第17話「勝負の後は」
すみません!大変お待たせしました!
兼続との決闘はあっけなく俺の勝利で終わった。
なんだかちょっと申し訳ないくらい俺の圧勝だった。
兼続は膝と手を地面に着けて落ち込んでしまった。
「兼続、お前も十分早いんだ落ち込むことはない」
「自分から決闘を挑んでおいて、負けるなんて無様ね」
「……佳苗はちょっと黙っててくれ」
なんか兼続に対して当たりが強い気がするのは俺の気のせいだろうか。
「一体どんな特訓をしていたんだ?」
「兼続はトレイナーを雇って本格的に鍛えていたんだ。もうすこし良いところまで行くと思ったんだがな」
兼続に聞いたつもりだったが、答えたのは嘉手納だった。
それにしても、もっと子供らしい特訓を思い浮かべていたんだが、流石金持ちだな。そんな本格的にやっていたとは。
「俺の負けだ……、好きにしろ」
「好きにしろと言われてもな」
確か俺が勝ったら、もう突っかかって来ないって約束だよな、それ以上を求める気はないんだが。
「あれもう終わっちゃった?」
「その様子だと慊人が勝ったみたいだな」
「結城、雅彦。なんだ見に来たのか」
結城と雅彦がこちらに歩いて来て、声を掛けて来た。
そういえば二人の前で決闘を挑まれたんだったな。
早めに始めてしまったせいでタイミングがずれてしまったようだ。
「佳苗様お久しぶりです」
「結城久しぶりね。相変わらず可愛いわね」
「佳苗様、僕は男なのでかわいいと言われても嬉しくないのですが」
「褒め言葉のつもりよ、喜ぶべきだと思うわ」
結城は可愛いと言われることを気にしていた。事実だから仕方がないと思う。
「初めまして、慊人様と仲良くさせてもらっている斎藤雅彦と申します」
「はじめまして、櫻田佳苗ですわ。お兄様の八尋様とは何度か顔を合わせたことがあるけど、雅彦様とは初めてね」
「兄が失礼なことを言ってなければいいのですが」
「あなたのお兄さんが櫻田に失言するなんてあり得ないと思うから安心していいわ」
「それは確かに」
「慊人からお兄様とは違って、見所があると聞いているわ、よろしくね」
「こちらこそ」
自己紹介をしている三人を横目に俺は、兼続の事を考えていた。
別に悪い奴じゃないし、勝とうと努力する姿勢は好感が持てる。
俺はこのまま、もう突っかかって来るなと突っぱねるのも可哀想な気がしてきていた。
「まぁなんだ、また勝負がしたければ受けてやるからそんなに落ち込むな」
「本当か!?」
俺がそう言うと兼続は嬉しそうな顔をして立ち上がった。
もしかして俺に構ってほしいんだろうか。
「慊人がそんな事言うなんて意外だよ」
「結城、慊人は優しいのよ。ただちょっと恥ずかしがり屋で面倒くさがりなだけで」
誰が恥ずかしがり屋だ、面倒くさがりってのは当たっているかもな。
「せっかく集まったんだしロイヤルルームでお茶でも飲んでいくか。二人も来るだろ?」
俺は兼続と嘉手納にも声を掛けた。
「い、いいのか?」
「別に遠慮するような事じゃないだろ、部屋でお茶飲みながら喋るだけだ」
兼続は視線を嘉手納に向けた。
「もちろん俺は行くよ。あの部屋って秘密基地みたいで、ちょっと羨ましかったんだよな」
「嘉手納が行くのなら、当然俺も行かないとな!」
嘉手納が行くと言うと嬉しそうに兼続もそれに続いた。
もしかしたら兼続はロイヤルルームを使いたかったのかもしれない。
勝負で負けたことなど忘れたようにご機嫌な様子で俺達に付いてきた。
部屋に入るといつも使っている中央のテーブルに腰を掛ける。
結構広いテーブルなので5人で使っても狭くは感じない。
各々好みの飲み物を狗神に入れてもらい、何気ない話をする。
「そういえば嘉手納って下の名前は?」
俺は嘉手納の下の名前を聞いていないことに気が付いた。この中で嘉手納だけ苗字で呼ぶのも変な感じだ。
「……言わなきゃだめか?」
嘉手納は渋い顔をして、言い淀んだ。もしかして変な名前なのか?
