第18話「ブラコンとシスコン」
お待たせしました!最近ちょっと忙しくて遅れ気味ですが、ちゃんと書いてます!
そこには佳苗が怖い顔をして立っていた。
「亜美様なにをやっているのですか!」
佳苗は俺と榛名の姿を見て驚いた顔をした後、亜美を睨みつけながら咎めるように言った。
「なにって姉弟で戯れていただけよ、それよりも勝手に入らないでくれる?櫻田の長女ははしたないわね」
「何故榛名さんが手を繋がれ、慊人様が床に手を付いて息を切らしているのですか。はしたないのは亜美さまの方ですわ」
「家の事に余所者が口出ししないでもらいたいわ、弟の慊人と家の使用人である榛名を私がどうしようと、私の勝手だわ」
さっそく言い合いが始まってしまった。
立場は一応長男である俺の方が上だし、榛名は俺の使用人なんだが。あまり勝手にはしてほしくないな。
「年長者だからといって、勝手が許されるものではないですわ!」
「そうだとしても、余所者のあなたに口出しされる筋合いは無いと言っているのよ!」
今回は愛衣もいないので俺が止めないと殴り合うまで続きそうだ。
もちろん実際に殴り合うことなどないだろうが、二人の迫力が俺にそう思わせた。
二人が言い合っているうちに榛名を開放して、俺は二人を止めに入った。
「二人ともそれぐらいにしてくれ、お姉様、約束は守りますから」
俺が止めに入ると、二人に不満そうに睨まれてしまった。こわい。
「……ふん、はしたない櫻田の女をとっととこの部屋から連れ出して」
「佳苗、もう行くぞ。それではお姉様失礼します」
「……お邪魔しましたわ」
「あなたは二度と来ないで」
また言い合いが始まらないうちに、佳苗の背中を押して外に出て扉を閉めた。
そのまま不満そうな佳苗と榛名を連れて俺の部屋に戻った。やっと一息つくことが出来る。
「……もう少し仲良く出来ないのか」
「亜美様は私の事が嫌いみたいだから無理ね」
俺がソファーに腰掛けながら佳苗に話しかけると、佳苗は俺の隣に腰掛け、身を寄せながら答えた。
俺は少し横にずれて佳苗と距離を取ってから会話を続けた。
「佳苗も好きそうには見えないが」
「敵意を向けてきてる人間を好きになるなんて無理だもの。嫌いな相手でも上っ面の付き合いぐらいはするけど、亜美様とは何故かああなってしまうのよね」
出来れば年上である亜美の方に大人になってもらいたいものだが、怖くて俺には注意する勇気はない。
「それよりも部屋に来る途中で榛名さんに聞いたわ、首を絞められてお風呂を一緒に入るように強要されたんですって!これは虐待よ!」
「虐待は言い過ぎだと思うが……」
「そんなことないわ! 慊人の首を絞めるなんて殺人みすいよ! それに榛名さんにもあんなことして! 亜美様は自分勝手が過ぎるわ!」
「お、落ち着け。殺人未遂は話盛りすぎだぞ。……そういえば榛名は部屋に繋がれて何されたんだ?」
「慊人様……セクハラです」
「使用人にセクハラなんて最低ね」
何でだよ!? 気になるけど聞くのが怖い!
「おにいさま。はいってもよろしいですか?」
ノックの音ともに可愛らしい声が響く。扉を開けると愛衣が立っていた。
愛衣に閉ざす扉は無い。俺は愛衣を部屋に招き入れた。
今まで俺が座っていたソファーに愛衣を座らせ、俺は正面の椅子に座った。
「おにいさま、あしたはどこにいくんですか?」
「ん?明日か……、そろそろネタ切れなんだよな、特にまだ考えてないんだ」
「そうですか……」
そう言うと愛衣は寂しそうに俯いた。俺なんか悪いこと言ったか!?
俺が愛衣の様子に戸惑っていると、佳苗が口を開いた。
「そうだわ!明日は愛衣ちゃんも一緒に遊びましょう! ね、いいわよね慊人?」
「あ、ああ当然だ!そうだな愛衣、明日は一緒に遊ばないか?」
そういえば夏休みに入ってから全く愛衣と遊んでいなかった。俺としたことが愛衣に寂しい思いをさせてしまったかもしれない。
「いいんですか?おじゃまじゃないですか?」
「邪魔なわけないだろう、愛衣だったらいつでも大歓迎だぞ」
「そうね、私も愛衣ちゃんと一緒に遊びたいわ、一緒に遊んでほしいなっ」
「うれしいです。おにいさまとかなえさまと、わたしもあそびたかったです」
その台詞を聞いた佳苗は愛衣を抱きしめてくるくると回った。
「明日からはずっと一緒に遊ぼうね!」
「そうだな、遊園地なんてどうだ。愛衣行きたがっていただろう」
「わー! いいんですか!? でも、おかあさまはいつもだめだって……」
「俺に対しても、狗神が来るまでは過保護だったからな。多分狗神と一緒なら問題ないだろう。夜俺から許しをもらっておくよ」
「おにいさまありがとうございます! だいすき!」
愛衣はそう言いながら佳苗から俺の方へ抱きついて来た。守りたいこの笑顔。
「愛衣ちゃん私は!?」
「もちろんかなえさまも大好きです! だいすきなふたりと、ゆうえんちにいけて、わたししあわせです!」
二人の手を取って間で嬉しそうにぴょんぴょんと愛衣は跳ねた。
もっと早く誘ってあげればよかった。今後は愛衣も一緒に遊ぶことにしよう。
三人で遊園地に行く事が決まり、自然と腰を下ろしてお喋りの時間となった。
愛衣はソファーに座る佳苗の膝の上に座り、俺はその横に腰を落ち着けて、二人の話を相槌をうちながら聞いていた。
すると何だか外が騒がしい事に気が付いた。何かあったのか?
