第21話「ロイヤル5」
夏休みが終わろうとしていた。
後半は結城や斎藤だけでなく、遊園地で佳苗が仲良くなった鴻巣や花屋敷なのども交えて何度か遊んだ。
転生前の記憶があるとはいえ俺も子供なのだろう、かなり楽しい夏休みだった。
もしかしたら、前世も含め一番楽しかったかもしれない。
「帰りたくないわ。私も桜城に通いたい」
先週から佳苗は帰りたくない、桜城に通いたいと繰り返していた。
今日は佳苗が帰る日だ。
外の佳苗が乗って帰るヘリの前で見送りをしていた。
見送りのメンバーは俺だけだった。
他の人間には先に挨拶を済ませている。
「学校面白くないのか?友達だっているだろ」
「いるけど、慊人はいないわ」
「また来年の夏遊びに来ればいいだろ、今度は一週間くらいでな」
流石に一ヶ月は長過ぎだと思う。次はもうちょい短めで頼みたいところだ。
「私もお嬢様は桜城に通うべきだとは思うのですが、何分まだ小学生ですからね」
倖月の言うことはもっともだな、子供のうちは親元が良い。
「いつか絶対にこっちに来るわ。慊人、絶対に待っててね」
「はいはい、多分な」
「……不安だわ」
もしかして俺が他の女と付き合わないか不安なのか、それなら心配無用なんだけどな。
少なくても子供のうちはだが。
「慊人、次会う時には絶対答えをもらうわ。またね!」
そう言って、目に涙を浮かべながら佳苗はヘリで飛びだっていった。
俺は手を振りながら。来年はさらに積極的に来そうで怖いなと思った。
しかし次の年、佳苗は遊びに来なかった。
あの夏以来、遊びに来るどころか一度も姿を見ていない。
何かあったのかと心配もしたが、狗神の話ではそういったわけでも無いらしい。
そして佳苗の記憶も頭の片隅に追いやられた頃、俺は小学四年生になっていた。
「慊人! 今年の運動会は不覚を取ったが、俺は夏休みの秘密とっくんでパワーアップした! 今から勝負しろ!」
「ははは兼続、今年はじゃない、今年もだろ」
「嘉手納はうるさいぞ!」
いつの間にかロイヤルルームに居着いた、嘉手納と兼続。
兼続が毎年運動会で俺に負けて、夏休み中か夏休みが開けた後ぐらいに再戦を申し込んでくるのが、いつの間にか恒例行事になっていた。
「兼続の負けず嫌いな所は嫌いじゃないが、出来れば俺以外に向けてくれないか」
「慊人様、これでも兼続は運動も勉強も出来る方なんだぜ、ライバルなんて慊人様ぐらいだよ」
いつの間にかライバルにされていた。勘弁してくれ。
「俺は手を抜いているだけで嘉手納も相当出来ると思っているが」
「それは過大評価だなー」
「こいつは自分の立場で努力なんて必要ないと思っている腑抜けだ」
それは家が金持ちだからということだろうか、小学生なのに嫌な価値観持ってるな……。
「誤解されるようなこと言うなよなー、間違ってないけどさ」
間違ってないんかい!
「あれ、結城がいないなんて珍しいな」
雅彦が遅れて部屋に入ってきて、意外そうな顔をした。
「ああ、何か用事があるそうだ」
「なんだ、詳しく聞いちゃまずいような用事か? まさか告白とか?」
「いや、俺も詳しくは聞いてない」
結城が告白? まぁ俺たちも小学四年生だし好きな子の一人や二人いてもおかしくないが。
「慊人にも隠すなんて、ますます怪しいな」
「俺に相談してくれれば、色々教えてやるのにな」
結城が俺に隠し事? 何だろう凄く嫌な気分だな。
「冗談だよ慊人、そんな悲しそうな顔するなよ。わるかったよ」
げ、顔に出てたか。俺はポーカーとかしないほうがいいかもしれない。
「それにしても、嘉手納って付き合ってる子いるんだ?」
「こいつの話は面白く無い、聞かないほうがいいぞ」
「おいおい、人聞きの悪いこと言うなよな」
三人が話ているのを尻目に俺は結城のことを考えていた。
夏休みは5人でよく遊んだ。
その時は特に結城に変わった所は無かった。
夏休みが終わって一週間経つが、そこも特に気になることは無いな。
「慊人聞いたか! 嘉手納の奴二人の女子と付き合ってるらしいぞ! ふりんだ!」
俺が考え事しているうちに嘉手納の女の話になっていたようだ。今更な気もするが雅彦は知らなかったらしい。
「嘉手納……、俺はお前の将来が不安だよ」
あと雅彦、それは不倫じゃなくて、ただの二股だ。
