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第14話「夏休み」

 運動会の熱が冷めた頃、気が付けば目の前に夏休みが迫っていた。


「慊人夏休みは何か予定あるの? 遊べそう?」

「うーん、今年は櫻田のお嬢様が遊びに来るらしいからな、なんとも言えないな」


 いつものように放課後に三人で部屋に集まり、夏休みの話をしていた。

 去年の夏休みは結城と遊びまわったものだが、今年はイレギュラーな来客が来ると母から聞いて、予想が付かない状態であった。


「櫻田って御三家の?樫宮って櫻田と仲よかったっけ」

「そうでもないんだが、櫻田のお嬢様に付きまとわれているんだ」


 俺は雅彦の疑問に答える。


櫻田さくらだ佳苗かなえ様か、たしかオレたちより3歳年上だよな?」

「ああ、自称俺の許嫁で、なかなかお転婆な奴だ」

「へー、櫻田と樫宮がくっつくかもなのか、すごいな」

「ぼく、慊人に佳苗様はあわないと思うなー」

「俺達はまだ小学生だぞ……、まだ結婚の話なんて考えたくない」


 というか俺は色恋関係が苦手だ。そもそもまともに恋愛をしたことが無いのだが。

 そうだな、佳苗が来たらこいつらも巻き込んで遊ぶのもいいかもしれない。


 それにしても夏休みか、前世の俺は幼馴染二人とよく遊んだものだ。

 二人ともおせっかいな奴だったが、高校に入って山崎と関わり、一人は病院送り、もう一人は俺に関わって虐められては悪いと思い、突っぱねて泣かせてしまった。

 考えないようにしていたが、考え出すと思いが溢れ出す。

 いや、考えるのはよそう。榛名と違い二人共もう成人しているんだ、山崎も俺を殺して社会的制裁を受けている事だろうし、過去の事は出来るだけ忘れて生るべきだ。


 もう俺は樫宮慊人なんだ。


 ただ、もし榛名のように困っているのなら……。


「慊人、むずかしい顔してどうしたの?」

「いや、何でも無い。夏休み楽しみだなと思っていただけだ」

「ぜんぜん楽しみそうな顔じゃなかったよ」


 相変わらず結城は鋭いな。


「そういえば、佳苗はいつまでこっちにいるんだ? 狗神」

「予定では8月の初めから末までですね」

「夏休み中ずっとかよ!」


 俺はうんざりとした。

 長期滞在するとは聞いていたが、まさか一ヶ月もいるとは。


「そうなると今年は狗神の家には行かないのか」

「奥様はいらっしゃる予定ですが、慊人様は佳苗お嬢様の御守りですね」


 狗神の母と俺の母は親友で、夏になると避暑も兼ねてよく遊びに行っていた。

 俺も毎年それに付いて行ってたのだ。

 あと御守りって、年下の俺が御守りするっておかしくないか。


「休みを取って、狗神も実家に帰ってもいいぞ」

「いえ、私は家に未練はありません。それに死ぬまで慊人様の傍を離れる予定はございませんので」


 なんだそれ!怖いわ!


「狗神さんは本当に慊人にべったりだよね、ぼくにも執事がいるけど、家の中以外ほっとかれてるよ」

「それが普通だろ、外にまで付いてくる必要はないんだよ」

「最近は人身売買を行っているマフィアが勢力を伸ばしているという話も聞きますので、絶対に目を離すわけにはいきません」

「……そうなのか、それは怖いな」

「大丈夫ですよ慊人様!私こう見えて強いんです。命を懸けて慊人様を守りますから!ついでに雅彦様も」


 マネキンの様に部屋の中で静かに立っていた、雅彦の執事で犬飼の妹である綾香が会話に入ってきた。

 毎回思うがなんで雅彦がついでなんだよ!雅彦の執事だろ!


「私は格闘は全然ですので、綾香さん、頼りにしていますよ」

「はい!! おまかせください!! あと慊人様結婚してください!」


 いやいや、狗神も他人の執事に頼らないように。

 あとずっとスルーしてたけど、会う度に求婚して来てるよね?

 なんでみんな突っ込まないの? 俺がおかしいの?


 言うまでも無いと思うけど、しねーよ!


「慊人、綾香はまじで出来る女だぞ、本当に犬飼の妹か目を疑うくらいだ」

「そ、そうなのか」


 意外にも雅彦から見て、犬飼妹は高評価のようだ。


「ああ、結構おすすめだぞ」


 だからしねーよ!! 年の差あり過ぎだろ!


