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冬ごもり

ドラゴン退治の準備をしてるうちに11月になってしまった。

リサの領地内には残り3組のドラゴンがいるらしいが、単体ではない。

ドラゴンには奥様がいる。

シエルがいくら強くても複数のドラゴンと戦ったら、こんがりと丸焼けにされ、ドラゴンの夕食になるに決まっているが、本人は気にしていない。

「本当に私などが参加して良いの?」

ファンクラブの会長として多忙なリサがシエルに聞いた。

フォートレスを連れて行った方がよくないか。

煽てられ、無理矢理参加させたくせに、結局お前は足手まといなどと言われるのは嫌だぞ。

「大丈夫です。全て我々がお膳立てしますから、リサは剣でドラゴンの首を殴り続けてくれればいい」

戦いに参加させれば少しはレベルアップする筈だ。

技術は教わるものではなく盗むものである。

雪山を行軍させるだけでも1レベル位アップするかもしれないな。

「邪神教徒とはいえ、神様本人も出陣するのよ。あとひとみさんも」

この際リサ姫と幹部連中のレベルの底上げをおこなおう。

上手くいけば、領地経営に役立つ新呪文が手に入るかもしれない。

財宝があれば、領民に分配して機嫌をとろう。

「リサの病気もちゃんと療養すればよくなるわ」

シエルが思うに、リサの病気はストレスが原因だろう。

ストレス解消もかねてドラゴンを倒せば、リサの病気もよくなるに違いない。

「私の領地はドラゴンの肥料で生産力を拡大してるんだよ?」

リサが反対の言葉を述べた。

多少の後ろめたさがあるリサはドラゴン退治に乗り気ではない。

「ドラゴンの肥料の効果のおかげで、二毛作ができるのだよ?忘恩の徒じゃない?」

リサは冬ごもりの為の食料調達に忙しかった。

この季節は小麦が主流だが、一部地域でカラス麦やライ麦も育てている。

春の休耕地はひと月だから、一部地域で種蒔きが遅れる事情もあった。

北にも暖かい地方は存在する。

「そう言えばカラス麦をこの季節に育てているらしいと言っていた奴がいたが」

そんな発言を誰かがしたような気がするのだが気のせいだろうか?

「それは多分西部平原の話だよ」

地域によって植生が違うのだから、リサの領地全てで同じ時期に同じ作物を作ってる訳はない。

全ての地域で同じ作物を育てていたら飢饉の時に作物は全滅する。

「私の聞き違いではないのだな。よく覚えていないけど」

「ご心配なく」

カラス麦の一件はこれで終わった。

本題はドラゴン退治だ。

ドラゴンの肥料があってこその二毛作である。

だがリサは態度を硬化した。

気分を害したらしい。

「兎に角私は仕事とファンクラブの運営で忙しいのよ」

話を元に戻したリサは言い切った。

ファンクラブの運営費用は、殆どが部下の保釈金に当てられる。

エドワード派による弾圧が厳しいのだ。

だが会長の給料の3千ディルスは美味しい。

「私はドラゴン退治には向かない」

リサがやんわりと拒絶した。

「領内の魔物退治も領主の仕事よ」

シエルもきっぱりと言い切った。

「私が魔物退治したって足手まといじゃないの?」

リサはシエルがドラゴン退治を進める真意を理解しかねた。

この人雪山で私を暗殺する気なのだろうか。

そんな馬鹿な考えさえ頭をよぎる。

「領地はフォートレスさんに任せとけは大丈夫よ。神様のご加護でドラゴンの住処まで送ってくれるから、雪山行軍は帰り道ね」

財宝をもって移動呪文は使えないだろう。

歩いて帰る必要がある。

「財宝なら腐るほどリサの領地にあるじゃない」

うん。

私もそう思う。

「新しい魔法が手に入るかもしれない」

邪神教徒の魔法だけで満足できないのか?

