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第31話「生徒指導室」


 俺は生徒指導室に着くと、ドアを少し開けて中の様子を少しの躊躇もせず覗いた。

 中には結城と皆藤達四人がソファーに座り、そして五人と対面するように担任の坂条をはじめ、教師達が5人ほど腕を組んで立っていた。


「それでは何があったのか先生に話してください」


 坂条教諭が教師陣を代表するように結城達と机を挟んだ対面のソファーに座り、質問をした。


「いまから事情を聞くところか、タイミングが良かったな」

「慊人がのろのろしているから結城が何かされたんじゃないのか」

「なんか予想外に大事になってるみたいだな~」


 俺の頭に乗っかるように、雅彦、兼続、嘉手納の順で俺の頭の上から生徒指導室を覗き込んでいた。


「お前らもっと小さな声で話せ。バレるだろうが」


 俺は三人を注意し、すぐに中の様子に集中した。


「白藤君がいきなり殴りかかってきたんです。お話してただけなのに」

「皆藤さんの言う通りです、びっくりしました」

「白藤君酷いよ」

「皆藤さん大丈夫ですか?」


 まず坂条教諭の質問に答えたのは、皆藤とその取り巻きだった。

 結城が皆藤を殴った……、何だか違和感のある行動だな。

 かなりの理由が絶対あるはずだ。


「それでは白藤君は何故皆藤君に手を上げたのですか?」

「そ、それは……」


 結城は膝に置いていた手でズボンを強く握りこみ、悔しそうに俯いた。


「先生、それは多分僕が保育園の時白藤君にいじわるをしてしまった事があったからだと思います。

今では反省していますが、きっとまだ許してくれてはいないのでしょう」


「そうなんですか結城君?」

「確かに僕は保育園の時に皆藤に……、だけど……」

「保育園の時のことを未だに根にもっているなんておかしいよ!」

「皆藤さんのこと嫌うのはしかたがないけど、まさか殴るなんて」

「そうだそうだ、皆藤さんに謝れ!」


 坂条教諭の質問に言いよどむ結城に対して、皆藤の取り巻き達が野次を飛ばす。

 何だこれは、こんなの……。


「先生、僕これじゃあ白藤君に殴られるのが怖くてもう学校これませーん」

「白藤君もうこんなことしないよね? 皆藤君に謝れるね?」


 皆藤の言葉を聞いた坂条教諭が、結城に謝罪するように勧めた。

 結城はまだ何も事情を話していないというのに。


 結城は坂条教諭の言葉に立ち上がり目に涙を溜めた。


「先生っ……! 僕はっ……! 僕はっ……!」


 結城は何かを言おうとするが、上手く言葉が出てこないようであった。

 そしてこちらに向かって走り出した。

 俺達が扉から少し距離を取った瞬間ドアが開かれた。


「あ、慊人! くっ……!」


 結城は俺を見て驚きと悲しみを含んだような表情を見せ一瞬止まるが、すぐに走り出す。


「まて結城!!」


 すぐに結城を追いかけようと俺も地面を蹴るが、ドアから出て来た坂条教諭とぶつかってしまい、結城を見失ってしまう。


「樫宮君達盗み聞きしていたんですか? だめですよ」

「うるさい! どけ!」


 俺は坂条教諭を押しのけ、結城が走って行った方向へと駆けだした。


「まて、慊人! 俺も行くぞ!」

「いや手分けして探した方がいいな」

「あんまり面白い事態ではないなぁ、先生もっとしっかりしてくれないと困るよほんと」

「わ、私ですか……?」


 俺は三人を置いて、兎に角走った。


「くそどこに行った」

「慊人様、外に行くのを見たという方が」

「よくやった狗神! お前も俺と別れて探してくれ」

「わかりました、見つけ次第電話します」


 俺は靴も履き替えず外に出た。


 水臭いぞ結城、なぜ何も言わない。

 何故俺を頼らない。


 外に出たと言う情報以外の当てがなく、イライラと走り回っていると、電話が鳴った。

 俺は誰からの着信かも確認せず電話に出た。


「見つかったか!?」

「慊人様ですか? 鴻巣です」


 俺はかなり肩を落とした、まさかこんなタイミングで鴻巣から電話が掛かってくるとは。

 そもそも鴻巣から電話が掛かって来たのも初めてだった。

 ちなみに番号を交換したのは皆藤の事を聞いた時だ。


「何だこんな時に!」

「結城様が泣きながら走っていたので、お伝えした方がいいかと思いまして」

「結城を見たのか!? どこに行った!」

「第三校舎の裏にある林に向かって行きました」


 すぐそこじゃないか。


「ありがとう鴻巣、恩に着る」

「いえ、別に恩に着てもらわなくてもいいです」


 可愛げのない奴だな……。

 とにかく助かった。

 俺は電話を切ると、全速力で校舎裏に向かった。



 そこは誰もいない静まり返った寂しい場所であった。

 いや、結城がいた。

 一人で泣いていた。


 地面座り込んで俯いているため表情は伺えない。

 しかし泣いている事だけは判った。


 俺は胸を締め付けられると共に、強い怒りに包まれた。


「結城!!」


 俺は結城の前に立つ。


「何故一人でそんなところで泣いている!」


「あ、あぎと……」


「何故俺を頼らない!」


「そ、それは……」


「俺の手を取れ結城!」


 俺は結城に向かって手を伸ばした。


「慊人っ――」



 伸ばされた慊人の手を僕は――――。


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