俺は次の日の放課後、部屋でそれとなく、昨日何をしていたか結城に聞いてみることにした。
部屋には結城と昨日のメンバーが集まっていた。
「そういえば結城、昨日何してたんだ?」
「え、他のクラスの友達と話してただけだよ?」
結城って俺以外に友達いたのか! 知らなかった。
この部屋に集まっている雅彦や兼続達ともあまり仲が良いとは言えないのに、俺の知らない間に他に友達を作っていたなんて。
「そ、そうか。何て名前の奴だ?」
「えーと、何だっけ、忘れちゃった」
「慊人かよ!」
雅彦の突込みが何気に酷い。最近はちゃんと人の名前を覚える様にしてるぞ。
「白藤隠す必要はないぞ、嘉手納なんて二人の女と付き合っているんだ」
「えっ? 何のこと服部くん?」
「昨日白藤が女と会っているという話になっていたんだが、ちがうのか?」
「ち、ちがうよー! ごかいだよぉー!」
珍しく結城が大きな声を出して否定した。
顔を赤らめながら手の平を顔の前でばたばたと振っている。
「隠す事ないよ、結城。男はみんな女の子が好きなんだから。今度ダブルデートしようじゃないか」
そう言いながら、嘉手納は結城の肩に手を伸ばした。
何だこのちゃらい小四は。
「もう! 嘉手納くんまで! ちがうったら」
「そこら辺にしとけ、違うって言ってるだろ」
結城の反応を面白がって、調子乗り過ぎだ。
こうゆう乗りは好きじゃない。
「わるいわるい、からかってた訳じゃないんだ。結城も慊人様も怒らないでくれよ」
「別に怒ってないけど、違うから」
「まぁ結城に友達が増えることは良いことだ、大事にしろよ」
「……うん。ありがとう」
ちょっと寂しいけどな。
「それにしても相変わらずこの部屋って男ばっかりだよなー、愛衣ちゃんと柚姫ちゃんは今日も来ないの?」
微妙の空気を切り替えるように、嘉手納が新しい話題を切り出した。
結局また女の話ではあるが。
愛衣と、結城の妹である柚姫は現在2年生でたまにこの部屋に遊びに来ていた。
「何度も言ってるが、愛衣に手を出したらただじゃおかないぞ」
「柚姫にも絶対手をだしちゃ駄目だよ」
「そんなつもり無いって、俺年上好きだから大丈夫」
全然安心できない。今は小学生だから年上好きかもしれないが、成長したら年下も行けるようになるかもしれない。
いや、こいつならそうなるな。
「男同士の方が気が楽じゃないか、女はすぐに注意してくる。それに俺は何故か結城の妹には嫌われているしな」
「ははは、兼続は空気よめないから」
「嘉手納うるさい!」
「二人とも友達多いみたいだから付き合いで忙しそうだぞ、2年生の二大グループになってるみたいだし」
雅彦の言葉に俺はすこし驚いた。
「何だ2大グループって」
「良くも悪くも二人は目立ってるってことだな。二人ともあんまり仲良くない事もあって派閥が結構別れてるみたいだぞ」
「派閥って……、っていうか二人って仲悪いのか?」
「慊人は知らないかもしれないけど、うちの柚姫と愛衣ちゃんはたまに口喧嘩してるよ、すごく仲が悪いって程じゃないけど」
そうだったのか……、二人とも可愛くて凄く良い子なので、口喧嘩してる姿なんて想像出来ないな。
それに結構二人でいるところを見かけるから、逆に凄く仲が良いと思っていんだが。
「それにしても、小学二年生が2大グループとか、派閥とか頭の痛くなる話だな。そうゆう面倒くさいのは嫌いだ」
「ははは、そんな事言ったら俺達のグループなんて最大最強の派閥だよ、慊人様」
「そうなのか? 別に派閥なんて作ってるつもりはないぞ」
「御三家の慊人様筆頭に、新旧五大名家の長男がこれだけ揃ってるんだ。中等部や高等部のお姉様方からもロイヤル5(ファイブ)って呼ばれて目を付けられてるんだぜ」
「ぶっ! 何だその恥ずかしい呼び名は!」
「うわっ! 慊人汚いよ! コーヒー吹かないで!」
「すまん」
「基本的に名家や御三家の人間って、子供の頃から自尊心が高くて、あんまり仲良くならないから、俺達って結構珍しいんだよな。まぁ俺だけ長男じゃないんだけど」
「斎藤家は遅かれ早かれ雅彦が継ぐことになるから大丈夫だ」
「その話まだ覚えていたのか……」
それにしてもロイヤル5はねーよ! パチモンの戦隊ヒーロかよ……。
なんだか今日は知りたくも無い情報を一杯知ってしまった気がする。




