第13話「運動会③ アンカー君とロンゲ君」
いつも読んでいただいてありがとうございます!これで運動会はお終いです!まさか運動会終わって5万字に届かないとは思いませんでした。
俺は転んだ花屋敷を見て、50M走のタイムを計った時の事を思い出した。
これはもしかするとリタイアかもしれない。
人生中々思い通りに行かないものだな。悔しいが仕方がない。
ただ、この場面でこんな大ミスをしてしまった花屋敷がクラスでの扱いが悪くならないか不安がよぎった。
地面とキスをした状態の花屋敷を次々と他のランナーが抜かそうと迫る。
白組が抜かし、青組が抜かし、赤組が花屋敷にせまった。
紅組が後1Mに迫った時、なんと花屋敷は立ち上がった。
そして、顔を真っ赤にして、目に涙を溜めたまま、紅組に抜かれる前に走り出した。
「花屋敷!!」
それを見て俺は思わず名前を叫んでしまった。
白組と青組に抜かされ、距離は開けられたものの、リレーは一人200Mあるんだ、まだ希望はある。
よく立ち上がった!
「あ”ぎどじゃま、ごめんなしゃいぃぃ」
花屋敷は鼻声で謝りながら、俺にバトンを渡してきた。
顔はもう泣きじゃくる寸前という感じだ。
「まかせろ!」
バトンを受け取ると、おれ全速力で2組を追った。この小さな体で200Mを走るには多少のペース配分をしなければすぐに息切れてしまうのだが、負けるわけにはいかない。
ここで逆転すれば、花屋敷のミスを立ち消す事がおそらく出来る。
だから、絶対勝つ!
俺は50Mほど進んだところで青組を抜いた。抜いた瞬間大きな歓声が上がるのが聞こえる。
花屋敷のためにも、2位じゃ駄目なんだよ。
俺は前を走るアンカー君を見据える。早い。
やはり口だけではないな。
俺は更に加速させようと、奥歯と拳に力を入れた。
近づいては行っている、しかし届くか?目算ではギリギリ同着。しかも今の速度を維持した場合でだ。
アンカー君までの距離が、凄く長く遠い距離に感じる。まだ届かないのか、くそ。
周りの歓声が耳に入らなくなってくる。
俺はただひたすらアンカー君の背中を追い、ゴールと共に徐々に距離が近づいて行く。
そして遂に、ゴール手前1Mでアンカー君の隣に並んだ。
花屋敷め、重いバトンを渡してくれたものだ。
フォローすると言った約束、守るぞ!
俺は勢いよく飛び込み、転がりながらゴールした。
「どっちだ!?」
「かったああああ!!」
静まりかえる競技場の中、ガッツポーズをしたアンカー君の勝利の雄叫びと、俺の声が同時に響く。
そしてアンカー君は体に付いたゴール紐を手に持ち、勝利を見せつけるように上に掲げた。
しかし恐らくは――――
『なんと黒組がピンチからの逆転1位です!得点も逆転して、なんとW逆転優勝です!』
アナウンスと共に、今まで一番と歓声と拍手が、生徒と観客から一斉起こり、競技場を揺らす。
小学生の運動会で盛り上がり過ぎだ。
「そんなばかな!うそだろ!?おれが紐を切ったぞ!」
『えー、黒組の樫宮選手は最後に飛び込んだため、紐の下をくぐって白組よりも先にゴールラインを越えていたのです。こちらがゴールの瞬間の写真です』
写真判定なのかよ!小学生の運動会でそこまでやるのか、この学校凄いな。
ディスプレイにゴールの瞬間の写真が表示されるとさらに大きな歓声が上がり、クラスメイト達がこちらに走ってきて群がった。
「慊人様すごかったですわ! ころんでしまってごめんなさい! ありがとうございます!」
花屋敷に泣きながら抱き着かれた。
「慊人すごかった!かっこよかったよー!さすがに無理だとおもった!」
何故か結城も目が赤かった。しかも珍しくテンションが高い。
俺が勝ったことを、よっぽど喜んでくれているようだ。
「慊人様、呉羽をフォローして下さってありがとうございます」
「慊人すごかったぞ!」
遂にはクラスメイトだけではなく、下級生黒組全員が集まり胴上げされた。
流石に盛り上がり過ぎだろ!