最近は無理やり当て字をしたキャラクターの名前とかあるらしいしな。
「無理にとは言わないが、調べたらすぐ判ることだぞ。恐らく雅彦とかは知ってそうだしな」
「知ってるけど、別に隠すような名前じゃないと思う」
「そうよ、かっこいい名前じゃない」
「僕も嘉手納君にぴったりだと思うな」
……どうやら雅彦だけじゃなく、俺以外全員知っているようだ。流石にちょっとショック。
それにしても隠せば隠すほど、俺の中のハードルが上がって行く。一体どんな名前なんだ。
「……星河だ。下の名前で呼ばれるのは好きじゃないんだ。今まで通り嘉手納と呼んでくれ」
「なんだかっこいい名前じゃないか」
全然普通だった。がっかりだよ!
「別に変な名前とは言っていないだろ。とにかく嘉手納でよろしく」
「嘉手納は好きだった年上の女に名前を笑われて以来、下の名前で呼ぶと怒るんだ」
「こら兼続!余計な事言うんじゃねー!」
「人の名前を笑う女の事なんて気にする必要ないじゃない」
「ほっといてくれ」
よっぽどその話をされたくなかったのか、嘉手納はすねて黙ってしまった。
取り敢えずほっておこう。
「それにしても、そろそろ佳苗を連れていく場所が無いな。一週間で目ぼしいところは大体行ったぞ」
「そうなの?私は慊人一緒にいれるのならどこでもいいのよ。別に外出する必要もないわ」
いやいや、家にいたら俺の姉である亜美と火花散らし始めるじゃん。まだ外にいた方が心が休まるよ。
「佳苗様は本当に慊人が好きなんだな。これは勢力図が激変しそうだな」
「雅彦、俺はこの年で結婚のことを考えるつもりはない。不穏なことを言わないように」
「慊人のことだから押し切られないか心配だよ。結構押しに弱いもんね」
「押し切るなんて言い方が悪いわ。私たちは相思相愛なのに」
「……お友達で」
勝手に相思相愛にしないように。
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あれから一時間程お喋りをして俺達は解散した。
家に戻り、佳苗と俺の部屋に向かって廊下を歩いていると突然横のドアから手が伸びてきて俺は部屋に引き込まれた。
そして腕で首を弱く苦しくない程度に絞められながら抱きかかえられた。
「慊人。あの女のとお風呂に入ったそうね?」
犯人は姉の亜美であった。何故その事を知っている。
「お、お姉様。誤解です」
俺は取り敢えずとぼける事にした。カマを掛けている可能性もあるしな。
「裏は取れてるいるのよ」
亜美の視線を追うと、そこには手錠で繋がれ、服が少し乱れた状態の榛名がいた。
「慊人様~、申し訳ありません~」
「……お姉様、人のメイドに何してるんですか」
「大丈夫よ、優しくしたわ」
何が大丈夫んだろうか。そして何を優しくしたというのか。怖いから詳しくは聞きたくないが。
「慊人、本気であの女のと結婚でもするつもりなの?」
腕に力を入れ、絞める力を少しづつ強めながら、亜美が問い詰めてくる。
「ち、違います。俺はまだ小学一年生ですよ。結婚のことなど考えていません」
「私とお風呂に入るのは頑なに拒絶するくせに、あの女とは入ったんでしょ?それに特別な意味がないっていうの?」
どんどん絞める力が強くなってくる。流石に苦しくなってきて、俺は亜美の腕をタップするが、離す様子はなかった。
「あ、ありません。押し切られてしまっただけです。く、苦しい」
「そう。じゃあ今日は私とお風呂に入るわね?」
何故そうなるんだ。せっかく佳苗に一緒に風呂に入るのはやめるように言いくるめたというのに。
「入るわね?」
やばい、これは入ると言わないと絞め落とされる。俺は泣く泣く観念することにした。
「は、入ります」
「それは良かったわ」
そう言うと、亜美はやっと俺の首から腕を離した。この女滅茶苦茶だぞ。
完全に脅しじゃないか。
俺が床に手を付いて息を整えているとドアが勢いよく開かれた。




