第22話「愛衣と柚姫」
お待たせしました。
21話投稿後、ブクマが結構伸びててびっくりです、ありがとうございます!
投稿始めた頃は時間があって3作ぐらい同時に書いてたのに、最近忙しくてこれだけで手一杯です。かなしい。
「おにいさま、よかったら今日は一緒に帰りませんか」
「慊人様、柚姫と帰りましょう、美味しいケーキ屋さんをお友達に聞いたんです、行きましょう」
ノックの後、二人の少女が部屋に入って来た。
ちょうど話しをていた結城の妹の柚姫と俺の妹の愛衣だ。
柚姫は長い髪を可愛らしく両端で結んでいて、結城に似て穏和な顔をしているが、明るく元気で性格はあまり結城に似ていない。
愛衣は樫宮特有の漆黒の髪を肩より上で切りそろえ、左側だけリボンで髪を結んでいる。
姉に似てくるかと思ったが、今の所落ち着いた性格の可愛い妹のままで俺はほっとしていた。
「柚姫、なんで付いて来るの。お兄様は私と帰るの」
「愛衣、それは慊人様が決めることでしょ」
「……そうね、お兄様どうなさいますか?」
なんだろう、愛衣の笑顔が少し怖い、仲が良くないという話を聞いたからだろうか。
いつもはこんなやり取りを見ても仲良しだなー、としか思わなかったのに。
「愛衣ちゃん、柚姫ちゃんいらっしゃい。俺でよければいつでも付き合うよ?」
「嘉手納様は御付き合いされてる方がいらっしゃるじゃないですか……」
「愛衣は嘉手納様と帰って、私は慊人様とケーキ屋さんに行けばまるくおわまるわね」
「柚姫、あなたね……」
柚姫なんてことを! 嘉手納と二人きりで帰るなんて絶対だめだぞ。
「まぁ何だ、みんなでケーキ屋にでも行くか?」
「慊人様、私は慊人様と行きたいんです! 百歩譲って結城兄様が付いてくるのは良いですけど、兼続と一緒は絶対に嫌です!」
「柚姫、あんまりお兄様を困らせてはだめよ、気を使って妥協案をだしてくれているんだから」
そういう言われ方されると何か恥ずかしいぞ、妹よ。
「は! 俺も女とケーキ屋なんかに行くなんてお断りだ! 甘い物きらいだしな!」
「柚姫も兼続きらい」
「もっておかしいだろ! 俺はケーキが嫌いだって言ったんだぞ!」
「じゃあ兼続が嫌い!」
柚姫は何故か兼続を凄く嫌っている。何があったかしらないがきっと兼続が嫌われるような事をしたんだろう、酷い奴だ。
「柚姫、無闇に人の事を嫌いなんて言っちゃだめだよ」
「だって結城兄様、兼続は慊人様の敵なんですよ!」
「そんなことないよ、服部くんは友と書いてライバルって読むって言ってたよ」
なにそれ、恥ずかしい!
「柚姫は国語でそんな読み方習ったことありません」
「ははは、じゃあ俺は何て書いて何て読むんだ?」
「うるさい嘉手納! 白藤……よけいな事を言うな」
「ご、ごめん」
柄にもなく兼続は照れているようで、顔が少し赤かった。
友と書いてライバルね、もしかしてこいつ俺に構ってほしくて突っかかってくるのか。
「柚姫、よく考えたら小学生が帰り道にケーキ屋に寄るのはちょっとな、そうゆうのは休日にしてくれ」
「本当ですか! わかりました!」
俺がそう言うと、柚姫は目をきらきら輝かせて喜んだ。
それにしても狗神がいるとはいえ、小学生同士がケーキ屋に放課後行くのってどうなんだ。
「二人はママゴトとかしないのか?」
「お兄様……、私達もう小学二年生ですよ」
「そ、そうか」
まだ小学二年生の間違いなんじゃないの……。
「じゃあ柚姫今日は愛衣の家に遊びに行こうかな」
「……なんでそうなるの、来なくていいわ」
そういえば柚姫ってたまにうちに遊びに来るよな、なんだやっぱり仲良いんじゃないか。
「行ってもいいでしょ、柚姫今日は愛衣と遊びたいな」
「榛名、佐奈達がどこ行ったか判る?」
「はい愛衣様、今日は沙奈様の家で遊ばれるそうです」
「ありがとう。お兄様すみません用事が出来たので一人で帰りますわ。失礼します」
「え?」
「あ、ちょっと愛衣! それはないでしょ!」
愛衣は榛名を連れて部屋を出ていき、柚姫もそれを追って出て行った。
「なんだったんだ……」
結局愛衣は俺と一緒に帰らず、柚姫は家に来ないのか。何しに来たの。
「俺達も帰るか、結城どうする?」
他の三人とは方向が逆なので、帰りはいつも結城と二人だ。
「ごめん慊人、僕このあとちょっと用事あるんだ」
「……そうか、わかった」
その日の夜、俺は夕飯を終えて部屋でくつろいでいると柚姫から電話が掛かって来た。
「あ、あきとしゃま。こんばんわ」
「こんばんわ、どうした柚姫」
「け、けーき屋さん……」
「ああ、そういえば休日行こうって話だったな」
「あ、あしたいきまませんかっ!」
「そうだな、土曜で休みだし特に用事もないし行こうか。それにしても様子が変だけど大丈夫か?」
「っだだだだいじょうぶです! ありがとうごじゃいます!」
愛衣にも声かけた方がいいかな?
