難民と奴隷
大フランク連合に強制移住させられた難民は、あてがわれた畑で玉蜀黍を作り始めていた。
「兎に角不満がないように働かせよ」
農業に不向きな難民には狩をさせる。
鹿が良く取れた。
まあ冬に玉蜀黍を栽培した話は、21世紀の世界でも余り聞かない。
収穫など期待できないが、何かさせとかないと暴動が起こる。
因みに難民が飼育していた豚や鶏は難民と一緒に大フランク連合に連れてこられているので、肉の心配はしなくても良いが、食糧は輸入しかない。
ゴブリン達は当てにしていた略奪が上手くできずに飢えるだろう。
「神様には感謝する。死んだ5万人には悪いがな」
リサはシエルに命令して、兵の訓練をさせる事にした。
魔王軍と戦うなら、兵のレベルを上げとかなければならない。
あの大魔王は強い。
「難民達は農業を始めました。あの玉蜀黍は越冬が可能な種類です」
農民も遊んでいた訳ではない。
技術革新の時代に、品種改良に励んでいた。
それに水耕栽培なら、季節は関係ない筈だ。
「収穫率は悪いだろうが、それでも飢え死にはしないだろう」
お前らあの難民に水耕栽培をやれと言うのか?
農民の資産は土地の他は失われていない。
暫くは富を食い潰しながら農地開拓をしてもらう。
故郷に帰れる日が来るかは知らぬが、生きる為には仕方ない。
「ひとみ。難民には危害を加えるでないぞ」
リサがひとみに忠告した。
この姫ホントに私を何だと思ってるんだろう?
「分かった。部下に言い含めておくわ」
ひとみはリサと約束した。
だが少数派の暴走までは止められぬな。
「まずは食糧の値段を下げることです」
難民の流入で食糧の値段が上がっている。
「小麦を大フランク連合に売って値段を下げるとか?」
非常時だし只で売るしかないならそうするが、できればお金も欲しい。
「リサ公爵領でも売れます」
ひろみが難民の処遇でリサと話し合っていた。
食糧の値段を下げて、難民が飢えないようにして自分も儲ける。
それが一番だが。
リサは自分の領地の平和優先の領主である。
「小麦を供給できれば難民は収穫まで持つか?」
リサが尋ねる。
「農民は資産を失うでしょうな」
その補償をリサが行う義務はあるんだろうか?
「我々が呪いをかけてエドワードを腹痛にしたんですからねぇ」
シエルは言い切った。
「補償はしなくても良いでしょう。そこまで面倒は見切れません」
「うん。怨むならエドワードを怨め。私が怨まれる覚えはない」
リサはこの問題をほっといて、難民対策を行った。
戦争の噂を聞けば、もっと難民は増えるだろう。
「困るんですよ。これ以上難民にこられると」
リサ公爵領の各地の長官は嘆いた。
魔王軍の領地はセーヌ川東で押さえなければならない。
ミシェリアはこの領地に入るいかなる種族も殺害すると宣言した。
ゴブリンとダーク・エルフの他の種族と言う意味である。
ガルドは20万人の兵をさらに増強して30万人にした。
戸籍を強化して、幽霊国民をあぶりだす作業に追われている。
魔王軍に対する処置はそれからだ。
セーヌ川の海軍は強く、海に慣れないゴブリン軍を散々に打ち破った。
元々数の少ないゴブリンは陸を守る事にして、要塞を建設する事となった。
「海軍を増強しろ」
ゴブリンに対抗して海軍を強化するガルドだが、直に予算が逼迫する。
エルザス帝国はそんなに金持ちの国ではない。
リサ公爵領の方が余程金持ち国だ。
「海軍司令官殿。ホントにゴブリンに勝てましょうか?」
「無理だな。あっさりと大魔王の要求を飲んだリサの判断は正しい」
一応帝都の宿屋で勇者の仕事を募集しているが、なり手がいない。
実はこの国一番の勇者はマリネーの宿屋に滞在しているがリサは知らない。
エルザとゴートンだが、この2人の存在に気付く事はなかった。
「勇者様さえ出現すれば、あんな大魔王など・・・」
伝説の勇者が魔王を退治する英雄物語はこの国にもある。
100年前の戦争を平定したのが、エルザスの英雄にて皇帝のチャールズ1世だ。
「まあ英雄がこの国に来てくれるとは限らんしな」
