第12話「運動会② お姫様抱っことリレー」
いつもありがとうございます!筆の調子が良かったので、もう一話行きます!
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借り物競争は、特に気になる奴は参加していなかったので俺は結城と雅彦と雑談をしていた。
「今の所順調だな、ただ雅彦の予想通り白組が結構強いな」
「俺も負けたしな……、ここまでで一位なら騎馬戦とリレーで勝てばゆうしょうできるかもな」
「ぜったい活躍できないと思ってなのに、慊人のおかげでチームにこうけん出来てよかったよー」
ここで勝てば結城には良い思い出になりそうだな。
「慊人様!一緒に来てください!」
気を抜いていると、突然走ってきたクラスの女子に声を掛けられた。
うーん、確か山田だったかな。ふわふわした髪の毛に丸いボンボンの髪飾りをしている可愛らしい子だ。
「慊人!早く玉ノ井さんとゴールに行かないと!」
結城にせかされ、借り物競争の借り物が俺であることを悟る。
うん、山田じゃなくて玉ノ井だよね、今思い出した。
「よし、行くぞ!」
手を繋いで、俺が先導する形でゴールに向かう。
しかし俺達よりかなり前を、白組がゴールに向けて走っているのが見える。
「まずいな、玉ノ井、もっと早く走れないか?」
「むーりーでーすー」
見ると、一杯一杯だと顔で訴えていた。クラスの女子の中でも小柄な玉ノ井が、これ以上早く走るのは無理か……。
白組の男はよく見れば、アンカー君だった。何故かロンゲの少年を背負っていて重そうだが、今のところ一位濃厚だ。
「わるい、玉ノ井、抱えるぞ!」
「え?え?」
俺は玉ノ井をお姫様抱っこすると、一気に加速した。
お姫様を抱っこした時黄色い歓声が聞こえたが、今は気にしている場合じゃない。
なんとかゴール手前でアンカー君を抜き切り、そのままゴールした。
ゴールした瞬間凄い歓声に競技場が包まれた。お姫様抱っこは少しやりすぎたか。
「それでは借り物の確認をします、紙を見せてください」
「あ、はい!」
顔を真っ赤にしたまま、玉ノ井が係りの教師に紙を渡す。何て書いてあるのか気になるな。
「だ、だめです!慊人様は見ちゃだめです!」
紙を覗き込もうとしたら、手をばたつかせた玉ノ井に阻止されてしまった。気になるな。
「はい大丈夫です。1位の旗を持ってあちらで待機していてね」
何度か覗こうと試みるも、玉ノ井のナイスディフェンスによって、書かれていることを確認することは叶わなかった。
紙は見れなかったが、玉ノ井の動きが面白くて何か満足した。
そして午前の部、最後の騎馬戦。まずは高比良達女子からだ。
騎馬戦は1・2・3年生混合戦で、各チーム3組の合計15組の騎馬で争われる。
1位6点、2位4点、3位2点と、得点が2倍と言っても、最高12点だ。
勝敗は最後の1チームになるまで続けられ、長く残っていたチーム順に得点が振り分けられる。
開始同時に黒組は他の4組に囲まれていた、恐らく一番得点高いチームから脱落させるつもりなのだろう。
高比良の馬もすぐに落とされてしまう。3年馬が何とか善戦するものの、3位に落ち着いた。得点があるだけましか。
俺達の馬は斎藤を先頭にして、俺が騎手の形だ。
入場口から組んだ形で入り、スタート位置に付く。
「恐らく女子達の時のように狙い撃ちされます。最初は逃げましょう」
「あ、ああ、そうだな」
「雅彦、高峰、井上、頼んだぞ!」
「「おおー!」」
おれは雅彦達だけでなく先輩達にも提案をし、スタートと同時に中央に走る。
各チーム円状のフィールドの端に、均等に離れた場所を、スタート位置としていた。
ちょうど、線で繋げば綺麗な五芒星が描けるだろう。
そのため逃げ道は中央にしかない。右に白組、左に青組。その二組に比べれば離れているが、向かう先は赤と緑。
とにかく中央に逃げ、全ての騎馬をおびき寄せる。
「1位の黒組を狙えー!このままじゃ単独優勝だぞ!」
「かしみやあきとー!かくごー!」
白組三年の声に乗って全てのクラスが俺達を狙う。これはやばい。
それと、もう一つの声……、またアンカー君か!何競技出るんだあいつは!
「しかたない!雅彦、先輩達を囮にして回り込むぞ」
「ええー!?」
先輩達の不満の声を無視して、囲まれる前に俺達の馬だけ中央から外に走る。
そして後ろに回り込み先輩たちを狙おうと集まり、乱戦になって状況がよく判らなくなっている他のチームの鉢巻を、俺は次々と奪っていく。
俺が鉢巻を奪う度に起こる歓声を聞きながら勝ちを確信した。そして、それが油断となった。
「慊人うしろ!」
「なに!?」
俺が赤組の鉢巻を取る瞬間後ろから鉢巻を奪われた。
雅彦の声に従い、後ろを向けば――
「かしみやあきと、うちとったぞ!」
またアンカー君かよ!
