第16話「八月七日」
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風呂の脱衣場に入ると、俺は榛名にあっという間に裸にされてしまった。
俺は慌てて近くにあったタオルを手に取り腰に巻いた。
「慊人様は本当に恥ずかしがり屋なんですね」
「俺は男と入る時にもちゃんと隠すタイプなんだよ」
二人はまったく気にしないようで、服を脱ぐとタオルで隠すことはなかった。出来れば隠して欲しいんだが。
それにしても榛名成長したな……、胸はあんまり無いが。
「慊人、どう?」
佳苗が腰に手を当て、真っ裸でポーズをとって感想を求めてきた。
こいつには羞恥心というものが無いのか。
……うん、つるぺただな。出来れば十年後に出直して来てくれ。
「佳苗……、羞恥心という言葉を知っているか?」
「私は自分に自信を持っているわ、何を恥ずかしがることがあるっていうの?」
やだ、かっこいい……。
その後俺は二人がかりで綺麗に洗われてしまった。
これが一ヶ月は辛い。
次からはどうにかして逃げよう……。
※※※※※※※※※※※※※※※※※
夜、俺のベットで佳苗と一緒に寝ていた。
「慊人、学校は楽しい?」
「それなりにな」
とはいえ俺のベットはかなり広いのでお互いの距離は空いている。
必要以上に近づかないことを条件に一緒に寝ることを了承したのだ。
俺は佳苗に背を向けた状態で会話をしていた。
「慊人には物足りなく感じるんじゃない、大人びているもの」
「佳苗も人の事言えないだろ。出来ることなら子供のままでいたいよ、楽だしな」
「まるで大人になったことがあるみたいね」
「まさか」
俺が死んだ時は高校生だったしな、大人になったことなど無い。
「私は早く大人になりたいわ、そうしたら慊人と結婚出来るもの」
「俺はお前と許嫁になったつもりはないぞ」
「……私じゃ嫌なの?」
「そうゆう問題じゃない。小学生で結婚だの許嫁だの早すぎる話ってことだ。成長すれば人の好みなんて変わるしな。生き急いで良い事なんてないぞ」
「私は変わらないわ」
いつだって佳苗は自信に満ちている。その自信がいつか砕けてしまわないか、時々不安になる。
それは俺が強く佳苗を拒絶出来ない理由でもあった。
別に嫌いではないが、小学生相手に恋愛感情を持てというのも難しい話である。
それに佳苗は大人びているせいか、子供の戯言だと笑えない真剣さを感じていた、下手に佳苗を受け入れるのも、そして拒絶するのも、どちらを取っても罪悪感しかない。
「俺達がもう少し大人になったら真面目に考える、今は友達でいいだろ」
「気持ち悪いくらい大人びているくせに、こういうことは大人になってからと逃げるのね」
「……ほっとけ。もう寝るから話しかけるな」
精神が大人だから、子供相手に恋愛なんて無理なんだよ。
別に逃げているつもりはないぞ。
※※※※※※※※※※※※※※※※
八月七日の朝。
俺は起きると、抱き着いていた佳苗をひっぺがし、顔を洗って歯を磨いた。
この一週間佳苗に連れ回されて休まる日がなかったな。
楽しい事は楽しいが、もう少しのんびりしたい……。
「慊人様、本日は服部様と決闘の日ですよ」
「……そんな約束もあったなぁ」
狗神に言われて思い出したが、完全に忘れていた。佳苗の相手だけでも大変なのに、次は兼続か。
「おはよぉうございまぁす……ぐー」
佳苗は体を起こして、起きたとおもったら、上半身だけ起こした座った状態でまた眠ってしまった。
佳苗は朝が弱い。ちなみに寝相も悪い。さらに言えば寝つきも悪い。
「午前中は佳苗に学校を見学させて、午後は兼続と決闘するか。倖月、とっとと佳苗を起して用意させてくれ」
「かしこまりました。佳苗たまおっきしましょ~」
「ん~まだねむいよぉ~」
「早く起きないと、くすぐっちゃいますよぉ~」
「やだぁ~~~~」
……このやり取りを毎朝見せられているんだが、正直見ていて辛い。何なのこれ
