第3話「虐めの冤罪」
現代転生の御曹司
2014/7/25投稿
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次の日登校してみると、とても奇妙な気持ちに襲われた。
「おはよう」
「「慊人様おはようございます!」」
「「慊人様、ごきげんよう」」
俺が教室に入って挨拶をすると、教室にいた全員が緊張した様子で挨拶を返してきた。
席に座るまでの間異様な緊張感と静寂が教室内を満たしていた。
俺なにかしたか?
「おはよう慊人、なんか色々とうわさにになってるよ?」
隣の席の結城が不気味なことを言い出した。
「噂?」
「公園でお姉さんをおこってたとか、きのう泣いちゃった花屋敷さんと、花屋敷さんのお母さんとお父さんに土下座させたとか」
酷い誤解だった。これはあかん。
「皆誤解しているようだから訂正をしておく。公園での事は有能な人間がいたので使用人として勧誘していただけだ。
花屋敷のことは、確かに家に謝罪に来たが土下座なんてさせていない!間違いなく俺の方に非があったのだ」
俺は席を立ってクラスメイト達に事実を伝えた。
「そうだよな?花屋敷?」
俺の前に座っている花屋敷にも誤解を解く手伝いをしてもらおうと問いかけた。
花屋敷は泣きだした。
なんでだよ!なんでまた泣くんだよ!話しかけただけで泣くとか花屋敷絶対俺のこと嫌いだろ。
っていうか話が違うぞ、花屋敷父!!
俺は更なる誤解産んでしまったことを悟った。
俺が泣きたいくらいだ。
「今から各委員の担当と学級委員を決めます。学級委員は通常の委員と兼任なるので、最後に投票で決めます。」
一限目は委員決めをするらしい。
坂条教諭がホワイトボードに数種類の役職名を書いていく。
学級委員以外の決め方は立候補制で、被った場合はじゃんけんで決めていた。
坂条教諭が順番になりたい委員を聞いていくと、皆積極的に手を挙げてスムーズに係りを決めていく。
流石金持ちばかりの名門私立。
俺はどの係りでもいいので、特に立候補するつもりはなかった。
結城は図書委員、花屋敷は保健委員、そして俺は体育委員となった。
花屋敷が保健委員に立候補した時、何故か他の立候補者は辞退しだしたのが少し気になった。
そして最後に学級委員の投票となった。
俺はこのクラスの人間の名前は結城と花屋敷以外うろ覚えだったので、この二人の名前を書いて投票した。
仕方なく書いたが、花屋敷なんかが学級委員になったら最悪だ。
「それでは開票していきます」
全員の投票が終わり、坂条教諭が一枚ずつ開票していく。
俺はあまり興味が無かったので窓の外を見て時間を潰す。
俺の通う桜城学園は、中等部と高等部が同じ敷地内にあり、異様なほど広い。
他にも運動場が5つ、プールが2つ、多目的ホールが3つ、寮が4つ、大型図書館が2つと、すぐに思い浮かぶだけでも施設も充実していることが判る。
流石入学金と学費が異様に高い、金持ち御用達の学園だけはある。
「男子は28票で樫宮君。女子は19票で鴻巣さんに決まりました」
「……は? 」
えっ、何で俺!?まじでやりたくないぞ!
「おめでとう慊人。もちろんぼくも慊人にいれたよ」
入れんな!結城の裏切者!!
ってか28票って俺以外みんな俺にいれてるのかよ。
「それではお二人は前に出てきて挨拶をお願いします。樫宮くんからお願いします。」
俺は渋々ながら教壇に鴻巣と並んで挨拶をする。
「えー……、よろしく」
俺がそう言うと、三秒間の静寂の後、やっと拍手が始まる。
その間はなんだ……。
「いっしょうけんめいクラスの役に立てるように、樫宮様と力を尽くしますので、みなさんも良いクラスを作るためご強力お願いいたします」
なんだこいつ、可愛げの無い挨拶するな。
あと俺は力なんて尽くさないからな、巻き込まないでくれ!
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午前で授業が終わり、俺たちは例の部屋で昼食をとっていた。
ちなみに、この学園には食堂はあるが給食はない。
俺の場合は、部屋にせっかくキッチンがあるので、狗神に料理を作らせて結城と食べることにしていた。
結城と一緒に狗神の作ったパスタを食べながら俺は愚痴った。
「結城、俺はそんなに怖いか?声を掛けただけで号泣したくなるほどか?」
「うーん、慊人は口がわるいからね、それにやっぱり樫宮だからねー」
「それになんで俺が学級委員なんだよ、俺以外のクラスメイト全員が俺に投票するとか異常だぞ」
「流石慊人様です、もうクラスを掌握されたのですか」
「俺は何もやってない!」
舌打ちしただけで掌握出来るとか、あまりのちょろさに戦慄を覚えるぞ!