さては乱戦に入らずに、ずっと俺を狙ってたな。油断した。
しかも周りを見渡せば残ってる馬は白組のアンカー君達だけだ。
「勝負は俺の勝だな!」
「いや、借り物競走で俺勝ってるじゃん、今の所一勝一敗だ」
俺は馬を降りながらアンカー君に返答する。
「あれは、選手じゃなかったじゃないか!かちにならないぞ!」
「……そういえばそうか」
くそ、面白くないな。
そんなことより昼だ昼、お腹減った。
「雅彦、結城を連れて学食に行くぞ」
「あ、ああ。……顔がこわいぞ慊人」
俺を付け狙うストーカー野郎は、リレーで潰す!
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昼休憩はグランドの隅で、家族揃ってお弁当を広げるような微笑ましいものではなく、この学校では競技場近くの学食で食べる。
もちろんお弁当持参の家もあるが、うちがそんなアットホームなことをするわけもなく、学校の高級学食を美味しく食べる。
俺は家族に活躍を褒められたり、お姫様抱っこをねだられたり、もう一方には怒られたりしながら美味しく頂いた。
まぁ母がご機嫌なので良しとしようか。
特に話すことも無いので、俺は食事を終えると早々に母達と別れる。
席に戻ると結城がすでに席にいた。
「早かったな結城」
「慊人もはやいね。妹がぐずちゃってね、お母様が人気のないところに連れて行ってるんだ」
「柚姫も来てたのか、久しぶりに会いたかったな」
「慊人に懐いてるから、慊人に会わせればよかったかも」
結城の妹柚姫は、確か今年で3歳か4歳かになる、結城と同じフワサラヘアーの天使のように可愛らしい子だ。結城ですら女の格好させたら美少女になりそうなのに、その妹は将来安泰すぎるな。
「慊人……、変なことかんがえてるでしょ」
なぜ判った、エスパー!? 可愛い顔して心読むなんて、こわい。
しばらくして、雅彦が戻ってくると自然と得点の話となる。
「現時点で白組が1位で34点、俺たちが2位で30点。逆転されてしまったな」
「騎馬戦で、ねらいうちされたのは痛かったなー」
「次の障害物競争で引き離されたらヤバイな」
障害物競争はあまり早い奴を配置していなくて心配だったが、意外にも俺達のクラスは1位に輝いた。練習の成果だな。
それに続いて2年生2位、3年生1位とかなりの善戦を見せた。接戦になり士気が上がっているのか、黒組の声援は他よりも大きい。
逆転とまではいかなかったが、リレーでの逆転勝利の可能性は十分にある状況となった。
『リレーの代表選手は、集合場所に集まって下さい』
雅彦、鴻巣、高比良そしてクラスの男子で3番目に早かった須藤を連れて、集合場所へと向かった。
リレーは6年生から順に走る。そして4年生が順位を決めると、上級生の優勝チームが決まった。
『上級生は紅組の優勝です! おめでとうございます!』
上級生紅組は本当に嬉しそうだ、女子の中には泣いている子もいた。
盛り上がてるところ悪いが、俺達下級生の勝負はまだ終わっていない。喜ぶのは後にしてもらいたい。
気を取られてるうちにも競技は進み、ついに2年生のアンカー達がゴールをしていく。
電光掲示板を仰ぎ見る。
黒組44点 白組45点 青組30点 赤組17点 緑組2点
俺達が勝てば6点で50点、白組は2位なら49点。1点差で逆転とか出来過ぎだな。
ってゆうか緑2点て!少なっ!
緑組を見ると、すでに目が死んでいた。
「俺達が勝てば逆転勝利だ」
「もえてきたな!」
「わ、わ、わ、わたくし、き、きんちょうしてきました」
雅彦の士気は最高潮だが、逆に花屋敷が何かやばい。
「大丈夫だ花屋敷、遅くても俺がフォローするから、いつも通り走れば良い」
「わ、わかりましたわ」
本当に判ってくれてると良いんだが……。取り敢えずくすぐって緊張を解しておいた。
遠くから鴻巣の殺気を感じてすぐにやめたが。
リレーは1000Mで、一人200Mずつ、競技場の400Mトラックを2周半だ。
順番は須藤、高比良、雅彦、花屋敷、俺の順だ。
「よーい――、ドン!」
須藤は中々の好スタートを切る。2番手の白組を1メートル程離した状態で高比良にバトンを渡す。
何度も練習した甲斐があり、スムーズにバトンの受け渡しが行われる。
雅彦にバトンが渡ると更に距離を開く。これは勝ちは貰ったかな。
となりのアンカー君を見るとイライラした様子でランナーを凝視していた。
正直、花屋敷が不調で少し離されたとしても、勝つ自信がある。
雅彦のバトンが花屋敷に渡った。いよいよ次だ。
走る前に不調に思えた花屋敷だったが、雅彦が離した距離を狭めることなくこちらに向かってくる。
良いぞ花屋敷! 俺は勝利を確信して笑みを浮かべた。
その瞬間。
花屋敷は顔から転び、トラックにヘッドスライディングを決めた。
俺は勝利を諦め、天を仰いだ。




