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第35話「白藤結城➃」

大変間が空いてしまってすみません。明日も投稿予定です。

「忠弘!!」


 僕は怒りの感情に任せて飛び出し、忠弘の胸倉を掴んだ。


「結城! 聞いてたのか!」

「忠弘! 柚姫には手を出すな! 僕が気に入らないんだろ!? 僕を虐めていればいいじゃないか!」

「離せよ!」

「ぐっ」


 僕は忠弘にお腹を殴られ、手を放してしまう。


「俺が柚姫と結婚して白藤を継ぐほうが、白藤家にとっても柚姫にとってもいいことだと思わないか?」

「そんなことない!」


 こんな奴と柚姫が結婚して幸せになれるはずがない。


「弱虫で役立たずの結城よりもずっとましだと思うけどな~、お前なんかが兄貴だなんて柚姫も可哀想だ」


 なんて哀しいことを言うんだ。

 でも僕はそれを、否定することが出来なかった。


 忠弘にいいように苛められている自分が惨めで、恥ずかしくて。

 忠弘の言葉は、また僕の心を強くえぐった。


 だから僕は忠弘をただ睨めつけることしか出来なかった。


 慊人……。

 僕はどうしたら……。



「結城。お前にチャンスをやろう」

「チャンス?」


「そうだ、俺と決闘してお前が勝ったら、今後柚姫には手を出さないでやるよ」

「……」


 どこがチャンスなんだろうか、僕が忠宏に敵うわけがない……。


「明日の昼休み、この場所でだ。 いやなら逃げてもいいぞ」

「……わかった」


 それでもやるしかなかった。

 たとえ勝てる可能性が低くても……。



「お前ら何をやっている!!」


 大きな声に振り向くとそこには慊人がいた。

 怖い顔をして駆けて来て、僕と皆藤の間に割って入ってくる。


「皆藤何をやっている、結城に何の用だ」

「慊人……」


 僕はいますぐ全てを話して、助けを乞いたいとう気持ちに駆られた。


「樫宮慊人っ……。お前には関係の無い事だ、なぁ結城?」

「う、うん……」


 慊人は僕を見捨てたりしない……、そう思いながらも忠弘の声が耳から離れなかった。



「樫宮慊人にチクるのか? 樫宮慊人にまた守って貰うのか? お前みたいなお荷物そのうち見捨てられるぞ、釣り合ってないんだよお前と樫宮じゃあ」

「樫宮慊人も昔はお前しか友達がいなかったみたいだが、今じゃお前意外にも沢山友達が出来たみたいだしどうかな?」



 僕は忠弘の声を頭から払うように首を振った。


「慊人、忠弘ただひろとはちょっと家のことを話していただけだよ。試合が始まっちゃうしもう行こうよ」

「お、おい、結城!」


 僕は慊人の手を引いてグランウンドに向かった。


 明日勝てばいいんだ。

 明日勝てば全て解決する……勝てば……。





 次の日の昼休み、僕は慊人とロイヤルルームへは行かずに、忠弘との決闘に向かった。

 忠弘は空手を習っていて、小学生の部の大会で優勝していると聞いたことがあったのを思い出していた。


「勝てるはずがないよ……」


 それでもやるしかない、僕が虐められるのは良い。


「だけど……」


 柚姫に手を出させるわけにはいかない……絶対に。



 忠弘達は既に来ていて、腕を組んで威圧するように僕を待っていた。

 1人いない……、それは僕の心をとても不安にさせた。



「ゆぅ~き~! よく逃げずにきたなぁ!」


 忠弘は嬉しさを滲ませた声で僕を迎えた。


「一人足りない……」

「気にするなよ、決闘は俺とお前の一対一だ。安心しろよ」


 全然安心する気になれなかった。

 柚姫を人質に連れて来て、一方的に僕を殴るつもりなんじゃないかとか、嫌なイメージがひっきりなしに脳内に浮かんだ。


「さぁ結城、決闘をしようじゃないが。柚姫を守りたいんだろ?」


 忠弘を周りを気にするように僕に告げた。

 その様子に、僕に募った不安はどんどん膨れて行った。


「皆藤さん!」

「結城来ないな俺から行くぞ? 何だったら一発先にパンチさせてやってもいいぞ?」


 取り巻きに声を掛けらると、忠弘は僕に迫って来た。

 僕は今まで人を殴った事なんてなく、握った拳を人に向かって前に突き出すだけでかなりの勇気が必要だった。


 やるしかない。

 柚姫を守るんだ……!!