俺が学級委員になったのが嬉しいのか、狗神はすごく満足気な表情をして頷いていた。
しばらくして昼食を終え、珈琲を飲んでいると、ドアがノックされた。
ドアを開けると、そこには俺と同じく学級委員になった女が立っていた。
確か……鴻巣か、改めて俺は鴻巣を観察する。
長い黒髪にカチューシャをし、清楚な佇まいをしていた。
さらに穏やかな声色に姿勢の良さと、育ちの良さを全身から醸し出している隙の無い女だ。
正直雰囲気が小学1年生ではない。まぁ俺も人のこと言えないが。
流石、学級委員なんて押し付けられて嬉しそうに挨拶する優等生だな。
「とつぜんすみません、先生にこちらにいらっしゃるとお聞きしまして。慊人様にお話があるのですが」
俺は彼女を部屋に招き入れ、中央にある丸いテーブルに座らせた。
「すごく素敵なおへやでございますね。学園の一室とは思えません」
声は可愛いのに、発言が相変わらず子供らしくない。結城も周りに比べれば精神年齢高めだと思うが、こいつは結城以上に感じる。
「そんなことはどうでもいい。話とはなんだ? 」
正直嫌な予感しかしない。出来れば聞きたくない。
ここ最近全く良いことが無い。絶対話というのもろくなことじゃないぞ。
「花屋敷呉羽のことです。呉羽をいじめるのをやめていただきたいのです」
――――なっ
「俺は虐めなどしていない! 」
なんだそれは?俺がいつ花屋敷を虐めたんだ。
もしかしてクラス内では俺が花屋敷を虐めていることになっているのか?最悪だ!
「ですがクラスではすでに樫宮様の名前を使って呉羽にたいするいじめが始まっています。樫宮様の指示ではないのですか? 」
えっ、あいつ虐められてるの?入学2日目にして?
それに俺の指示ってなんだよ、俺がそんなことするはずがない。
俺は前世の事もあり、虐めが大っ嫌いだ、憎んですらいる。
酷い言いがかりだ。
「俺は指示などしていないし、花屋敷を虐めているつもりもない!俺は虐めなんてものが大嫌いなんだよ」
俺は音を立てて机の上に手を置いて主張した。
「で、ですが、斎藤様達が……」
少し怯えた表情しながらも鴻巣は食い下がる。
……斎藤ってだれ?
「鴻巣さん慊人はそんなことしないよ、斎藤は慊人のせいにしているのかもしれないけど、多分慊人は斎藤の顔すらおぼえてないよ」
結城ナイスフォロー!
「そうだぞ、俺は斎藤なんて知らん。虐めを辞めさせたいのなら斎藤に言いに行け」
「樫宮様!わたしはまじめに話しているのです!おふざけになるのはやめてください!」
冷静だった鴻巣が突然立ち上がって怒り出す。
俺なんか変な事言ったか?
「ふざけてなどいない!何がそんなに気に入らないんだ? 」
「斎藤様のことを知らないなどと、うそをつくからです! 同じ保育園の同じクラスで、今回も同じクラスになったというのに知らないはずがありません! 」
そ、そうだったのか……、顔を見れば思い出すかもしれん。
「おちついて鴻巣さん。慊人はきょうみのない人のことを本当におぼえないんだよ。たぶん鴻巣さんのことも今日初めて知ったと思うよ」
凄いな結城、よく俺のことわかってるじゃないか。
っていうかもしかして……
「鴻巣って同じ保育園だったのか? 」
「本気でおっしゃっているのですか!?クラスはちがいますが2年も同じ保育園にいたのですよ!? ……見たことぐらいはありますよね?」
「いやぁー……、あっ、そういえばカチューシャしてた奴がいたいた気がする!」
そうそういたよ、鴻巣っぽいやつ!うん、思い出せてよかった。
「……わたし、保育園ではカチューシャをしていません 」
なんてこった。そのカチューシャは罠か。
「はぁ……、わかりました。では斎藤様のことを覚えていないということにいたしましょう。ですが、樫宮様が呉羽をいじめていないことになりません。呉羽の自己紹介のときに、舌打ちをしていることからも、樫宮様が呉羽のことをきらいなことは、めいはくです」
「あれは俺が悪かったと花屋敷にもそう言っている。それに別に花屋敷のことが気に入らないわけじゃない。どちらかといえばどうでもいい。ちょっと英語の自己紹介をウザく感じてしまった俺の器の小ささが悪いんだ」
俺には花屋敷を虐める理由など何一つ無い。あったとしても虐めなどしないが。
しかしこいつはなんでそんなに俺が虐めている思うんだ?なんか腹立ってきたな。
「そもそもなんでお前はそんなに俺を虐めの主犯にしたがるんだ。そっちの方が虐めだ!冤罪で責められるなど気分がわるいぞ!
お前こそ今すぐ虐めをやめろ!さてはお前、花屋敷や斎藤とやらと組んで俺を虐めの主犯に仕立て上げようとしているだろ!
俺はそんな陰謀には屈しないぞ!」
「あ、慊人落ち着いて。ひがいもうそうが凄いよ」
机をバンバン叩きながら俺は捲し立てた。
いかん。虐められてると思ったら変なスイッチが入った。
小学生の女の子相手に何をやっているんだ俺は。
「そ、そんなつもりは……、し、しつれいします!」
鴻巣は目に涙を溜めながら部屋を出ていった。
これからのことを考えると頭が痛い。
「女、子供にも容赦しないとは、流石慊人様です」
黙って成り行きを見守っていた狗神がいつものよいしょをしてくる。
全然流石じゃねーよ!最悪だろ!
今日はもう、何もやる気がしなかったので、家に帰って寝た。