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蜂退治の後日談

シエルは物書きの少女をリサの屋敷に連れ込んで問いただした。

領民の反逆的な発言は聞き逃せない。

大目に見るにしても、真意を問いただす必要がある。

「ずいぶんと大胆な発言をするな。そなたは」

シエルは少女の発言の真意について考えた。

どう考えてもエドワードを暗殺する考えに決まっている。

「奴の死はエルザス万民の望み」

開き直った少女は、臆面となく言ってのけた。

シエルが反逆に否定的なら、噂を広めて既成事実化するだけである。

どうせシエルに少女は殺せまい。

「困るんだよね。そういう発言をされると」

シエルとてあのエドワードをぶった切る事が出来るならしてみたい。

だが兵隊1万騎程度で国軍を打ち破る訳にはいかんぞ。

エドワードの精鋭は世界最強である。

レベル41程度の邪神教徒で謀反など成功するものか。

「エドワード陛下に怨みでもあるのか?」

シエルは聞いたが、それは愚問だろう。

「私の両親はエドワードに殺されたわ」

私怨か。

シエルは困った。

この娘をこのまま解放していいんだろうか?

「私はリサ姫の部下よ。リサを説得できないと謀反はありえない」

少女を説得できないなら、切るしかない。

物書きの少女は鼻で笑ってから言った。

「リサ姫の所業がエドワードの好みだと本気で思うの?」

思わない。

だがもう少し待ってくれないかな。

領内の治安維持も出来ていないのだぞ。

恒例の蜂退治は始まったばかりだ。

「待ちましょう。でも雪で動けなかった難民達がもう直押し寄せてくる」

難民か。

嫌な時期が来たものだ。

「私とて、姫の謀反を言いふらしたりはしませんよ。シエル様が約束してくださればですがね」

謀反をか?

