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第34話「白藤結城③」



「一人足りないね……」

「あいつは柚姫が気になるみたいで付けて行ったぞ」

「なんだと!!」

「落ち着けよ、付いて行っただけだよ。俺が何も言わなきゃ何にもしない」


 それは忠弘が何か言えば何かすると言っているようにしか聞こえなかった。


「とりあえず場所を移すぞ」


 僕は忠弘達に10分程歩いたところにある大きな公園の人目につかないところに連れてこられた。


「柚姫に何かしたら絶対ゆるさない」

「許さない? お前に許してもらうことなんてないんだよ!!」


 今まで余裕たっぷりだった忠弘は、僕の言葉が相当気に入らなかったのか声を上げて僕のお腹を殴った。


「それにしてもまだ樫宮慊人には言ってないみたいだな? いいのか? たすけて慊人~って泣きつかなくて」


 本音を言えば今すぐにでもそうしたい気持ちだった。

 でも惨めで、恥ずかしくて、とても慊人に言う勇気が出なかった。


 こんな僕を見たら、失望するかもしれない、嫌われるかもしれない。

 僕は……、僕は……。



「忠弘、なんでこんな事をするんだ、何が目的なんだよ」

「目的なんてない! お前が気に入らないだけだ!!」


 そう言うと、忠弘は僕の胸部を殴った。

 強烈な痛みが走り、僕は泣くのをいっしょうけんめいがまんした。


「お前本当に生意気なんだよ、上手い事樫宮慊人に取り入りやがって……っ!」


 なんだか今日の忠弘はいつもと様子が違った。


「お前が樫宮慊人に取り入ったせいで俺が父様になんて言われたか判るか!? 家でどんな扱いを受けたか……。お前のせいで! お前のせいで!」


 僕は何度も何度も忠弘に殴られ、最後に頬を思いっきり殴られ尻餅を付いた。

 今までここまでやってこなかったのに、相当興奮状態のようだった。

 僕は怖くて声も出せず、ただただ泣くのを我慢するだけだった。


「皆藤さん、顔はまずいですよ! 樫宮慊人にバレますよ!」

「はぁ……、はぁ……。ちっ結城、上手くごまかせよ! 柚姫を守りたいならな!」


 そう言い残し忠弘達はその場を逃げる様に去って行った。

 僕は痛くてしばらくその場を動けなかった。



 月曜日、頬の腫れは引かず憂鬱な気分で僕は学校に登校した。

 家族は転んだと言えば簡単に信じてくれたが、慊人はきっと簡単にはそんな嘘信じてくれない。

 そん予感がしていた。


 そしてその予感は的中してしまった。

 放課後、慊人が突然忠弘に会いに行くと言い出したのだ。


 何故慊人が忠弘を気にするのか、もしかして僕が虐められていることを知っているんだろうか。


 僕は頭の中がぐちゃぐちゃになった。


 それからというもの僕は忠弘に何をされるかビクビクとした毎日を過ごしたが、予想に反して忠弘はその後僕に接触してくることは無かった。

 僕は柚姫の周辺を警戒しながらも、もしかして慊人が怖くてもう何もしてこないんじゃないかという希望を抱いた。



 球技大会の日、僕は自分のクラスの試合を前にトイレに行っておくことにした。

 一応慊人に言っておこうと思ったけど、なんだか服部君や嘉手納君と取り込み中だったので辞めた。


 トイレに向かっていると、途中茂みから聞き覚えのある話し声が聞こえてくる。

 見れば忠弘達が何かを話しているようであった。


 正直言えばもう二度と彼らとは関わり合いになりたくなかったが、何故だか凄く気になり、気付かれないように声が聞き取れる距離まで僕は近づいた。



「あーあ負けちゃいましたね」

「C組強すぎですよね」

「樫宮慊人に皆藤さんがボールぶつける所見たかったなー」


「まぁ良いじゃないか、野球なんてくだらない。真面目にやったところで将来なんの役にもたたねーよ」

「ははは、皆藤さんそんなこと言ったら真面目にやっちゃってるロイヤル5の奴らが可愛そうですよ」


「学校の球技大会なんかでマジになちゃって可哀想な奴らだ」



 自分たちが負けたからって、酷い言い様だった。

 しかも慊人にボールをぶつけるって……、そんなことを考えていたなんて。


「それで何ですか皆藤さん、こんな所に来たって事は何かやるんですか?」

「んー、結城を呼び出して樫宮慊人の代わりにボールをぶつけてやりたいところだが、目を付けられてるからな。結城の奴絶対に許さねぇ」 

「それじゃあいよいよ柚姫ちゃんを……」


 忠弘の取り巻きが嫌な笑みを浮かべた。

 柚姫をどうするつもりだ!?


 僕は今にも飛び出して掴み掛りたい気持ちを抑えて、忠弘の言葉を待った。


「まぁ落ち着けよ。柚姫のことだが、柚姫を俺の嫁にすることにした」

「ええ!?」

「どういうことですか、皆藤さん!」


「く……、知り合いからのアドバイスなんだが、白藤を俺の物にすることにしたんだ。父様に話したら褒められたよ」

「そんなことが……!? どうやるんですか!?」


「単純な話じゃないか、結城さえどうにかして柚姫と結婚出来れば必然的に白藤の家は俺の物だろう」

「あ……、なるほど」

「皆藤と白藤を俺の物したら、御三家には及ばないが、新旧五大名家の中では間違いなく一番上に立てる」

「なんか良く判らないですけど、流石皆藤さん!」


「でも皆藤さんのお父様と白藤の父親とは中が悪いんですよね? 結婚するの難しくないですか?」

「まぁ父様も乗り気だしな、どうにでもなるだろう。柚姫はそうだな……、まぁ大丈夫だろう、アドバイスをくれた奴が子供さえ作ってしまえばどうにでもなると言っていたしな」

「……子供ってどうやって作るんですか?」


「……知らん。まぁ取り敢えずは柚姫に好かれるように動かないとな」

「なーんだ柚姫のことも虐めるのかと思ってましたよー」


「そうだな……、お前たちが虐めてるところを俺が助けるってのもいいなぁ」

「あははは、いいですねそれやりましょう!」

「でも女だからな結城みたいに殴るってのも……」



「良いじゃないかぶん殴ってパンツでも脱がしてやれよ」



 この言葉で僕の我慢も限界だった。



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