


 それに、心の傷はすぐに癒えるものではない。

 肉体的な傷以上に、結城の心の傷も俺は心配だった。


 人が死ぬということは、他殺だけではない。自殺だってありえるんだ。


 俺に言わせれば、皆藤達がやったことは殺人未遂と変わらない悪行だ。

 しかもその被害者が結城であることで、俺の怒りの感情かつてないほど強く昂った。


 俺は皆藤達がどこにいるか聞くため、雅彦に電話をした。


「雅彦!皆藤はどうしてる!?」

「今第一校舎から、校門に続く道で睨めっこしてるところだ。教師が早々に帰そうとするからな慊人が戻るまで待ってもらってる」

「わかった!すぐに行く!」


「行くぞ結城!」

「あ、待って! 慊人!」


 俺は怒りのままに皆藤達の所に走って向かった。

 第一校舎と第三校舎はそれど離れていないため、すぐに皆藤達四人と、雅彦達三人が対峙しているが見えて来た。

 生徒たちが周りに集まって来ていて、今にも大きな騒ぎに発展しそうな状況であった。



「俺達は被害者なんだぞ! 教師も帰って良いといっているのになんでお前達に邪魔されなきゃいけないんだ!」

「だってまだお前らの話ししか聞いてないじゃないか、結城の話も聞いてみないとなー」

「くっ……」


 嘉手納の言葉に皆藤は顔をしかめて呻いていた。


 お前らが被害者?

 ふざけるなよ!!