邪神教徒が反逆を計画するのは当然か。

「今すぐには無理よ。それで良かったら」

こうなったら仕方ない。

エドワードへの謀反を黙認しよう。

「では蜂退治の小説で儲けさせて頂きます」

少女は以後シエルの部下としてリサの領地にとどまることになった。

「ではシエル様の屋敷で小説を書かせていただきます」

少女はシエルの屋敷に逗留すると小説を書き始めた。

シエルはその足でリサに面会する。

「散々だね。シエル卿」

リサはシエルのありさまに同情したらしい。

直に対策を命令した。

「何をしているの?直に医者を手配しなさい」

いや、治せるから。

「心配無用。闇の司祭様に後で治療していただく」

シエルはリサの好意を断った。

「傷を癒したら次の巨大蜂を退治に出かけるわ」

神の力が強まれば、巨大蜂など素手で皆殺しに出来るのだ。

「真一さんが邪神教徒になった事で、貢物は期待できる。神の力は強まる筈よ」

神の力は貢物と生贄の量で決まるらしい。

「精霊魔法の力にも期待してるんだけど」

リサはシエルの精霊使いの実力を評価している。

「リサの側近を貸してくれるなら、精霊魔法で蜂退治をしても良いわ」

精霊魔法だけで蜂の大群を退治できる自信は流石にない。

「そうか。最強の戦士を用意させよう」

そろそろ部下のレベルアップに力を投入するべきだな。

リサは最近領内の魔物相当に力を入れていた。

シエルの様な豪傑は貴重である。

「今リサ伯爵領の軍資金はどの位あるんです?」

ふいにシエルが聞いた。

逼迫してるようなら、明日にでも蜂退治に出かけよう。

「借金も返済しないといけないから、月2万ディルス程度しか儲からないわ」

シエルがこさえた、借金の利子は最初の2億ディルスだけである。

即刻利子の支払いを停止させた。

それで50億ディルス。

雪だるま式に借金が増えないのは有難い。

「蜂退治にでかけるわ」

国家に貢献するのは家臣の義務である。

物書きの少女は気楽でいい。

残念だ。

リサ姫の簒奪物語は当分書けそうにない。

忠誠は部下の義務でも、エドワードには忠誠を誓いたくなかったんだがな。

「直にでかけるの?」

傷を治してからにした方が。

「闇の司祭様に会ってから行く。リサの部下を私の屋敷に送り届けてほしい。守らせておきたい者がいるのでね」

因みに僧侶の位は闇の司祭よりシエルの方が上である。

闇の司祭は先輩なのだ。

「それから蜂退治の収入の一部は税金として貢がせていただく」

残りは神様への貢物だ。

神の力が増せば、奇跡を行う事も出来るようになる。

伝説では、金貨の山を降らす事も可能な様だ。

「リサ。猪の生育状態はどうなの?」

シエルは聞いた。

この季節は文無しの農民が、飢えに苦しむ事が多かったが、最近はそんな事もなくなった。

それだけでもリサに感謝している。

アイデアだしたのは真一だったが、計画を実践したのはリサなのだ。

大フランク連合に売りつける心算で蓄えておいた食料の一部が、領民の腹を満たしている。

「領内で餓死者がでていないのが、私の善政の証拠じゃないの?」

リサはふてぶてしく言い切った。

確かにその通りだ。

リサの領地では全ての領民が無事越冬に成功した。

「猪は最近領内の山岳で増えてきてね。山で猪を狩って、手持ちを減らさないで飢えをしのぐ農家が増えてきてるわ」

別にそれは良いんだが、猪税の徴収率が悪くなるんだよね。

「魔物退治が進んでる証でしょう。やはり魔物は少しは生かしといた方が生態系が破壊されませんね」

シエルは蜂は退治する心算である。

ロイヤルゼリーは金になる。

リサ伯爵の臣下としての義務と、邪神教徒としての義務を果たさないといけないからな。

「蜂ごとき私の部下でも討伐は出来る。少し内政に力を入れたらどう?」

最近シエルは邪神教徒の義務を優先する傾向がある。

だが優秀な部下なら私にもいる。

大体私の部下には、ドラゴンを生け捕りに出来る勇者がいるのだぞ。

「シエル。貴女は病弱な私に代わり、リサの領地を治めるべき者なのよ」

それがなぜ蜂退治などを好んでするのだ。

「少しは私の部下たる自覚をしてほしいものね」

シエルはむくれた。

リサに意地悪を言われたからだ。

国の為に蜂を退治する武勲をたてたのに、こんな言われかたされたらだれだってむくれる。

「私は未熟者故に」

シエルは嘯いた。

リサは私に何を求めているんだろう?