チャールズ1世は戦争終結後の3日後に毒殺されてしまっているのだ。
「今は冬だ。11月になってしまっては、戦争はできない」
ゴブリンの勢力が増さないように、襲撃を繰り返しているが、ジリ貧になる一方だ。
リサ姫は軍役をシカトしている。
軍資金としてミスリル硬貨3枚が贈られて来ただけだ。
「やはりリサは怒っているようだな」
ガルドは得心した。
誰だって酷い目に合わされれば顔をだしたくなくなるだろう。
「だとすると俺が魔王軍と戦うのか?」
あのミシェリアとまともに戦って勝てる筈がない。
ミシェリアが移動呪文を使えないらしいのに感謝しないといけない。
後酷い船酔いするのも。
「大魔王さえいなければ勝機はあるぞ」
海軍は勢い付いた。
「ガルド様。出撃命令を」
兵士達は魔王軍との決戦を主張した。
「今なら勝てます」
主戦派に押されてガルドは決戦を許可してしまった。
500隻以上の艦隊がゴブリンの砦に攻めかかる。
「反撃しろ~」
ゴブリン砦から発射される魔道大砲ゲラムDのによって船が沈められた。
「何だと?」
さっさと逃げれば良いものを、一瞬船員の思考が停止した。
船の速度が止まってしまう。
「人間共を皆殺しにしろ~」
魔道大砲の威力によってたちまち半数の船が沈められた。
「待ってくれ。降伏する」
この期に及んで降伏しようとする愚か者もいたがゴブリンは無視した。
「お前らが降伏した我が同胞を助けたのか?」
せせら笑って大砲を撃ち込み続ける。
「嫌だ・・・。死にたくない・・・」
ゴブリンを粗末に扱った報いだ。
生き物を粗末に扱うような奴に命乞いする権利などない。
「助けてくれ。何でもするから・・・」
「じゃあ死ね」
無情にもゴブリンは言い捨てて、止めの一撃を船に撃ち込んだ。
この時に戦死した人間は10万人。
ゴブリン兵には一人の犠牲者もでなかった。
「何?ガルドは侵攻を開始してしまったのか?」
シエルは呆れてリサに報告した。
エルザス帝国の軍事力では勝てない事が何故分からない?
「仕方ない。勇者募集の仕事をマリネーの宿屋に頼め」
勇者様ならあのミシェリアを討伐してくれる筈だ。
「分かりました。ところで玉蜀黍が収穫されました」
そうか。
早いな。
「難民達には鹿狩りで飢えをしのぐように言っておけ」
小麦を分け与えるのが持ったえない。
私は救済者ではないぞ。
「当面は心配ないでしょう」
この季節は食糧の在庫が減るから、難民対策は非常に困る。
「余りケチケチするとカリスマが減りますよ」
リサのカリスマは21まで落ち込んでいる。
「どうします?我が領地の近くに侵攻してきたら戦わぬ訳には・・・」
神の力は3分の一も回復していない。
今戦えば犠牲が大きいだろう。
「シエルは修行を行ってください」
リサはシエルに命令した。
シエルの精霊魔法は邪神教徒とは関係がないから修行でレベルが上がる筈。
「本気で修行すれば、レベル100越えが可能よ」
私は人間なんだがな。
「分かった。部下と共に地獄の滝修行をする事にする」
何故滝修行なのかは良く分からないが。
「しかし私より強い戦士がこんなにゴロゴロしてたとはね」
シエルは素手で蜂を一撃死させる事のできる人材だ。
武道家のレベルも1レベルだがある。
ついでに武道家のレベルもアップさせよう。
「では熊退治にも行ってきます」
武道家なら熊退治だろう。
シエルは部下を集めると、天国の山登り修行に行ってしまった。
リサは難民の中から兵士を募集する事にした。
難民に食糧食わせるより、兵士に食わせた方がマシだ。
兵士の志願者は30万人もいた。
リサは早速採用して各地の街や城に配分する。
この兵を監督する為に、リサ伯爵軍を1万人削減して将校として守備兵の上官にした。
「魔王軍とは交戦する心算はないぞ」
リサは部下に良く言い含めておいた。
神の奇跡に頼って移住させたのに、一時の怨みから魔王軍にケンカ売ったら損害は計り知れない。
「大魔王と戦っても勝ち目はないぞ。主力の訓練が終わるまで待て」
俺達は魔王討伐に連れてってもらえないのか?
