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第1話「転生、そして初等部入学」

現代転生の御曹司


2014/7/21投稿

 ゆりかごに揺られながら俺は心の中で深いため息をはいた。

 豪奢で広い部屋の隅に俺が寝ている大きなゆりかごがぽつんと置いてあり、その隣に綺麗な装飾を施された椅子に座ったメイドが俺の様子をうかがっている。


 どうやら今俺は、赤子らしい。


 記憶を持ったまま転生してしまったという可能性がおそらく高いだろうか。

 よくわからないが、記憶にある俺は17歳の高校3年生で、恐ろしく貧乏であったことだ。


 しかも貧乏なせいで虐められまくっていた。

 特に金持ちで俺様気質であった山崎に高校入学と同時に目をつけられてからは、まさしく地獄の日々。


 今まで馬鹿にされ、はぶられる程度だった虐めが、直接的な暴力や嫌がらせに変わったのだ。


 俺は奴の策略で親父が会社を首にされた時はじめて奴に反抗し、そのせいで袋叩きにされた。

 そしてその後の記憶がない。

 もしかしてその袋叩きで死んだのかと思うとなんともやるせない。


 しかし記憶を持ったまま転生出来るなんて、こんな幸運な事はない。

 見るからに金持ちな家庭のようだし、転生前のような状態にはなるまい……。


 俺はそんなことを考えながら強い眠気に身を任せた。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※





 時は経ち、俺は小学校の入学式を終えて、新しいクラスの席で一息ついていた。


 結論を言えば、俺の生まれた家は凄まじくて驚いた。

 まず俺は死んですぐ転生したようで、記憶にある袋叩き事件後すぐ生まれていた。

 確認はしていないが、俺の家族や、憎き山崎もこの世界にいることだろう。


 そして俺の生まれた家だが、生前の俺ですら知っている大企業を代々経営している家計で、財力、権力共に日本屈指とすら言われていた。

 一族の者は、会社だけでなく、警察官僚であったり、政治家であったり、大病院を経営していたりもの凄いエリート揃いで、家の力を使えばなんでも出来る気がして内心かなり引いてしまったのは記憶に新しい。