 慊人、僕に勇気を!!


 僕は昔忠弘から救ってくれた時の慊人の姿をイメージした。

 そしてそれをなぞる様に拳を忠弘に向かって放った。


 僕の拳は忠弘の顔に思いっきり当たった。

 人を殴る感覚は想像した以上に気色が悪く、そして心も拳もキリキリと痛んだ。


「ぐぅっ……!! 結城お前!!!」


 僕の攻撃が予想外だったのか、顔を手で押さえながら忠弘は僕を睨みつけた。


「皆藤さん!来ます!」

「ちっ!!!」


「!?」


 来る?何が?

 忠弘の反撃に身構えた瞬間に上がった声に反応して忠弘は舌打ちすると、ポケットから目薬を取り出して目に刺した。


「えっ……」

「痛い痛い痛い痛い!!!!」


 そして忠弘は大きな声で痛がり出した。


「先生こっちです!!」


 聞き覚えのある声が聞こえてきたことで僕は全てを悟った。


「た、忠弘……、まさか!!」


「結城君!!何をやっているんですか!」


 忠弘の取り巻きの一人が、僕のクラスの担任である坂条先生の手を引いてやって来たのだ。

 そしてそこは、拳を握りしめて立ち尽くす僕と、顔を押さえて大げさに痛がる忠弘。


 顔を押さえながら痛がる忠弘は、指の隙間から僕を見て嫌な笑みを見せた。


 僕は……、嵌められたんだ……。


 僕は忠弘が何故こんなことをするのか、なんとなく察しがついた。

 きっと慊人が僕を嫌いになるようにするためだ。


 僕が忠弘を虐めていた事にするつもりなんだ!


 僕の頭の中は絶望で真っ黒に染まった。

 


 生徒指導室に連れていかれ、忠弘達は僕が悪者だと嘯いた。

 僕は一生懸命反論する言葉を探したけど、何も思いつかなかった。

 証拠は無いし、向うには証人がいる。

 

 それに……、僕が忠弘を殴った事は事実で、今も忠弘の顔は赤く腫れている。

 

 僕は逃げ出した。

 確かに忠弘を殴った事は悪い事かもしれない、それでも、そうだとしても、こんな一方的に責められる理不尽に耐えられなかった。


「あ、慊人! くっ……!」


 扉を開けるとそこには慊人がいた。

 聞いていたんだ……、聞いてしまったんだ。


 それは僕が何よりも恐れた結末を意味していた。


 今にも大量の涙が目から溢れだして来そうだった。

 僕は慊人からも逃げた。


 慊人の口から、僕を嫌いだという言葉を聞きたくなかった。

 もう全てから逃げ出したい気持ちだった、学校からも、この世界からも。


「まて結城!!」


 僕は今すぐに慊人に縋りながら弁明したい気持ちを振り切り校舎を出た。

 もう目からはとめどなく涙が落ちて来て止まらなかった。


 人けの無い第三後者裏の林に着くと、膝をついて声を出して泣いた。


「あぎとぉ……」


 もう僕にはどうしたら良いのか判らなかった。


 もっと早く慊人に助けを求めるべきだったのかもしれない。

 嫌われることを恐れた結果、状況は更に悪化してしまった。


「結城!!」


 顔を上げると、そこには慊人が立っていた。

 流石慊人だ、こんなにすぐに見つかっちゃうなんて……。


 哀しくて、苦しくて、もう逃げる気力は残っていなかった。


「何故一人でそんなところで泣いている!」

「あ、あぎと……」


 僕はなんて答えればいいのか判らなかった。


「何故俺を頼らない!」


 頼りたかったよ! 最初から! 今でも!!


「俺の手を取れ結城!」


 慊人は僕に向かって手を伸ばした。

 僕の手は吸い込まれるように慊人の手に向かっていった。


 僕はずっと心の中で叫んでいた言葉が今にも口から飛び出しそうだった。


「慊人っ――」



 そうそれは僕の、心の悲鳴。



「助けてっ――――」



 僕は慊人の手を掴んだ。





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