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第11話「運動会①」

 俺達は号令と共に順番に競技場に入って行く。

 入場口を抜けて中に入ると、大量のフラッシュに晒されて少し驚く。

 周りを見ると、プロが使うような立派なカメラを構えた人達が何十人もこちらに向けてシャッターを切っていた。

 それだけではなく、見るからにTV用の大きなビデオカメラを構えた者も何人かいて、競技場に設置されている大きなディスプレイに、俺達の姿が映し出されている。


 シャッターを切っている人だかりの中に知った顔を見つけた。狗神と榛名と犬飼妹だ。

 狗神が大きなビデオカメラを俺に向け、榛名と犬飼妹は、プロが使うようなカメラを俺に向けてシャッターを切っている。

 その中で執事服着てるのお前達だけじゃん! あと犬飼妹は雅彦を撮れよ!


 親馬鹿ならぬ執事馬鹿だな……。

 恐らく他のカメラマンは他の家や学園が雇った者だろう。


「流石慊人様、行進姿もご立派です」

「慊人様ー、視線くださーい!」

「キャー! 慊人様ー! 結婚してください!」


 ……特に犬飼妹自重しろ。

 

 俺は三人を無視して、行進しながらも客席に視線を移す。

 俺の家族はすぐに見つかった。VIPルームのような個室になった場所に女三人、黒い服を着て静かに座っているのが見える。

 父は来ていないらしい。まぁめったに家にもいない多忙人間だからな。

 それにしても樫宮の人間は何故か黒い服が好きなのだが、三人揃って黒い服はどうなの? なんか不吉じゃない?


 ちなみに今流れてる音楽は、大人気アニメ、トロいもくんの歌である。

 トロいもくんは俺の転生前からやっている長寿人気アニメで、トロくて芋っぽい主人公が異世界で大活躍する物語だ。

 何故か音楽だけ小学校ぽくて凄い違和感である。


 競技場に置かれた立派な指令台の前に初等部全生徒が整列し、開会式が始まった。


『これより開会式を始めます、会長挨拶』

「このような晴天の日に運動会を開催出来る事を嬉しく思う。また私にとって今年は特別な運動会であるため、例年よりも多くのビデオカメラとディスプレイを用意させた。子供たちは存分に力を発揮してご家族に活躍を見せてほしい」


 学校に入って初めて爺さんを見た、本当に会長なんてやってたんだな。お飾りっぽいけど。老後の暇つぶしの一つなのかもしれない。

 檀上に立ってる爺さんは中々に威厳があった。白くて長い髭、深い皺と鋭い目つき、まさに重鎮といった感じだ。俺と話す時とは印象がまるで違う。

 それにしても例年よりディスプレイやカメラが多いって……、深く考えるのは辞めよう。


 その後知事や市会議員の挨拶まであった、小学生の運動会で大げさすぎるだろ。

 最後に六年生と三年生の代表が挨拶をして開会式は終わった。


 準備運動が終わると全員控えの席に着き、競技の開始をまった。


『みなさん電光掲示板をご覧ください』


 その言葉と共に電光掲示板に表が映し出される。

 下級生と上級生含む全10組の得点表だ。


『下級生1・2・3年生と上級生4・5・6年生に別れて争われます。そして優勝チーム二組全員とMVP獲得者にはトロフィーが授与されます。みなさん頑張ってください』


 トロフィーは毎年返還して使い回すのではなく、毎年新しく作られるらしい。しかも優勝チーム全員分。

 学級委員会で聞いた古賀先輩の話だと、この学校はみんな見栄っ張りなので結構本気でそのトロフィーを取りに来るらしい。どうりでみんなが放課後の練習に文句を言わなかったわけだ、前世の俺なら絶対にやりたくない。


『それでは最初の競技を始めます。50M走の選手は集まって下さい。50M走は全学年から男女二名ずつ選出されています。学年に別れ、各チーム1名ずつ5組での競争になります』


 放送を聞いて、俺、雅彦、鴻巣、鴨川が集合場所に向かう。ちなみに鴨川はクラスの女子の中で5番目に早かった、ウェーブした髪を肩まで伸ばした女の子で、高比良とよく喋っている奴だ。


