第30話「見つからない解決策」
次の日、俺は退屈な授業には耳を傾けず、窓の外を見ながらため息をついていた。
結城と皆藤のことをはっきりさせるにしても、はっきりさせる上手い方法が中々思いつかないのだ。
流石に詰め寄って無理やり聞き出すというのもな……。
そして何も方法が思いつかないまま昼休みに突入してしまう。。
「こういうのは遅く動くと後悔することになるというのにな……」
「ん? 何か言ったか慊人?」
「いや、独り言だ」
俺はロイヤルルームきて昼食にしていた。
部屋には俺の他に兼続と嘉手納もいて、俺と同じく狗神の料理を美味しそうに食べている。
「今日は集まりが悪いからご機嫌ななめかな?」
「ちゃかすなよ嘉手納、真面目に考え事だ」
「結城のことか?」
「鋭いな。……保育園で皆藤に結城が虐められていた事を覚えているか?」
「俺と兼続は桜城じゃなかったけど、話には聞いてるな」
そうだったのか、二人とも同じ桜城保育園に通っていたと思っていた。
「何だ慊人が皆藤を気にかけてたのは、また白藤が皆藤に何かされていると疑っていたのか」
「そんなところだ、証拠は無いけどな」
皆藤に対する疑惑は、兼続に知られると無駄に荒れそうなどで今まで二人には隠していた。
嘉手納は言わずとも察していそうだが。
「ふん、皆藤は慊人が懲らしめたんだろう、皆藤如きが今更俺達に楯突いてくるとは思えないな」
「兼続よりも嘉手納の意見が聞きたいな」
「なんだと!」
「まぁ落ち着けよ兼続。そうだな……、俺達の家が皆藤より格上だとしても所詮は大人の世界だしな。それに一般のサラリーマンの家ならともかく皆藤も力と金を持った家だ。
何かされたからと言って復讐に一家路頭に迷わせてやる! なんてことはあまり現実的じゃない。
そう考えれば結城が皆藤にまた虐められているという可能性は低くはないな。
それこそバレなきゃ問題にすらならない。
結城が俺達だけじゃなく慊人にも口を開かないっていうのはちょっと引っ掛かる所だよな」
「なるほど……、そう言われればそうだな」
「全然判らんぞ、もっと判りやすく言え!」
それもそうか、小四だもんな。
嘉手納も大概に小学生離れした奴だ。
「つまり嘉手納は皆藤に結城が虐められていてもおかしくないって言っているんだ」
「白藤が皆藤に? 冗談だろ? 慊人がバックに付いて、五大名家がこれだけ集まっている俺達を虐める?」
「誰がバックに付いてるだ、俺はただの友達であいつの後ろ盾になっているつもりはない」
「ふん、慊人がしっかりと上下関係を植えつけないからこうなるんだ」
「兼続、あんまり人を見下した考え方は辞めておけ、嫌な大人になるぞ」
俺はさっきから気にかかっていた兼続の言い草に、睨めつけながら注意をした。
「うっ……、とにかく皆藤を問いただすぞ!」
「まてまて、証拠もないのに問いただしてもしょうがないぞ。それに違ったらどうする」
俺は走り出そうとする兼続の襟を掴んで止めた。
「敵かもしれない奴にそんな気を使ってどうする!」
「どちらにしても証拠もなく問いただした所で嘘を付かれるだけだ」
「慊人様の言う通りだろうな。証拠が欲しいな」
「嘉手納」
「ん?」
「様付け禁止」
「あ……」
今まで様付けをするなと言っても様付けで呼んできた嘉手納だが、今回ばかりは言うことを聞いてもらうぞ。
しかし何で様付けしたがるんだこいつは。
「慊人、今こそ球技大会の約束を果たす時だろ。俺に皆藤を倒させろ!」
「倒すって何するつもりだ」
「ぶん殴る!!」
「こらこら、無闇に人を殴ってはいかん、暴力はいかんよ」
問いただすんじゃなかったのかよ、口で駄目なら殴るなんて横暴すぎるぞ。
「ははは、慊人さ――、慊人がそれを言うのかよ」
おい嘉手納、こんなときに細かい突込みを入れて来るんじゃない。
「あれは保育園の頃の話だ、反省している」
「この前頬を腫らせていたのは皆藤が白藤を殴ったからじゃないのか! 結城を見捨てるのか慊人! 見損なったぞ!」
俺はその言葉に感情を掻き立てられた。
「もし本当にそうなら俺だって躊躇はしない! 証拠がないんだしょうがないだろう! もし違ったらどうするつもりだ!」
「おいおい二人とも落ち着けよ。俺達が喧嘩したってしょうがないじゃないか」
嘉手納の言う通りだった。
兼続のせいでつい大人気なく感情的になってしまったぞ。
俺だって皆藤ぶん殴ってそれで全て上手く行くのならぶん殴ってしまいたい。
しかしそれで解決するのか、本当に皆藤に何かされているのかと不安なのだ。
軽率な行動で失敗したくはない。
「兼続、俺だって結城が皆藤に何かされているのなら助けたいと思っている。しかしもう少し冷静になってくれ」
「ふん、俺は冷静だ」
「まぁ俺も慊人に賛成かな、結城のためになるのならいいが、違ったら大恥じゃないか」
嘉手納が上手く喧嘩になる前に仲裁してくれたところで、ドアが勢いよく開かれた。
「なんだ?」
「慊人大変だ! 結城と皆藤達が生徒指導室に連れてかれた!」
入って来たのは慌てた様子の雅彦であった。
「何だ、どういうことだ?」
「俺もよく判らないが、結城が皆藤に手を上げたらしいな。騒ぎになっていたから俺も現場に行ったんだが、立ち尽くす結城と痛い痛いと喚く皆藤の姿がそこにはあった」
「結城が……」
「結城が手を出す何てよっぽどの事だとは思うんだけどな、あの状況では結城が悪くなってしまいそうだぞ」
「なんでそんなことに……、くそっ! 取り敢えず生徒指導室に行くぞ!」
「おい! 慊人!」
俺は三人の返事を待たずに駆け出した。
何だ、何が起こった。
何故こうなった。
判らないことだらけだが、だがそれでも俺は――。