確かに真一の様に金になる水着写真を造り出す事はできないが。

フォートレスの様な内政の能力もない。

「蜂退治は部下に任せなさい。貴女が蜂ごときに殺されたら、耐えられない」

殺される事前提かよ・・・。

だがリサなりに気を使ってくれてるのだろう。

だがその気になればドラゴンだって一撃で殴り殺せる実力の持ち主なのにな。

この私は・・・。

「分かった。命令にはしたがうわ。マリネーの宿屋で候補を探して構わない?」

シエルが聞いた。

自分が前線にでられないなら、若手の冒険者に仕事を斡旋するべきだろう。

「良いよ。ロイヤルゼリーは回収するのよ。蜂蜜屋に売りつけるんだから」

分かってます。

だから確実に儲ける為に自分が行きたかったんだが。

人を雇うと予算が逼迫する。

「人を雇うと予算がかかりますよ。村の予算で雇うんですか?」

リピームが横槍を入れた。

「雇用拡大して良い事じゃない。ロイヤルゼリーの売り上げで伯爵領の収入は数十万ディルスに跳ね上がるわよ」

功績は全てシエルのものだ。

だからそうむくれるな。

「この時期は税収が少ないから、副業で儲けないとね」

シエルも納得した。

功績によってはリサの部下にしてやれば、命がけで蜂退治をするだろう。

「では私はフォートレス村に戻るわ」

リサに一礼するとシエルは暗黒魔法の移動呪文でフォートレス村へやってきた。

暗黒魔法は便利である。

「闇の司祭様。傷を治して」

シエルは闇の司祭を見つけると要求した。

「シエル様。神の力がまた衰えますぞ」

シエルの魔法の代償に、神の力が衰える。

そのせいで信者はロクな魔法が使えなかった。

「お願いよ」

シエルが頼んだ。

「分かりましたよ」

闇の司祭はシエルの胸に手をやると、呪文を唱え始めた。

魔法は直接触れないと効果がない。

これだから暗黒魔法は止められないのだ。

当然女の子が相手だと、役得のセクハラ状態になる可能性も高いのだ。

「終わりましたよ。毒の傷みは3日もすれば治まるでしょう」

「感謝するわ」

シエルは素直に神に感謝した。

シエルは邪神教徒の部下を一人呼ぶ。

「マリネーの宿屋に行き、仕事の依頼をして。内容は蜂退治。報酬は500ディルス。ロイヤルゼリーは依頼主に引き渡す事」

「分かりました」

信者は一目散に仕事をしにいった。

「ドラゴンの雛はどうなってるの?」

興味本位でシエルが聞いた。

今年産まれた6匹の雛だ。

「順調に成長しております。でも騎馬代わりにするには、3年はかかるでしょう」

「そうか。蜂退治に使えるかと思ったんだけど」

シエルは困ったように首をかしげた。

だが使い道はあるぞ。

「ドラゴンを祭る教会を建てよう。上手くいけば竜語魔法が手に入るかも」

シエル自身は信者になる気はないが、別の信者が竜語魔法をマスターするかも知れないではないか。

何事もやってみないと分からない。

「あの親ドラゴンはどっちもろくに魔法は使えないですぜ」

シエルの野望はあっさりと打ち砕かれた。

「ならどうやってドラゴンと話をしているの?」

「ドラゴンはエルザス語が得意でしてな」

部下は得意げに説明した。

「蜂退治の暗黒魔法を幾つか異教徒に伝える訳にはいかないの?」

宮仕えのシエルとしては、伯爵領の利益も優先事項だ。

「神様に直接聞いてください」

闇の司祭は投げやりに答えた。

暗黒魔法は神の力だから、異教徒が使っても魔法は発動しないと思うぞ。

「では神様を呼び出して」

闇の司祭は呪文を唱えた。

閃光と共に神様が現れる。

「何の様だ?お前らがバカスカ魔法を使うから余は疲れておるのだ」

この横暴な信徒に対して神様は不機嫌だ。

「異教徒の部下でも暗黒魔法を使える様にできない?」

何だと?

そりゃできるけどさ。

「魔法の歌の一つに同意者を洗脳する魔法がある。異教徒を無理やり信者にする時に使う歌だが、一週間はもつぞ」

いや私が聞きたいのは魔法の有無なんだが。

「洗脳した異教徒にはレベル5の暗黒魔法が約束される。お前はそれを聞きたいのだろう?」

無理やり信者にされても特典は有効なのか?

「そうだよ。神様有難う」

シエルは知りたい事だけ聞くと神様をさっと神の国に送り返そうとした。

「ちょっと待て。折角この世界に来たのだ。宴会をやるゆえもてなす準備をしないか」

便利屋扱いに神様が少しむくれた。

「分かりました。3日ほどお待ちください。リサの領地全土の信者を召集しますから」

闇の司祭はそんな神様を宥めた。

信者に神の存在をアピールする良い機会だ。

神託をだしても良いのだが、神はお疲れ気味なので止めておく。

その場にいた信者は早速神の意思を伝えにリサの領地全土に散っていった。

3日後。信者30名と入信希望者172人がシエルの屋敷に勢揃いする。

「おい。あいつが神様なのか?」

「あのオッサンが?」

入信希望者は神様を見て幻滅したらしい。

だがそれでも寿命にひかれて、入信は断らなかった。

神様自らコーヒーを渡していく。

「面倒な手続きは要らない。一気にコーヒーを飲み干せ。それで信者になれる」

入信希望者はコーヒーを一気に飲んだ。

一応高級な砂糖で甘くしたコーヒーである。

「これで俺達は仲間だ。よろしくな」

「世間の迫害もあると思うが頑張ろうぜ」

仲間となった先輩信者が新米を励ましていく。

「それからこのシエル大司祭を司教に昇進させるからその心算でな」

神様自ら宣言した。

リサの領地では最高位の位である。

シエルに神殿を建築するように命令した。

魔法がなくとも簡単に呼びだせる様にする為である。

「司教様万歳~」

「心いくまで飲み干すぞ~」

神様を肴にしての、未曾有の大宴会は全員がぶっ倒れるまで続いたそうである。





便利屋の神様もたまにはいても良いでしょう。

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