「俺と雅彦はまず勝つだろうから6ポイント以上は確実だな」

「慊人は大丈夫だろうが、おれはちょっと心配だな」

「全力をつくせばいいじゃないですか」

「俺は勝ちたいんだよ」


 鴻巣はあまりやる気が無いように感じる。競技を決めるとき二つ出てくれと頼んだら嫌がっていたしな。


「まぁ、やるだけの事はやったんだ、頑張ろう」


 俺は三人そう声を掛けた。まぁあんまりプレッシャーを掛けるのも良くない。

 負ける気はもちろんないが。


 走るのは1年生から順で男女別だ。最初に走る雅彦がスタート位置につく。内側から黒、青、白、赤、緑の鉢巻をした五人が並ぶ。

 400Mトラックを使っているため、50M走と100M走は直線で、線を出ると失格。フライングは一度までだ。


「よーい――、ドン!」


 ドンと同時にスタートピストルが音を放つ。

 五人同時に走り出すが、雅彦が頭一つ抜きに出ている。フライングは無い。


『黒組ロケットスタート、これは有利』


 そのまま他の選手との距離を離しながら雅彦はゴールへと向かう。しかし白組だけはどんどん距離を縮めて行く。

 ついには雅彦を抜いてゴールしてしまった。

 白組の選手をよく見れば、何故か俺に突っかかって来るアンカー君であった。

 練習の成果もあり、雅彦のスタートは完璧だった。それに勝つとは……。

 リレーは本当に気合を入れないとまずいかもしれない。


 次に俺の番になり位置に付く。少しスタートに遅れてしまったが余裕の1位だ。

 ゴールをして、一着の旗を持ち控えの場所へ行くと、めずらしく雅彦が落ち込んでいた。


「すまない、慊人……」

「気にするな、完璧なスタートだった。あれで負けたのならしょうがない」


 走る順番までは考えていなかった、俺が出ていれば良かったな。


 女子の結果は鴻巣1位、鴨川3位となり、黒組1年生の成績はトップで3点が入った。

 2年が3位で1点、3年が4位で0点、50M走で黒組は合計5点を獲得した。


 点数の振り分けは単純に順位を足して、学年別に数字の低い順に3点2点1点と入り、騎馬戦とリレーを除き、1競技最高1チーム9点まで入るシステムのようだ。

 俺は自分や俺のクラスだけがどんなに頑張っても優勝出来ないことに今更に気付いた。

 俺が全競技勝ったところで優勝出来るか怪しいところだ。


「これ、2・3年生に足引っ張られたら余裕で負けるな」

「え……、慊人いまさら何言ってるのさ」


 100M走を走る鴻巣達を控え席で応援しながら、ここに来て俺のテンションはかなり落ちてきてしまった。

 さらに今更ながら小学1年生相手にムキになりすぎたと思い始めた。見返すにしてもっと成長してからでも遅くない。というか早すぎた。

 ここで見返したところで、成長の速さによる肉体的優劣が出過ぎる。せめて中学生くらいになってから見返した方が効果的じゃないだろうか。


「なんかやる気無くなってきた」

「ちょ、ちょっと慊人! 始まったとたんそれは無いよ!」

「じょ、冗談だよ怒るなよ」


 結城の目が怖い。

 人間あまり冷静になると、考えなくていいものまで見えてきてしまって駄目だな……。俺は特訓までしといて少々無責任な発言だったと反省する。


「もちろん負けるつもりはない」


 テンションは下がってしまったが、手を抜くつもりは本当になかった。


 鴻巣は何でも無いように100M走を1着でゴールした。少しは嬉しそうな顔したらどうなんだ。そういえば50M走で1着だった時も、しれっとした顔をしていた。全然可愛げが無い。

 競技の順番は1年生からと6年生からの交互なので、今回は鴻巣が最後の走者であった。


 次は玉入れで、結城の出番だ。


「結城ならやれる、期待してるぞ」

「うん、絶対にかつよ!」


 運動会前とは違い結城はやる気十分だ。丸で俺のやる気を結城が吸っているようだ。

 玉入れが思いの外上手く出来るようになり自信がついたのだろう。

 スポーツや競技というものは、上手ければ面白いものだ。逆に下手であれば詰まらないし、やる気も出ない。

 結城を特訓したのは正解だったな。転生前の俺みたいに、運動会の度に死にたくなるような人生は結城に歩んでほしくない。


『玉入れの選手は集合場所に集まって下さい』


 アナウンスが流れ、結城は集合場所へと向かった。

 各チームの色に染められた玉がばら撒かれ、五つの籠が教師によって立ち上げられる。籠は学年によって高さが違い、1年生の籠は2Mしかない。底が深く、玉で溢れないよう工夫されたもののようだ。


 1年生達が入場し、各チームの籠に陣取り構える。

 皆両手に一つずつの玉を持って構えているが、うちのクラスだけは、一人4・5個の玉を小さな手に持ち、胸の前に構えている。


『よーい――、ドン!』


 ドンの掛け声と共に、スタートピストルの音が響き、全員一斉に玉を投げ始める。

 俺達のクラスは圧倒的だ、黒色の玉がどんどん籠を埋めていくのが見える。

 結城は練習の時よりも更に多くの玉を入れる事が出来ていた。これは勝ったな。


『それまで! 選手のみなさんその場に座って下さい』


 籠を支えていた教師がその場で籠を下におろし、アナウンスの掛け声と共に一つずつ玉を外に投げていく。

 緑、赤、青、白の順に玉が無くなって行き、最後に黒組の玉が数え終わった。

 2位の白組と2倍近い差を付けている。圧倒的だ。

 やったな結城!

 

 ちなみにここまでの成績は、黒組18点、白組15点、青組12点。紅組7点、緑組2点だ。

 2・3年生達にも玉入れのコツを伝えておいたのが吉と出て、ここで俺達のチームはトップに躍り出た。


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