表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/42

第19話「デス・マウンテン」

もう少しで夏休みの話も終わりで、慊人達は一気に3年生になる予定です。

 佳苗の兄、奏斗かなとが去った後何食わぬ顔でやって来た亜美を問い詰めると、言いがかりだと怒って帰ってしまった。

 一緒に風呂に入るのは回避できたが、当分機嫌が悪くなりそうで憂鬱だ。

 出来るだけ佳苗と亜美が顔を合わせないようにしようと俺は心に誓った。


 そんなことよりも今日は遊園地だ。都心の外れにある大人気テーマパークに俺は愛衣あい佳苗かなえと向かっていた。

 運転手は真田で、保護者として当然狗神と倖月も同行している。

 人数が多いので、いつものセダンには乗り切らなかったため、狗神と倖月は後ろから別の車から付いて来ていた。


「狗神って運転出来たんだな、あいつ今何歳だっけ」


 結構若かったはずだけど、いつの間に運転免許なんて取ったのだろう。


「狗神さんってまだ成人していないはずよね」

「俺が狗神に声かけたのが17歳くらいはずだからな、18歳ぐらいかな」

「おにいさま、いぬがみは19さいです。おたんじょうびは6がつ8にちですよ」

「……もう過ぎてるじゃないか」


 プレゼントを渡すどころか祝ってもいないな。来年はちゃんとしよう。


「わたしはぷれぜんとあげました」

「あら、何をプレゼントしたの?」

「にがおえです! すごくよろこんでくれました!」


 まぁ愛衣に祝われたのなら、狗神も満足しただろう。よかった、よかった。

 ここに結城がいたら怒られただろうな。狗神の誕生日を忘れていたことは結城には黙っておこう。


「慊人、専属の執事の誕生日くらい覚えておかないとだめよ」

「はい……」

「愛衣ちゃんは、えらいわね。よしよし」

「えへへ」


「到着いたしました」


 テーマパークの駐車場に車を停めると、真田がドアを開ける。


「5時には帰宅する予定だ。5時までは好きにしていてくれ」

「かしこまりました」


 真田に声を掛け、狗神からフリーパスチケットを受け取り、入園口に5人で並ぶ。


「夏休みはやはり混むな」

「これでも空いている方ですよ。夜中でしたら貸切で遊ぶことも可能だったのですが」

「いや、そういうのはいい」


 もしかして狗神さん、貸切にする交渉したの!?

 そんなことしたら、ここで遊ぶことを楽しみにしていた人達が泣くぞ……。


 入園すると、このテーマパークのマスコットキャラクター達が迎えてくれた。

 佳苗と愛衣が嬉しそうに着ぐるみに手を振っているのが微笑ましい。


「それじゃ、さっそくあれに乗りたいわ!」


 佳苗が嬉しそうに指をさす先をみると、この遊園地自慢の絶叫マシーンだった。

 ちなみに俺は絶叫系のアトラクションが嫌いだ。


「いきなりあれは無いだろう。取り敢えずあれぐらいにしておこう」


 俺は比較的緩い、世界観を楽しむ系の乗り物を提案した。


「まぁいいけど」

「愛衣もこっちの方がいいよな?」


 佳苗がちょっと不満そうなので愛衣を味方に付けようと俺は問いかけた。


「わたしも、かなえさまのがのりたいです!」

「そ、そうか。あとでな!」


 俺の思惑は打ち砕かれた。

 出来れば何とか乗らない方向に持っていきたかったが、無理そうで心の中で泣いた。


 アトラクションはファンタジー世界に入ったような幻想的な世界が作られていて、ストーリー仕立てでとても楽しかった。

 やっぱりここの遊園地はこういうのだよな。


「まぁまぁだったわね。つぎはいよいよあれね!」

「いやいやいや、まだ早いだろう。そういえば朝食がまだだったよな? 飯食おうぜ」

「私お腹空いてないけど」

「愛衣はお腹空いたよな?」

「おにいさま、わたしもすいてません」


 ……お前らそんなにあの怖そうな絶叫マシーンに早く乗りたいのか。


「朝食を取らないと健康に悪いんだぞ、取り敢えず朝食だ!」

「……それもそうね」

「はい、おにいさま」


 なんとか説得して、俺達は近くにあった飲食店で食事を取ることにした。

 サラダとカットされたピザをみんなで注文して食べる。

 こういった場所で取る食事は不思議と凄く美味しく感じるな。


「俺としては次はこれに乗ってみたいんだが」


 食べ終わると俺はテーブルにパンフレットを広げて、次のアトラクションの提案をした。


「慊人、もしかしてあれに乗るのが怖いの?」


 佳苗は例の絶叫マシーンを指さして聞いてくる。


「怖いか怖くないかじゃない、これに乗りたいんだ」

「デス・マウンテンの後でいいじゃない、私も愛衣ちゃんもこれに乗りたいわ」


 デス・マウンテンとはさっきから佳苗が乗りたがっている絶叫マシーンだ。

 ジェットコースターという既成概念を打ち破った究極の絶叫マシーンとして今年作られた、この遊園地で今一番注目されているアトラクションである。

 既成概念を打ち破ったって何なの、そのキャッチ―フレーズが既に怖い。

 そもそもデスって付いてる時点で完全に殺しにきてる、この乗り物は絶対ヤバい。


「おにいさま、こわいのですか?」


 愛衣が首を傾けながらつぶらな瞳で見つめてくる。

 