「人間の欲望にはキリがないのよ」

シエルが真一に造らせておいた水着を持ってきた。

「この真一さんの魔法の水着を服の下に着込んでおけばドラゴンの炎も防げるわ」

真一は邪神教徒になって以来、水着の製作に励み続けた。

それに加えて神の願いの力によって、魔法の水着を作れる様になったらしい。

リサの為に、水着を造り続けるのが、この人の愛と忠誠なのだ。

「あの人の職人レベルは60よ。それに神の加護が加われば、製品に魔力が及んでしまうらしい」

この水着にかかった魔法は炎遮断と生命力維持である。

「真一さんの撮影したリサ姫の写真は、お守りとして邪神教徒の間で取引されてるわ」

へえ?

神様の力は偉大だわね。

「絶対安全だから、ドラゴン退治に参加して。でないと小説が書けないのよ」

何?

「小説?」

リサが呆れて聞いた。

「はあ。リサ姫の冒険談を小説にしたいと言う少女がおりまして・・・」

書くのは物書きの少女だが。

「思い切り誇張した内容になる予定らしいですけどね」

小説書く為にドラゴン退治を私にやれと?

「無理。絶対無理」

リサはここで見事に怖気付いた。

他人の小説の為に何で私が死なねばならんのだ?

「リサ。我儘言わないでください」

人事だと思ってシエルが嗜める。

そりゃあんたはレベル45の大司教だけどさ・・・。

「私寒いの苦手なのよ。吐血の回数が増すわ」

リサはシエルの説得に耳を貸そうとしなかった。

誰だってドラゴンと戦うのは怖いだろう。

「私は文官なのよ?」

小さい頃から病弱だったから、ろくな戦闘訓練もうけていない。

リサが剣術の達人だったら、リサ伯爵領の二倍の領地は相続出来た筈だ。

迫害されがちなハーフ・エルフなのに領地を相続できたのは幸運である。

「どうやってドラゴンを仕留めるのよ?貴方達が徹底的にドラゴン痛めつけて、私がトドメ刺すの?」

リサの筋力ではオリハルコンの武器でも持ってこないとドラゴンの鱗を貫通できないと、本人は思うのだが。

それに昔のあだ討ちじゃないんだから、無抵抗な敵役をぶち殺すのは良心の呵責が多少あるな。

「いかにも」

シエルが言い切った。

「リサをレベルアップさせるには、こんな姑息な手段でも使わない事にはどうにもなりませんし」

私ドラゴン殺してまでレベルアップしたくない。

リサは思うが、それを言ったらエドワードの悪事を散々聞かされる羽目に陥る。

「お優しいリサ姫が何でエドワードの悪行に目をつぶるのか?」

そう言われるに決まっているのだ。

どうせ私は反逆者になりたくない偽善者だよ。

「分かった。私の命を保証してくれるならドラゴンを退治しよう」

シエルの目が輝いた。

「姫の安全は保証するわ」

シエルは言葉を続ける。

「それから出陣は冬ごもりの食糧がリサの領地に届いてからにするからね」

占い師に試しに占わせてみたら今年は極寒である。

春の小麦の収穫は凶作だろう。

春用の食糧を用意しておかねばならないのだ。

因みにシエルの占いでは、暖冬である。

「占いは外れるに越した事はない」

極寒だと占ったひとみにシエルが言った。

ひとみはカチンときたが、一応黙っておく。

言ってる事はシエルが正しい。

それ故に大フランク連合の首都がおかれているリサ村でも食糧が他国から買い占められていた。

一つの領内に他国の王城がある事になる。

政務室はリサの屋敷の一室があてがわれた。

リサは私を何だと思っているのだ?