ちなみに夜は倖田の子守唄が無いと眠れない。突っ込みどころ満載の変な歌で、俺は逆に寝れなくて困る。
佳苗が起きてくるのを待って朝食を取ったあと、真田の運転で学校へ向かった。
「慊人の通う桜城を案内してくれるなんて! 楽しみだわ!」
車の中で佳苗はウキウキという擬音が聞こえてきそうな程喜んで見せた。
「兼続に決闘を挑まれているついでだけどな」
「兼続って服部兼続? 運動会の騎馬戦で慊人のはちまきを奪った憎き相手ね!」
「別に憎くはないが……」
「決闘なんてしなくても慊人の勝ちは決まっているじゃない。リレーで無様に負けたのに懲りない子ね」
無様って、兼続も頑張っていたし、足は速いじゃないか。
「騎馬戦とリレーで一勝一敗だから、決着を付けたいそうだ」
「生意気ね、慊人、絶対勝つのよ!」
そのつもりだが、世の中絶対ってことはないので約束しかねるな。
学校に着くと、俺はまずロイヤルルームに案内した。
「うちの孫バカな爺さんが用意してくれた部屋だ。放課後ここで友達とよく喋っている」
「素敵な部屋ね、貞春様はよっぽど慊人が可愛いみたいね」
正直あまり特別扱いされるのは困るが、この部屋は気に入っていた。
「ちなみに……、その友達の中に女の子はいるの?」
佳苗が笑顔で聞いてくる。笑顔なのに何か怖い。
「いや、使っているのは男三人だよ。女はいない」
「本当に?微かに女性物の香水の匂いがするんだけど」
「い、入れたことはあるが、本当に女はいない。というかどんな鼻してるんだ」
「嘘よ、カマをかけたの。でも良かった。慊人モテそうだから」
カマって!この子怖い!
「そもそも榛名さんがいるんだから、女性物の香水の匂いがしたっておかしくないじゃない。動揺するなんて怪しいわ」
「怪しいもくそもない。別に女が友達だって良いだろう」
それにモテたところで小学生とどうこうなることなんて無いから安心してくれ。
「私もここに通いたいわ。離れていると不安よ」
「何が不安か知らないが、仕方ないだろ。もう次行くぞ」
そのご誰もいない教室や、皆が部活に精を出しているグランドなどを案内して、競技場隣の食堂で昼食を取ることにした。
夏休み中もここの食堂だけはやっているらしい。
「ちょっと早いが、競技場に行くか」
「わかったわ」
食事を終えると俺達は競技場に向かった。確か約束は三時だったが、まだ30分くらい前だ。
しかし競技場に入ると既に仁王立ちで腕を組んだ兼続が、学校指定の体操服を着て待っていた。後ろにはいつも通り嘉手納がいる。
いつからそうして待っていたんだろうか。
「かしみやあきと! よく逃げずにきたな!」
「兼続! あんたこそリレーで慊人に負けておいて、よく決闘なんて無謀な事ができたわね」
「なんだと! 俺は騎馬戦で勝っている。勝負はいっしょういっぱいの引き分けだ!」
何故か佳苗が俺の前に立って兼続に啖呵を切り出した。
二人は火花でも散らしそうな睨み合いをする。
「……っていうか何で櫻田の姫がここにいるんだ! お前関係ないだろ!」
「久しぶりね兼続。私は慊人の許嫁よ、関係ならあるわ!」
どうやら二人は顔見知りのようだ。まぁ大きい家同士だしな。
「かしみやあきと……、そうだったのか」
「違うぞ。佳苗が勝手に言っているだけだ。もう佳苗は下がっててくれ、話がややこしくなるから」
俺は佳苗の手を引いて下がらせた。
「男同士のけっとうの場にかのじょ連れとはな!」
「お前だって彼氏連れてるじゃん」
「「誰が彼氏だ!!」」
「冗談だよ……、怒るなよ」
二人同時に怒鳴られてしまった。あんまり必死だと逆に怪しいぞ。
別に疑っちゃいないが。
「それで何で決闘するんだ?」
「もちろんリレーの時と同じ条件でだ! 200M走で勝負だ!」
了承して、俺も運動服に着替えた。
流石に同時にスタートすれば俺の勝だと思うが、どんな特訓をしてきたか楽しみだ。