「こ、怖いわけがないだろう。そうだな、次はデス・マウンテンにするか! ほら俺って楽しみは後に取っておく方だから、もうちょっと後の方がよかったけど、二人共早く乗ってみたい様だししょうがないな!」

「慊人……」


 つい愛衣の前だから恰好を付けてしまった。佳苗には見透かされていそうだが、こうなったら腹を括るしかない。


 俺達はデス・マウンテンの列に並ぶ。

 もしかしたら愛衣が年齢制限に引っかかるのではと期待したが、残念ながら身長も年齢も問題なかった。

 こんな可愛くて幼い子をデス・マウンテンに乗せるとか何て鬼畜な……。


「そういえば愛衣って絶叫系って乗ったことあるのか?」

「はじめてです! たのしみです!」


 この後の恐怖を知らずに、愛衣は無邪気に答える。

 

「おい狗神! 初めての絶叫マシーンがこれじゃあ愛衣がトラウマになってしまうかもしれないじゃないか、やはり辞めた方が……」

「慊人様大丈夫ですよ、みなさん愛衣様ぐらいの年代で乗っていますよ」

「そうなのか……」

「慊人、心配しすぎよ、たかがジェットコースターじゃない」

「デス・マウンテンはジェットコースターじゃない。既成概念を打ち破った謎の絶叫マシーンだぞ」

「謎って、CMも流れてて大体どんものか判っているし、パンフレットにも説明があるじゃない。大丈夫、普通のジェットコースターよ」

「そ、そうなのか……」


 話しているうちに俺達の順番が回ってくる。

 赤い乗り物に5人で乗り込む。2列の6人乗りで、俺が知っているジェットコースターよりも短めである。

 俺は先頭で横に佳苗、次に狗神と愛衣。倖月は一人で座っている。


 やたらテンションの高いアナウンスを聞きながらマシンは出発していった。

 最初はゆっくりと上昇していき、山をテーマにしたファンタジー世界を緩やかに楽しめた。

 しかしこれに騙されてはいけない。

 出口に差し掛かると乗り物は急降下を始めた。


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ」

「あはっははっははは」

「きゃーーーー!」


 隣の佳苗は何か笑ってる、きゃーって声は愛衣だ。

 ……倖月の絶叫すげーな!


 俺は目を瞑ってアトラクションが終わるのをひたすら待った。

 時間にして8分くらいだったというのに、1時間くらい乗っていた気がする。

 

 とにかく凄かった。既成概念を打ち破ったというか、色々な種類の絶叫マシーンを詰め込んだという感じで、畳み掛ける様に恐怖が訪れた。

 一生分の絶叫マシーンに乗った気分だ。もう二度と乗りたくない。


「凄く面白かったわ! 今まで乗った中でも一番ね!」

「オロオロオロオロオロオロ」


 佳苗さん、倖月さんが後ろでめっちゃ吐いてますけど。

 見てると貰いゲロしそうで、俺は目を逸らした。


「おにいさま! すごかったですね!」

「ああ、凄かった、本当に凄かったよ」

「もういっかいのってもいいですか?」


 愛衣が上目づかいで聞いてくる。うんと言ってあげたいけど、お兄ちゃんこれ以上無理っぽい!


「そうね、もう一回行きましょう! 次いつ来れるか判らないし、もう何回か乗っておきたいわ」


 何回乗る気なの!?


「おにいさま?」

「愛衣すまない、俺はトイレに行きたいから佳苗と乗って来てくれ」

「おといれですか? まってますよ?」


 愛衣の優しさが辛い……。


「どうやら慊人は絶叫系が苦手みたいね、正直言えばいいのに」

「べつに苦手じゃないが、今日は調子が悪いんだ。どの道休憩したいから俺を置いて行って来てくれ」

「判ったわ、じゃあ倖月と待っていて」

「そんなお嬢様。私も行きます、おえーーーー」

「まさか倖月が絶叫系苦手だったとはね、いつも楽しんでるのかと思ってたわ……」

「すみませんお嬢様、まさかお嬢様の前でこんな失態を見せてしまうとは。恐るべしデス・マウンテン」


 このまま乗ったら倖月のゲロがまき散らされる事になるだろう、引率は狗神に任せて、二人で休憩しておこう。


「狗神、二人の事は任せたぞ。狗神は平気だよな?」

「はい慊人様。お任せ下さい。倖月さん、慊人様を頼みましたよ」

「わかりました、狗神様よろしくお願いします。お嬢様どうか御無事で……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