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閉会式では、優勝チームにトロフィーが手渡される。一人ずつ手渡していては時間が掛かるので、代表者が各クラスから一人代表で表彰される。
俺のクラスは、学級委員の俺が代表となり会長である爺さんからトロフィーを受け取った。
『それでは今回の大会のMVPを発表します。今回選ばれたのは、教師一同文句無しで樫宮慊人くんです!』
続けて名前を呼ばれて、また俺は指令台の上に昇らされる。
大きな歓声の中、爺さんから祝いの言葉と共に受け取る。
渡されたトロフィーは凄く大きくて立派な物だった。
あと、渡すとき爺さんが泣いていて気持ち悪かった。
『選手退場』
閉会式が終わり競技場から退場する。
教師が解散と言うのを聞いて、俺はトロフィーをロイヤルルームに飾ろうと、校舎に戻る事にした。
「かしみやあきと!」
校舎に戻る途中、アンカー君に呼び止められた。
後ろにロンゲ君もいる。仲良いなぁ。
「またお前か、なんだ?」
「今回はオレの負けだ……、あそこから逆転されるとはな……」
アンカー君にいつもの元気はない。負けたを気にしているようだ。
「でも勝負は一勝一敗だ! 次はかつ!」
「アンカー君は何故俺に付きまとうんだ」
「アンカー君?」
「お前のことだよ」
「オレはそんな名前じゃない!俺の名は――」
「慊人!」
アンカー君が名乗ろうとすると結城の声が遮った。
「なんで1人で行っちゃうのさ、探したよ」
「いや、あの盛り上がりに付いて行けなくてな……、こっそり抜け出してトロフィーを部屋に飾りに行くところだ」
実を言うとトロフィーを飾るのを口実にあの空気から逃げたいという気持ちも俺にはあった。
「盛り上げたのは慊人じゃないか、みんな探してたよ」
「胴上げまでされたんだ十分だろ」
「花屋敷さんが、慊人様ー慊人様ーって丸で迷子になってるみたいに探してたよ」
その姿はちょっと見たかったな。
「慊人様、もうちょっとコイツの相手してやってくれないかな?」
アンカー君を置いて結城と話していると、珍しくロンゲ君が俺に喋りかけてきた。
「喧嘩腰に来られて、ちゃんと相手にしろと言われてもな」
「コイツはこんな感じだから誤解されやすいが、お前の事を気に入っているんだ。察してやってくれないか」
そ、そうだったのか。もしかしてツンデレ?男にツンデレされても嬉しくないぞ。
「いいかげんなことを言うな! オレはライバルとしは認めているが、気に入ってなどいない!」
「はいはい」
「ライバルなんて募集してないんだが、まぁなんだ、取り敢えず名前は聞いておこうか」
「よくきけ!俺の名は――」
「慊人さまぁぁー!」
アンカー君が名乗ろうとすると花屋敷が、俺の名前を呼びながら抱き着いてきた。
後ろには鴻巣と雅彦もいる。
「慊人様、探しましたわ!わたくしまだちゃんとお礼をいえてませんわ!なんといったらいいのか!とにかく素敵でしたわ!それとそれと、MVPおめでとうございます!」
まだまだ興奮冷めやらないといった感じで花屋敷が俺の腕を掴んで捲し立てる。
落ち着け花屋敷。
「わたくし、あんな場面で転んでしまって……」
ミスの事を切り出すと、一気に花屋敷のテンションは落ち込み、泣きそうな顔になってしまった。
「気にするな花屋敷、お前のミスのお蔭でMVP取れたようなもんだしな、勝てたんだ喜べよ」
「慊人様……」
「そうです、呉羽は転んでもすぐ立って走り出したじゃないですか、立派でした。慊人様よりもかっこよかったですよ」
別にいいんだが、鴻巣は花屋敷を甘やかしすぎじゃないだろうか。
「璃々葉……っ!」
鴻巣の言葉を聞くと俺にしがみ付いていた花屋敷は鴻巣に抱き着いた。
そして鴻巣は花屋敷の頭をよしよしと撫でていた。
こいつら本当に同い年かよ。姉妹みたいだな。
「慊人、ロイヤルルームに行くなら声かけてくれよ、水臭いぞ」
花屋敷が喋り終わるのを待って、雅彦が声を掛けてくる。
「わるいわるい、ちょっとトロフィー置きに行こうとな」
「それにしても凄い追い上げだったな、最後飛び込んだ時は驚いたぞ」
「ぼくもだよ! そういえば怪我とか大丈夫なの?」
「ああ、問題ない。体力的に限界だったからな、多分飛び込まなきゃ負けてた。花屋敷にフォローするって約束してたし、勝ててよかったよ。」
「慊人様がわたくしの為にがんばってくださったなんて!」
「少し見直しました」
鴻巣に少し見直された。鴻巣の中で俺の評価低そうだな!
そういえば何か忘れているなと思って振り返ると、アンカー君が顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。
「俺の名前は―― 服部兼続だあああああああああああああ!!」
「あ、ちなみに俺は嘉手納だ。よろしく」
こうして俺は、嘉手納と兼続と知り合いになった。




