第32話「白藤結城①」
お久しぶりです、かなり間が空いてしまってすみません!新しい環境に慣れるまではちょっとゆっくり更新になると思います。
僕が慊人と出会ったのは桜城保育園であった。
入園当初はみんな樫宮の当主である慊人に親達に言われるがまま擦り寄っていったっが、慊人はまともに彼らの相手をせず、常に詰まらなそうにしかめっ面をしていたのを覚えている。
気が付けば慊人の周りにはあまり人が寄り付かなくなっていった。
そもそも授業もまともに受けていなくて、保母さん達を困らせていた。
僕もあまり人と仲良くなるのが得意ではなかったので妙な親近感を感じて仲良くなる前に一度だけ声を掛けたことがある。
「かしみやくん、かしみやくんもいっしょにあそぼうよ」
「……俺はいい。本を読んでいるんだ」
「う、うん……」
何だか難しそうな本を読んでいた。
タイトルは思い出せないが、とても保育園児が読むような本ではなかった。
保育園に入って数か月。
僕にも一人友達が出来ていた。
九条 奉昭という、寡黙な子だった。
九条という名から御三家を連想したが、九条君は「たまたま名前が一緒なだけだよ」と言う。
周りもただ苗字が同じだけだということで特に彼を特別扱いをしていなかった。
とにかく保育園で遊ぶ友達が出来たことが僕には凄く嬉しかった。
しかしそれが皆藤 忠弘が僕に目を付けた切っ掛けだったのかもしれない。
「よう、ゆうき」
「ただひろ……」
「いつもひとりぼっちなのに、なんかたのしそうだな」
僕は忠弘に突き飛ばされた。
元々仲が良かったわけではないが、何故そんなことをされるのか、その時の僕には判らなかった。
九条君と積木で作ったお城が蹴り飛ばされ、壊れる様を見ながら僕は泣いた。
「おいくじょう。お前、こいつとともだちなのか? ちがうよな?」
「え……」
忠弘はそう言うと九条君も突き飛ばした。
「ただひろ! やめてよ!」
僕は友達を突き飛ばされて、忠弘をすがるように掴んだ。
「さわるなよ、ゆうき。つかまえておけ」
忠弘と一緒にいた三人が僕の腕を体を掴んで動けないようにした。
「くじょう、ゆうきなんかとともだちじゃないよな? こいつとともだちになるとオレたちにいじめられちゃうぞ?」
「う……」
「友達じゃないなら、ゆうきとのことたたけるよな?」
「ただひろやめてよ!」
僕は泣きながら叫んだが、当然その願いは聞き届けられなかった。
「ゆうきくんは……ともだちじゃない」
そう言うと九条君は、掴まえられて動けない僕の頭を叩いた。
僕は泣いた。
痛いからじゃない。
とにかく悲しかった。
「あははははは、こいつほんとうにゆうきのことたたいたよ! おもしれー!」
「お前ら何をしている?」
「はははは――。はぁ? なにってゆうきをいじめてたのしんでるんだ――」
皆が声に振り返るとそこには慊人が立っていた。
保育園児とは思えない恐ろしい表情をしていたのを今でも覚えている。
そして次の瞬間慊人は忠弘を殴り飛ばした。
「虐めを楽しんでいるとは、園児のくせに良い趣味をしているな。俺もお前らを虐めたい気分だ」
倒れた忠弘は鼻から鼻字を流していた。
おそらく慊人の拳が鼻に当たったのだろう。
「か、かいどうさんがちまみれに!」
「し、しんじゃう!」
「お、おれたちはなにもしてないよー!!」
「せんせーい!! うわーん!!!」
忠弘の取り巻き三人はその場を逃げ出し、忠弘はその場で大泣きしだした。
「か、かしみやくんありがとう」
「あ、ああ。ちょっとやりすぎたか……」
「くじょうくんもだいじょうぶ?」
尻餅を付いていた、九条君に手を伸ばすと、その手は払われてしまった。
「もう、ぼくにはかまうな」
九条君は一人で立ち上がり、その場から去って行ってしまった。
「くじょうくん……」
「樫宮君! 何やってるの!!」
「何って、こいつが虐めをだな……」
「虐めは駄目だけど、殴ったりしたらだめでしょ!」
僕達はあっという間に先生を中心に、園児達に囲まれてしまっていた。
恐らく逃げた忠弘の取り巻きが連れて来たのだろう。
「うるさい、何が悪くて何が良いかは俺が判断する! いいかこいつだけじゃない、お前達もよく聞け! こいつみたいに血まみれになりたくなかったら虐めなんてくだらないまねは辞めておけ!」
「樫宮君!!」
「せんせい、かしみやくんをおこらないでください! 僕をたすけてくれたんです!」
「は、白藤君……」
「白藤っていうのか、お前なんか虐められそうな顔してるな……」
「ええ!?」
「樫宮君!! 何でそういうこと言うの!」
「もういい、行くぞ白藤」
「え?」
僕は慊人に手を掴まれてその場所を後にした。
「ちょっと! 樫宮君待ちなさい!!」
この日を切っ掛けに僕は慊人と友達になった。
慊人は僕にとって友達であり、憧れであり、ヒーローだった。
そして数年後、僕はまた忠弘に目付けられる事になった。
僕は慊人に守られていたんだって事実を叩きつけられ、暗闇に落とされた。