様子を見に行こうかと腰を浮かすと榛名の携帯が鳴った。
「はい鈴木です。えっこちらに? 慊人様こちらに奏斗様が――」
榛名が言い終わる前に勢いよく扉が開かれた。
「佳苗迎えにきたぞ!!」
「お、お兄様!?」
現れたのは何と佳苗の兄で櫻田家の長男である、櫻田奏斗だった。
そしてその後を勢いよく狗神を先頭にした使用人数人が部屋になだれ込んで来て奏斗を床に押さえつけた。
もしかして、こいつ不法侵入でもしてきたのか?
「奏斗様勝手に入られては困ります。慊人様お騒がせしてすみません」
「別に構わないが……、何事なんだ?」
「奏斗様が不法侵入したのです。一度は捕まえてお帰り願ったのですが、佳苗様を取り戻すと言って逃げてしまったのです」
本当に不法侵入かよ……。
そういえば奏斗って佳苗の事を溺愛しているんだったっけ。こんな破天荒な事する奴だとは思わなかったが。
普段は結構大人しい印象があった。
容姿が良い上に櫻田の長男ということで、いつも女性に囲まれて詰まらなそうにしている所を何度か見たのを思い出す。
「佳苗! こんな所にいては駄目だ! 佳苗が穢れる!! 俺と一緒に帰ろう!!」
「お、お兄様……、帰るわけありませんわ、お一人でお帰り下さい」
佳苗は押さえつけられた兄を軽蔑したように見ながら、冷静にそう言い放った。
「樫宮慊人! 佳苗に何を吹き込んだ!! こんな変態野郎の何が良いんだ!!」
「奏斗様、俺のどこが変態野郎だと言うのですか」
俺に変態の要素などない。酷い言いがかりだ。
「とぼけても無駄だぞ、亜美様から聞いたんだ……、佳苗と……佳苗と……」
え、亜美から聞いたってもしかして。
「風呂に入っただろおおおおおおおおおおおお!!!! 佳苗を穢しやがってえええええええええええ!!!!」
「お兄様キモチ悪いですわ……」
「奏斗様落ち着いて下さい。小学生同士ですよ、亜美様に何を吹き込まれた知りませんがいい加減にしてください。怒りますよ」
狗神が怒った時に見せる黒い笑顔をしだした。
取り敢えずお姉様は、お母様に叱ってもらわないとな。
「お兄様、これ以上樫宮のみなさんにご迷惑をかけると二度と口を聞きませんわ」
その一言で興奮状態だった奏斗は石になったように静止した。
「そんな佳苗……、櫻田よりも樫宮を取るというのか……っ」
何を言っているんだこいつは。容姿端麗で女子から大人気の、普段は王子扱いされている男の姿とは思えない。
こんな残念な奴だったとは……。
「奏斗様、奏斗様は櫻田の長男なんですよ、もう14歳になるのですからもう少ししっかりなされた方が……。自分が何やってるか理解しているんですか?」
「慊人様の言う通りですわ、妹として恥ずかしいです。倖月」
「はい、お嬢様」
佳苗が倖月に声を掛けると、俺達の後ろで黙って様子を見ていた倖月が奏斗に近づいていった。
「奏斗様失礼します」
「ちょ、まて倖月! がはっ!!」
首筋をチョップで叩いた思うと、奏斗は白目を剥いて気絶してしまった。映画かよ……。
「お騒がせして申し訳ありませんでした。後日謝罪に伺いますので、奏斗様は戴いて行っていいでしょうか?」
「お、おう。いや、謝罪はいらない。これは見なかった事にしよう。みんないいな?」
その場にいた全員が俺の言葉に頷いたが、佳苗だけは不満そうだった。
「慊人様は甘いですわ。この男は絶対に反省しません」
「うちがどうにかする訳にもいかないだろう……、後の事はそちらにまかせる」
「それでは慊人様、お嬢様失礼します」
そう言うと倖月は気絶した奏斗の頭を掴んで、引きずりながらどこかに連れて行ってしまった。
「慊人様、一応様子を見ておきます」
「ああ、頼んだ」
倖月を追う狗神の背中見ながら俺はため息をついた。
なんというシスコン……。