「皆藤!!!!!」


 俺は走りながら怒りを込めて皆藤の名前を呼んだ。


「樫宮慊人!? ま、まて!!俺は被害者だぞ!証拠も証人もいるんだ!!!」


 俺の声を聞くと、街道は恐れるように弁明しだした。

 よくも被害者などと言い放てるものだ。

 そんな言葉は更に俺の怒りを強くするだけであった。


 俺は怒りに任せて走りより、勢いをつけて皆藤の顔面を俺は思いっきり殴り飛ばした。


「馬鹿が! お前の言葉と結城の言葉、どっちを信じるかなんて決まっているだろ!!」


 まるで昔を再現するように皆藤は鼻血を出しながら後方に吹っ飛んだ。


「皆藤さん!! う、うわぁぁ!!」


 吹っ飛ぶ皆藤を見て取り巻きの三人が逃げ出そうとする。

 俺は取り巻き三人も許すつもりがなかった。

 こいつらだって同罪だ。


 逃げようとする取り巻き三人を殴り、投げ、払い、地面に叩きつけた。

 四人もいてなんて手応えの無い。


「おいおい皆藤、俺を倒すために空手を習っていたんだろ! 大会でも優勝したって聞いたぞ!」


 俺は皆藤を見下しながら、言葉を吐き掛けた。


「弱いもの虐めしか出来ないクズが」

「うわああああああ!!!!」


 俺の言葉に逆上した皆藤は、鼻血まみれになりながらも立ち上がり、俺に殴りかかってきた。

 俺は皆藤の拳を避け、カウンターを皆藤の顔面に叩きつけた。

 大会優勝が聞いて呆れる。

 そんな見え見えの攻撃カウンターして下さい言っているようなもんだ。


 皆藤は意識を失うようにその場に倒れた。

 いや、おそらく脳を揺さぶられて一時的に気を失ったんだろう。


 しかし俺の気は全く収まらなかった。

 一方的に殴られ、脅され、虐められていた結城の復讐はこの程度は丸で足りない。


 俺はうつ伏せに倒れた皆藤を足で仰向けにひっくり返し馬乗り乗った。


「まてまて慊人! これ以上はやりすぎだ!」


 俺は雅彦に後ろから羽交い締めにして止められ我に返った。


「慊人泣いてるのか?」

「え?」


 手で目の淵を拭うと確かに濡れていた。


「いや……、そうだな……」


 俺は気付かないうちに涙を流していたようだ。


 それはきっと結城を守れなかったことが悔しかったのだ。

 守れなかった自分が皆藤以上に許せなかったから。


 だからきっと半分は八つ当たりだった。


 俺は勘違いをしていたんだ。

 生まれ変わって、樫宮の家に生まれたからって世界が変わるわけじゃない。


 世界は変わらず優しくないんだ。


 でも、だからこそ、たとえ偽善でも欺瞞でも、何かで綺麗に飾り付けしなければ、とてもこの世界で生きていけるきがしない。

 生きる価値すらも見いだせない。


 特に結城のように悪意を持たない奴には、この世界は凄く理不尽で住みにくいに違いない。

 世界は理不尽と悪意で満ちているから。


「うっ……、ちくしょう……」


 意識を取り戻した皆藤が声を漏らした。


「皆藤、次はない。つぎはお前等の家ごと叩き潰す。教師達には正直に話す事だな」


 意識を取り戻した皆藤にそう言い残し、俺達は教師達が来る前に解散することにした。

 すでに俺達の周りは生徒が囲んでおり、大きな騒ぎになっていため逃げる様に解散した。



「僕ロイヤルルームでシャワー浴びて行こうかな」


 結城は校舎裏で地面にうずくまって泣いていたため、膝も服も砂で汚れていた。

 三人は明日事情を話すと言って帰ってもらい、俺は結城に付き合うことにした。


「慊人……、来てくれて、信じてくれてありがとう」


 道中、結城は呟くようにお礼を言ってきた。


「今後はすぐに言うんだぞ、俺は結城の味方だからな」

「うん……」


 結城は嬉しそうに頷いた。



 部屋に着くと、結城はすぐにシャワールームに入っていった。


 俺は椅子に腰かけ今日あったことと、これからのことを考えていた。

 

「問題になるだろうな……」


 生徒たちに見守られながら、被害者と教師達に判断されていた皆藤達を一方的に殴り倒したのだ。

 皆藤達が正直に話したとしてもお咎め無しとはいかないだろうな。


「慊人さま、そんな心配しなくても大丈夫です、おまかせ下さい」

「そうか……、まかせた」


 まぁ狗神に任せておけば大丈夫だろう。


「それよりも白藤様バスタオルを持って行かなかったみたいですよ、持っていって差し上げては?」

「ん、そうか。……狗神がわざわざ俺に行かせるなんて珍しいな」

「白藤様は人に肌を晒すのを嫌いますので、慊人様なら問題ないでしょう」

「そうなのか? そういえば結城との付き合いは長いが一緒に風呂に入った事ないな。プールとかも毎回見学していたのはそういう理由があったのか」


 苦手だからサボっていたのかと思っていた。


「流石慊人様です」


 は?何が?


 俺は狗神からバスタオルを受け取り、シャワールームに入った。


「結城ー、バスタオル忘れてるぞー」

「わ、わぁ!」


 扉を開けると結城は声を上げて背中を向けて体を隠した。


「ご、ごめん。お父様に人に肌を晒すなと、きつく言われてるから……」

「そ、そうなのか。それは悪かったな。バスタオルここに置いておくぞ」

 

 俺は入口にある棚にバスタオルを置いて出て行こうとした。


「で、でも。もう慊人には隠し事しないって僕決めたから! 慊人なら見てもいいよ!」


 そう言うと結城は腕を開いて正面を向いた。

 いやいや、見せられても困るぞ。

 そもそも男の裸なんて見て喜んだら俺ホモじゃねーか!


 結城の体は色白で凄く綺麗であったが、所々に痛々しい痣があり、それは俺の皆藤に対する怒りと後悔の感情を沸き立てた。


 そして少し胸は膨らんでおり、下半身にはあるべきものが無かった。


 無かったのだ。


「は?」

「ぼ、僕って変かな……? あんまり見ることも見せたこともないから良く判らなくて……」

「はははは、べ、別に変じゃないぞ。そもそも男同士なんだからそんな改まって見せるものでもないだろう。変な奴だなあはははは」

「そ、そうだよね。男の裸なんて見たくないよね。ごめん……」


 結城は申し訳なさそうに顔を赤らめながら、顔を伏せた。


「な、なに謝ってるんだよ。はははは。しかしあれだな。うん。じゃあ俺行くから」


 俺は早々にシャワールームから退散することにした。


 無い!

 無い!!

 無いぃぃぃ!!!!!!


 俺はソファーに座り、頭を抱えた。

 え、どういうこと。

 結城って女なの!?

 まじで!?


 俺は頭が混乱していた。

 結城は女であることを隠していたってことか? いや男だと思い込んでいる可能性もあるか?


 そもそも結城は男の制服を着ているし、少なくとも男として生きているはずだ。


「あ、慊人お待たせ」


 シャワールームから体操服に着替えた結城が出て来た。


「結城……、結城って男だよな?」


 頭が混乱していた俺はストレートに疑問をぶつけてしまった。


「え、当然じゃないか何でそんなこときくの? もしかして……、僕の体やっぱり変だった……?」


 結城の顔が哀しそうに曇った。


「いやいや、違う違う! ちょっとした冗談だ!」

「もー! からかうなんて慊人らしくないよ!」

「ははは……」





 これ自分が女だって気付いてないパターンだぁ――――!!!





 俺はこの件について考える事を、取り敢えず辞めることに決めたのだった。



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