第29話「球技大会の帰り道」
俺が打った球は、場外とはいかなかったが、雅彦と俺がホームベースに帰り見事逆転ホームランとなった。
歓声の中クラスメイト達に迎えられていると、めずらしく兼続と嘉手納が喧嘩をしていた。
「兼続! だから全力のストレートを投げろってサインしただろ! 首振りやがって」
「うるさい! あんな慊人の反応を見たら絶対いにけると思うだろう!」
少し言い合った後、やれやれといった感じで嘉手納は頭に手を置いて嘆いた。
「二人とも残念だったな。今回は駄目かと思ったぞ」
俺のせいでこの二人が喧嘩させてしまったと思うと少し罪悪感があったので、俺は二人の間に入ることにした。
「慊人様、兼続にカーブ投げさせただろ」
「カーブの方が速度が遅くて打ちやすそうだったからな、ストレートでも打てる自信はあったが念を入れた」
罰ゲームがあるのだ、手は抜けない。
「くっ……、卑怯な手を……」
「嘉手納も小賢しい手を使ってきたしな、俺は借りは返すタイプなんだ」
そう言って嘉手納を見ると渋い顔をして答えた。
「お互い様ってことかよ……」
「そういうことだ。それにしても嘉手納、今回はいつになく本気だったな」
「そりゃあ負けたら慊人様に何を命令されるか判らないからな」
その話が出る前から勝ちに来てた気がするんだが。
たまには兼続に勝たせてあげたかったのかもしれない。
「それでどうする。俺は何をすればいい?」
「うーんそうだな……、取り敢えず保留でいいか? 特に兼続にやってもらいたいことって無いんだよな。何も思いつかない」
「なんだそれは! 何かあるだろう!」
「まぁまぁ、いいじゃないか兼続。変な罰ゲームさせられるかと覚悟していたけど、保留なら慊人様のことだ、そのうち忘れるさ」
失礼な奴め絶対覚えておいてやる!
「あ、嘉手納は決めてあるぞ」
「げっ……」
「様付け禁止な」
女子の試合も終わっていたのですぐに表彰式となった。
俺達はクラス別にグラウンドの指令台の前に整列する。
整表彰式は先ほどのどこから湧いて来たのか判らない観客達のせいでとても賑わっていた。
ちなみにA組は女子男子共に優勝だ。
俺と高比良が代表で賞状とトロフィーを表彰台で受け取る。
もう聞き飽きた拍手喝采を貰う。
俺の名前を呼ぶ声が沢山聞こえてきたが、いつも通り聞こえないふりをしてクラスの列に戻った。
どうでもいいがこの学校はちょっとした行事でも優勝するとすぐにトロフィーが貰えるので家がトロフィーだらけだ。
母が喜ぶからいいが、個人的にはもうお腹一杯であった。
表彰後、教室で着替え、帰宅となった。
今日は疲れたので皆部屋には寄らず帰ることとなった。
「結城一緒に帰るか?」
「ううん、ちょっと用事があるから」
「そうか……」
俺は食い下がることなく、一人で帰宅することにした。
まぁ正確には狗神もいるが。
下駄箱を出るとすでに、ロータリーには運転手の真田が車を停めて、外で俺のことを待っていた。
「家まで頼む」
「はい、慊人様」
俺が送迎に使っている車は黒塗りの外車だが、リムジンとか恥ずかしいものには乗っていない。
いつも通り狗神は俺の隣に座る。
何かあった時のためらしいが、相変わらずに過保護な奴だ。
「狗神どう思う?」
「結城様のことでしょうか? 珍しいですね、慊人様が私にそういった事を私に聞くのは」
「あまり家の力に頼りたくないという気持ちがあるしな。しかしあるものを使わずに失敗するというのも馬鹿な話だと思ってな」
執事に頼るというのも、ある意味ズルのような気がするのだ。
もちろん全く頼っていないわけではないが。
俺は出来るだけ学校での人間関係や問題解決に狗神を介入させないようにしていた。
狗神は優秀だ、頼めば何でもすぐに解決させてしまいそうな気がする。
しかしそれはきっとズルというだけでなく、俺の求める結果とは食い違う。
「結城様と親戚筋にあたる皆藤様ですが、あそこも結構力を持った家ですね。皆藤様のお父様は、結城様のお父様の兄です。派閥争いに負けて親戚筋の皆藤家へと婿養子として入ったのです」
「結城と皆藤は従兄弟なのか」
「はい、そしてお父様同士大変仲の悪い兄弟で有名ですね」
なんか雅彦の家の未来を見ているようだ。
大変そうだけど頑張れ雅彦。
「まずそういった背景もあり、皆藤様と結城様の仲が良くない可能性は大変高いです。それに現に保育園時代、結城様は皆藤様に虐められていました。慊人様は覚えてないようですが、慊人様が助けたのですよ。慊人様が周りから怖がられる原因となった事件ですね」
「皆藤ってあいつか! 保育園の時のことなんてもう殆ど記憶にのこってないぞ。そうか…」
俺と結城が友達になる切っ掛けになった事件。
結城は4人程に囲まれて、殴られたり笑われたりしていた。
俺は年甲斐もなく子供相手に怒った事を思い出す。
まぁ容姿は俺も幼稚園児だったが。
もしかしたら体に合わせて精神年齢も低下していたのかもしれない。
あの頃感情をコントロールするのにかなり苦労していたのを思い出す。
それもあってか俺は凄く虐め行為に対して感情的になっていた。
生まれ変わる前の自分の姿と重なってしまったのかもしれない。
今思えば俺が園児に手を上げるなんて頭がどうかしている。
でもどうしても許せなかった。
やり方は間違えたが、後悔はしていない。
心の傷は簡単には癒えないことを俺は知っていたから。
それに結城を助けられたことは俺に対する救いにもなっていると思う。
まぁ手を上げたと言っても主犯格っぽい奴に一発パンチを入れただけだったのだが。
それが鼻に当たってしまい、鼻血を出しながらそいつが号泣してしまったため、ちょっとした事件になってしまったのだ。
それを見ていた子供達には俺が皆藤を血だるまにしていたように見えたかもしれない。
「それと、鴻巣様が言っていた教師を辞めさせたという話ですが、確かに一人辞めていますがそのことについては詳しくは判りませんね。ご希望であれば調べますが」
「そうだな、一応頼めるか」
「判りました」
「それで、結城はまた皆藤に虐められていると思うか?」
想像しただけで、腹の奥が煮えくり返りそうだ。
「それも判りません。最近よく会っているのは間違いないようですが」
「そうか……。どちらにしろ近いうちにはっきりさせた方がいいな」
「私もその方がいいかと」
俺は頬を腫らして登校してきた結城の姿を思い出していた。