 そして俺は保育園入園と共に英才教育が始まり、バリバリの選民意識まで植えつけらる。

 前世の記憶がなければ酷い性格の人間が出来上がっていたに違いない。


慊人あきとおはようー、よかった同じクラスだね」


 俺の唯一の友人である結城ゆうきが俺に声をかけて隣に座る。


「おー、遅かったな」

「慊人がはやいんだろ、なんで待っててくれないかなー」


 結城は外国人の血が入っているらしく茶髪で色白で、その特徴のせいで保育園時代、虐められていたのを助けたのがきっかけで友達になったのだ。

 俺は虐めのせいで人付き合いが億劫になっていたため、結城以外の友達はいなかった。


 そんな結城と雑談をしていると、チャイムが鳴り、教師が教室に入ってくる。


「みなさんおはようございます。私が1-2を担当する――坂条諭さかじょうさとしです」


 教師――坂条教諭は、全体を見渡した後、自己紹介をしながらホワイトボードに自分の名前を書いた。

 趣味や好きな言葉等、ある程度の自己紹介を終えると、俺達生徒にも自己紹介を促す。


 俺は一番後ろの窓側に座っているため、おそらく一番最後だと、ドア側から自己紹介を始めたのを見て、少し後悔した。


 ちなみにこの学校はいわゆる金持ち学校の名門で、小学1年生の教室とは思えないほど静かで、自己紹介もしっかりしている。

 それらを見た俺の感想は、どいつも選民意識の強そうな気に入らないガキ共という感じだった。

 前世で山崎に虐められていたせいで金持ちに対してどうしても偏見を持ってしまっていた。


白藤結城はくどうゆうきです。しゅみは音楽かんしょうで、バイオリンをひくのが得意です」


 ……結城が王子様過ぎて辛い。

 優しげな笑顔で小学1年生とは思えない自己紹介を終えて結城が席に戻ってくる。

 見える……将来モテモテになる結城の姿が……、そうなっても友達でいてくれるかな。


 そんなくだらないことを考えていると、あっという間に俺の順番が迫ってくる。次は俺の前の席の奴だ。


「わたくしのなまえは、花屋敷呉羽はなやしきくれはですわ、わたくしはえいごが得意なので、えいごで自己紹介します」


 といって俺の前の席の奴がホワイトボードの前に立ち、英語で自己紹介をはじめた。

 ロングヘアーで巻き髪のいかにもお嬢様という感じの女だった。

 うるせー、日本なんだから日本語しゃべれよ、うぜー。

 したり顔で英語を喋り出したのを聞いてついイラっとして


「ちっ」


 舌打ちをしてしまった――――


 俺が舌打ちをした途端に今まで英語を喋っていた女の子はビクッと肩を震わせたと思うと、そのまま泣き出してしまった。

 まさか舌打ち一つで泣かせてしまうとは……、反省しつつもどうしたらいいのか判らずに戸惑う。


 静かだった教室はざわつき坂条教諭が優しく花屋敷を慰めている。

 坂条教諭は良い先生のようだ。

 隣の結城はあーあといった感じで俺と花屋敷を交互に一瞥してした。


樫宮かしみやくん、駄目だよ人が喋ってる時に舌打ちなんかしたら」


 泣かしたのは悪かった思う反面、その程度で?という気持ちがあった俺は、


「悪かったよ」


 とそっぽを向きながら素っ気なくつぶやくという中々に態度の悪い謝罪をした。

 その後坂条教諭に慰められて泣き止んだ花屋敷が席に座り、俺の自己紹介の番がやってきた。


 ……気まずい。


樫宮慊人かしみやあきと……」


 ホワイトボードの前に立ってそれだけ呟くと俺は席に戻る。

 俺が席に戻るまで教室は恐ろしく静かだった。

 中々最悪のスタートを切ってしまった事を少しだけ後悔しつつもチャイムが鳴る頃にはもうどうでもよくなってくる。

 クラスメイトのことよりも昼飯のことの方が気になって来たのだ。


「慊人……あれはひどいよ」


 結城が俺の態度を咎める。うん、今日の昼飯はハンバーグにしよう。


「別にいいだろ良い顔しいの結城とは違うんだよ」

「そんなつもりはないけど、慊人はもうすこし気をつかったほうがいいね」


 もっともだった。

 結城は常識人だな、そのまま真っ直ぐ成長してくれ。


 今日は入学式なので自己紹介と学園の説明だけで解散になった。

 自己紹介の時の印象が最悪のせいか結城以外誰も寄ってこなかったが、めんどくさくなくていいなと、先の後悔など完全に俺の中に無かった。


 結城と共に教室を出ようとしたら、教壇で生徒を見送っていた坂条教諭に呼び止められた。


「ちょっと案内しないといけない所があるんだけど時間あるかな」


 恐らく校門前のロータリーには迎えの車が既に来ているだろうが、申し訳ないが待つのも彼らの仕事だ。

 運転手の真田に少し遅くなると電話をして、俺は結城を引き連れて坂条教諭に付いて行く事にした。


 俺達の1年生の教室がある1階から最上階の7階に連れてかれた、ちなみにエレベーターである。

 そして坂条教諭は一番端の扉の前で足を止めて、扉に手をかけた。

 確か外から見たときバルコニーがあった部屋だ。


 扉の先に待っていたのは豪華な王室のような部屋だった。

 高そうな絵画や置物がいくつか飾られ、天井には豪奢なシャンデリア。

 しかも家具もうちに置いてあるような細かい細工を施された高そうなものばかりである。


「先生ここは?」


 俺の疑問に微妙な表情をしながら坂条教諭が答える。


「会長から樫宮君へのプレゼントだそうだよ、学園にいる間好きに使っていいそうだよ」


「はぁ? なぜ学園の会長が俺に? 」

「え、知らないのかい。この学園は君のお祖父さんが経営してるんだよ。ちなみにこの校舎は君の入学祝いに新築されたものなんだよ」


 そういえば昨日爺さんが家に来て入学祝いにサプライズを用意してるとか言って凄いハイテンションだったのを思い出した。

 孫の為に校舎立てて、学園内に自由に使える部屋与えるとかめちゃくちゃすぎるぞ……。


 坂条教諭は俺に鍵を渡して「ごゆっくり」と言って去って行った。


「話には聞いてたけど慊人の家ってすごいねー」

「ああ、俺もちょっと引いてる……、しかしこの部屋はいいな、俺たちの秘密基地にするぞ」

「ひみつきち! 」


 結城が嬉しそうな声を上げる。小学生男子が秘密基地と聞いて喜ばないわけがないのだ。

 かくゆう俺ですら、この部屋をどう使うか考えを巡らすだけで楽しい気持ちになってくるのだった。


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