「あ、愛衣と結城兄様はよばないでくださ、さい!」
「わ、わかった」
時間と待ち合わせ場所を決めて俺は電話を切った。
結城と愛衣も入れて四人で行くものだと思ったが二人きりってことか、柚姫と二人で遊ぶのって初めてだな。
それに明らかに様子がおかしかったが、何かあるのか?
次の日、待ち合わせ場所にやってきたのは三人の少女だった。
柚姫が知らない女の子2人を後ろに連れてやってきていた。
「慊人様ごきげんよう、今日はありがとうございます」
「ああ、別にそれは良いんだが、後ろの二人は」
柚木の小さな背中に隠れてこちらの様子を伺っている二人に視線を移しながら俺は尋ねる。
「友達の葛西静と宮脇明日香です。一緒に来たいというので連れて来てしまいました、だめでしたか?」
「いや、それは構わないが」
そういうことは事前に言っておいてほしいぞ。小学二年生の女の子三人か……、完全に御守りだな。
この面子でケーキ屋行くのか……。
「は、はじめまして、かさいしずかです」
「み、みやわきあすかです」
二人とも緊張の面持ちでこちらを見ていいる、なんだかこっちも緊張してくるな。
「はじめまして、よろしくな」
俺がそう言うと二人はやっと笑顔をみせてくれた。
「二人とも緊張しなくて大丈夫だよ、慊人様はとっても優しいから」
「は、はい。ゆずきさま」
「おはなしできるの、うれしいです」
「取り敢えず店に入ろうか。狗神、付き添いなんだから出てきてくれ」
俺が声をかけると、すぐに狗神が姿を現した。
俺の生活を邪魔しないためらしいけど、見えないと逆に気になるんだよ。
「はい、すみません癖で」
「なんかお前、忍者みたいだよな……」
ケーキ屋は凄く高級感溢れる店だった。どう考えて小学生来るような店じゃない。
殆どの席が埋まっているように見えたが、事前に柚姫が予約をしてあったようで、すぐに席に座ることが出来た。
メニューを見ると一番安くて、ケーキが1200円でドリンクが800円。
間違いない、ここぼったくり店だろ!
「高いな……」
「え、そうですか? どれも安くて美味しいお店と評判なんですけど」
どこで!?
金持ちの金銭感覚おかしすぎる。
「いや、実はあんまり値段気にしたこと無いから良く判らないんだ、ははは」
取り敢えず見栄を張ってごまかしておくことにした。
本音を言えばケーキとドリンクにこんな値段絶対払いたくない、帰りたい。
「樫宮様、白藤様、本日はご来店ありがとうございます。私オーナの田口と申します」
「あ、ああ」
「本日は料金を全てサービスさせていただきますので、どうか今後とも当店をよろしくお願いします」
「いや、そうゆうのは辞めてくれ、他の人と同じ客なんだ特別扱いは必要ない」
「そ、そうですか。わかりました。それではごゆっくり」
小学生相手わざわざオーナーが出てくるとは、面倒くさいから俺がどこか予約する時は偽名でも使うかな。
何か素性が知れていると思うと落ち着かないし。