ひとみはそう思わないでもないが口にはださなかった。

「シエル。食糧生産の魔法はないの?」

リサはシエルに聞いた。

そんな便利な魔法がもしあるなら使って民を救ってほしい。

「大司教にしか使えない呪文よ。やってみる?」

暗黒魔法は便利だ。

人間の欲望に忠実である。

「神よ。この地上に食糧を降らせたまえ」

シエルの呪文詠唱が終わると小麦の袋が100キロ分出現した。

「これだけなの?」

シエルが落ち込む。

神聖魔法の大司教は数十万人の人間をこの呪文で救ったというのに・・・。

流石は弱小教団だ。

ひとみはそんなシエルを冷たい目で見た。

「シエル。もう一度やってみて」

リサに言われてシエルはもう一度呪文を唱えた。

ドサ。

今度は80キロ分である。

「えっともう一度」

シエルが呪文を唱えようとするのをリサが止めた。

「この呪文使う度に効力がおちていくわよ」

連続使用は出来ないらしい。

リサは諦めた。

「やはり食糧はお金で購入するわ」

リサは妙な夢は見ないで食糧を購入する気になった。

大体100キロ位じゃやらない方がマシだ。

「すみません」

シエルが謝った。

魔法の研究をして食糧をちゃんと降らせるようにするので時間を・・・」

分かってないのか?

その呪文はシエルには使いこなせないようだ。

「その呪文は最後の手段よ。絶対に使ってはいけないわ」

珍しくリサがきつい声で命令した。

シエルは怯えている。

「分かった。神様に詳しい使用法を聞いてみるわ」

シエルは取り敢えずは食糧の輸入を実現させる事にした。

大フランク連合の食糧事情も考えないといけない。

リサの手下みたいになってしまったひとみのせいで、大フランク連合はリサの領地の属国みたいになってしまった。

春になったら、大フランク連合の農業を改革しないといけない。

「いっその事大フランク連合の国王になりませんか?」

ひとみがそんな冗談を言った事も何度かあった。

だがリサは何故か同意しない。

「猪狩りを行おう」

リサはストレスからなのか、最近猪狩りの指揮をとっていた。

自力で食糧を調達出来るようになるまでは、猪狩りは止められない。

「蜂退治はどうなってるの?」

リサが聞いた。

「冬でも巨大蜂は狩れるから。冬ごもりで動けない蜂を惨殺するのは罪深いな」

シエルはこの辺は冷酷無情だ。

雪山で魔法など使ったら雪崩が起きるので、慎重に戦う必要がある。

「私の魔法は筋力強化があるからドラゴンと戦えるよ」

ひとみは財宝を運搬させる運搬兵の募集をマリネーの宿屋で募集させた。

そんな事をしてるうちに食糧を満載した船が、シエル伯爵領の港町にたどり着く。

これで夏までは飢えの心配はない。

「ご苦労。ではお金を支払うから食糧を引き渡すように」

リサは気が重かった。

これで明日にはドラゴンと死闘を演じなければならないのだ。

困った。

何でかしらないけど、どいつもこいつも私を英雄にしたくてたまらぬらしい。

「姫。お約束通り明日にドラゴン討伐に行きますので準備を・・・」

そんなに私を吐血させたいのか?

「分かった。準備しておく。ところでこの魔法の水着だが普通の服のはないのか?」

リサが聞いた。

いくら服の下でも水着はちょっとな・・・。

「分かりました。明日までに届けさせます」

部下が真一の店まで行き、早急に服を届けさせた。

翌日。

完全武装したリサとひとみとシエルが神様と共にドラゴンの洞窟に集結していた。

シエルはメッキの剣を持っている。

一応普通の銅の剣らしいし、素手よりはマシだろう。

一応神様がくれた剣だ。

ご利益があるかもしれない。

荷車を所持した運搬兵が20名付き従っていた。

物書きの少女が運搬兵の指揮をとっている。

彼女の小説の為に戦うのだ。

見届け人は彼女でないと困る。

「ではドラゴンを退治するぞ」

リサが宣言した。

ドラゴンが目を覚まさないように小声でだが。




伯爵様自ら戦うんです。

国一番の精鋭が揃えられて当たり前でしょう。

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