 まぁ精神年齢的にはピッタリだけどな。

 どちらにしろ会う度に求婚してくる女は嫌だ。


 そんなくだらない話をしていると、扉がノックされて振り向く。

 狗神が扉を開けるとそこにはアンカー君とロンゲ君がいた。

 確か服部はっとり兼続かねつぐ嘉手納かでなだったか。

 運動会以来だな。


「慊人様、このお二人がお話があるそうですが」

「入れてくれ」


 俺は2人を席を立って出迎えた。


「何のようかな」

「ここがロイヤルルームか、うわさには聞いていたが立派なへやだな」

「かね……つぐ? 運動会以来だな」

「なんで自信なさげなんだ!あってるよ!オレは兼続だ!」

「すまん、間が空いたからちょっと自信が無くて」

「あははは!兼続、相変わらずあいてされてねーのな」

「うるさい嘉手納!」


 嘉手納は完全に笑い上戸だな。いつも楽しそうに笑っている。


「今日は、はたしじょうを渡しにきた!」


 そう言うと、兼続は黄土色の長封筒に入った手紙を片手で渡してきた。


「はたしじょう。運動会のリレーではまけたが、まだ一勝一敗だ。だからけっちゃくをつけよう。オレはとっくんによってつよくなった、甘くみない方がいいぞ。八月七日の三じに、きょうぎじょうでまつ!」

「なっ!? ここでよむなよ! 恥ずかしいだろうが!!」

「あははははははははははは!!慊人様さいこう!はらいたい!」


 正直面倒くさいが、相手しないのも可哀想だよな。何か特訓とかして頑張ってるみたいだし。

 あと嘉手納笑い過ぎ。


「判った、この決闘受けよう。ただし俺が勝ったらもう突っかかって来るなよ」

「そ、そうか!八月七日忘れるなよ!」


 小声でやったと聞こえたが、聞こえない振りをしておいた。


「よし嘉手納、今日もとっくんだ! ふっ、かしみやあきと、こんな所でのんびりしていてオレに勝てると思うなよ!」


 それを捨て台詞に二人は部屋を出ていった。騒がしい奴らだ。


「嘉手納と服部か。慊人のまわりには有名どころばかり集まるな」

「言われてみれば確かにな」

「慊人は目立つし、魅力的だからね、女子にもモテるし」

「結城、それはどこ情報だ?」

「さすが慊人だよ……、じかくが無いなんて」


 結城が呆れたとばかりに微妙な顔をする。確かに犬飼妹と櫻田佳苗には言い寄られてるが、正直そんな真面目にという感じでもないしな。

 まぁ小学生なんて運動ができればモテるのかもしれない。


 それにしても櫻田のお嬢様の御守りに、兼続と決闘か。

 騒がしい夏休みになりそうだ。




※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




 八月の始め、俺は眩しい太陽に目を細めながら上空を見上げていた。 


 狗神の話によれば、御三家や五大名家は皆、基本的に仲が悪いという話だ。

 体裁は繕うが、基本的にはライバルであると言う。

 しかしこれも時代の流れだろうか、俺の周りには名家の人間ばかりが集まってきている。

 その中でも最も周りを驚かせた事柄といえば、やはり櫻田家の長女らしい。

 名家同士の中でも特に、樫宮、九条、櫻田の御三家同士は冷戦さながらの攻防を裏では繰り広げた敵同士であったいうのだ。


 俺が佳苗と出会ったのは、去年の夏のとあるパーティー。

 それからというもの、理由を付けては俺に会いに来ていた。

 会ってはいないが運動会も見に来ていたという話だ。


 そして今、SAKURADAの文字が桃色で書かれたヘリコプターで、敵であるはずの樫宮の庭に櫻田の長女が降り立とうとしている。

 時代は変わるものだな。

 まぁ、今はほとんど樫宮の一強状態なのも原因らしいが。

 ヘリが着陸寸前まで地面に近づくと、扉が勢いよく開かれる。


「まさかヘリで来るとはな」

「慊人様!早くお会いしたかったのでヘリを飛ばして来ましたわ!」


 白いワンピースに身を包み、ウェーブした髪と、それを片方だけ結んだ髪止のリボンを風になびかせた、小学生4年生とは思えない凛々しい佇まいで、櫻田佳苗は登場した。

 

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