最終的に移住に同意したとはいえ、故郷に帰れるなら魔王軍と戦いたい。
「お前達など足手まといだ」
リサははっきりと言っておいた。
魔王軍に勝てると思われると困る。
ミシェリアを怒らせたら、15万人程度の犠牲じゃすまないぞ。
「あの化け物に勝てないのは分かっていますよ」
勝てる自信があるならセーヌ川東部に舞い戻って魔王軍と戦ってる。
「トーナメントを開催したらどうでしょう」
ひとみがリサに提案した。
「トーナメントで凄腕の兵を集めるの?」
「流石お代官様は分かってますな」
ひとみはりさにお追従した。
「それとも奴隷市で屈強な若者を買い求めますか?戦いに勝てば自由にする約束で」
それも良いな。
お金なら腐るほどある。
「帝都に誰を送るからね。ひとみが行く?」
奴隷兵団なら数日で編成できる。
「私が行きましょう。邪神教徒の部下を貸してくれない?私邪神教徒じゃないから」
ひとみそろそろ破門されるんじゃ・・・。
「分かった。特別に依頼してみよう」
この人は絶対に私の事を手下Aと考えてるな。
ひとみはその昼に大金と1万人の邪神教徒を引き連れて帝都に行った。
そして半日で奴隷を10万人かき集めて戻ってくる。
全員戦士レベル5の達人共だ。
軍資金で渡された400万ディルス全部使い切った。
「ホントに魔王軍に勝てれば自由の身にしてもらえるのか?」
「就職問題とかあるから兵士の待遇でよければね」
勿論給料もだすぞ。5ディルスでどうだ?
「5ディルス?凄い」
因みに守備兵は2ディルス。
リサ伯爵軍は20ディルス。
シエル騎士団は30ディルス位である。
「どうだ?不満か・・・」
リサは聞いてみた。
こんな待遇で不満を抱く奴がいるか?
「給料は12月からもらえるんで?」
期待してしまったらしい奴隷頭がリサに尋ねた。
「地獄の猛特訓に耐えられたらだけどね」
軍人として雇ったのだ。
死ぬほど鍛えてレベルアップしてくれないと困るんだよね。
「分かりました。2食保証して頂けるのでしたら」
わけの分からない事を。
私がそんな冷酷な娘に見えるのか?
カリスマ21の威力を思い知るがいい。
「私を信じろ。食は3食必ず用意する」
奴隷達はリサを信じたようだ。
このカリスマの威力はチートすぎる。
「リサ姫万歳~」
「リサ姫万歳~」
奴隷達の歓声はいつまでも続いた。
その夜は例によって宴会である。
一番安い酒であったが、奴隷達を篭絡するのには十分だった。
奴隷達はリサの狂信的な支持者になってしまう。
「酒の恩は忘れません。魔王軍と戦わせていただきます」
「魔王軍を倒して報奨金で家族を買い戻すんだぁ」
奴隷達はアレンビーの指揮するリサ伯爵軍4万に率いられて山に入っていった。
雪山での訓練は過酷そのものであろう。
こんな力のある神様なら、悪の大魔王など呪い殺せるような気がしてきた。




