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奴隷市の誓い

お見苦しい文章ですが、できれば指摘はしないでください。

大陸を支配する、大エルザス帝国の物語である。

リサ卿の英雄談だ。

そのリサは伯爵の俸給4年分に相当する3千ディルスの金貨の袋を担いで、帝都の奴隷市を見物していた。

手下のドワーフ隊隊長リピームと大商人の長男アトルピーがリサの身辺警護をしている。

リサはこの世界では平均以下の食材であるパンを食べながら、この悪行を黙ってみていた。

見ているしかなかった。

一応伯爵の称号は頂いて俸給も貰っているが、所詮リサはサラリーマン伯爵である。

一応薬学の知識は宮廷で末席に値する実力を持っているが、その程度で世の中渡っていけない。

「おらぁ。黙って働かんかぁ」

リサに見せ付けるように、奴隷商人が奴隷に鞭をふるった。

「たっ助けてください。お嬢様」

奴隷は思わず観客席のリサに助けを求めるが、リサにはどうすることもできない。

「けっ貧乏人は黙ってみてな」

奴隷商人は無力なリサをあざ笑いながら奴隷に言い渡した。

「てめえにはたっぷり鞭をくれてやるわ」

奴隷は引きずり倒されて、奴隷部屋に叩き込まれる。

「いつ見ても嫌な光景だ」

リサはこなければよかったと思いながら、部下の用意した飲み物を飲み干す。

普段飲んでる一本銅貨一枚の水よりは高級品のようだ。

薬学の専門家ゆえに舌の感覚はバッチシである。

「これ幾らするの?」

リサが尋ねた。

リサは物価に疎い。

高級な水なのは分かるんだがな。

「一本銅貨2枚です」

銅貨100枚で銀貨一枚。

銀貨100枚で1ディルス。

ディルス金貨100枚でミスリル硬貨1枚だ。

1ディルスは日本円で8万円位の計算である。

「貴方達。私にこんな贅沢な物飲ませていたの?」

こんなもので銅貨2枚なら、私が飲んでいる薬草茶の方が高そうだな。

今度領地で薬草茶を売ってみようかな。

「私が飲んでる薬草茶は一杯銅貨5枚だったよね?」

薬草茶は病弱なリサの養生の為仕方ないが、普段から私に贅沢な水を飲ませるんじゃない。

こんな贅沢をする位なら、一人でも多くの領民を時給銅貨3枚で雇った方がマシだ。

定住すれば幾らでも交易に巻き込んで富を吸い上げられる。

「申し訳ありません。リサ姫」

アトルピーが素直に謝った。

リサも謝られて悪い気はしない。

「分かればよろしい」

リサは機嫌を直す事にした。

然し病弱とは問題が多すぎる。

帝都までは輿に乗ってきた。

「この年でろくに働けないとは情けない限りだ。私に与えられたのは山奥にあるリサ伯爵領のみだしね」

領民はたったの150人。

税収は30ディルスである。

部下はアトルピーとリピームと配下のドワーフ隊5名のみだ。

盟友で14歳の姉のフォートレスが伯爵領の実権を握っている。

平凡な女性だが、リサ伯爵領をそれなりに統治して、国から俸給もいただいていた。

フォートレスの国での役職は騎士隊長。

リサ伯爵領近辺の魔物や盗賊を退治する任務を与えられている。

リサ伯爵の国での役職は書記であった。

ハーフエルフなので、生き延びて国の歴史を記録して保管する役目である。

「私に力があれば奴隷を解放する事ができるんだが」

名目だけの伯爵なのが悔しい。

7歳で伯爵に任命されてから4年。

増えた人口は20名のみだった。

魔物がやたら増えた。

「姫。このエルザス帝国の帝都にまで来たのは、陛下への謁見だけが目的ではありません」

「うん」

本来の目的をリサは忘れていない。

帝都でリサ伯爵領の村民を募集する為だ。

帝国内で一番税金の安い村というのが、煽り文句である。

リサは伯爵に就任した次の日に、年貢を8割から2割に引き下げた。

そして細々と獣を狩りながら、伯爵領の食糧庫を物資で満杯にしたのだ。

「それなのに何で私の領地は寂れているのだ?」

別に過疎化という訳ではない。

8割は若者である。

村には民宿があって、銅貨7枚もあれば店主のマリネーの作る極上の飯にありつけるのだ。

産業を興そうと、リサが伯爵領の予算の半分を使って雇った鍛冶師もいたりするのだ。

それなのに人が来ない。

田舎はどう村興ししても田舎なのだろうか。

「田舎で交易路もないですからなぁ」

リピームは酒を飲みながらリサに答えた。

この酒代も村の予算を圧迫してる。

だがドワーフに酒を飲まさない訳にはいかない。

ドワーフから酒を取り上げたら暴動が起こる。

帝国東のアミン公爵領で起こったドワーフの暴動は酷かったらしいし、酒をケチってはいけない。

「リサ姫は奴隷を解放したいのか?」

アトルピーはリサに尋ねた。

一応リサとアトルピーは幼馴染である。

姫の考えなど直ぐに分かる。

「領民から根こそぎお金を借りまくって資金を集めたのに、奴隷など買える筈はない」

村民を金で雇う為にお金を使う心算だ。

だが奴隷をほっといて良いのか?

「民を見殺しにはできない」

この台詞が奴隷に向けて言ったのかは、2人には判断がつきかねた。

「姫。市場の職安に行きましょう。奴隷を買う気がないのに罪悪感に駆られるのは偽善です」

アトルピーはリサにそう進めるが遅かった。

奴隷市のヤマ場である奴隷オークションが始まったのだ。

「西条真一。100ディルスがら入札が始まります」

日本人か。

珍しいな。

「日本人か。最近誘拐が増えているな」

リサはこの男を一目見て気に入ったが、100ディルスも出す訳にいかない。

そもそもこの男に村の予算の3倍をだす価値があるのか?

奴隷を買う気などなかったが、日本人なら話は別だ。

日本人の技術者は世界有数である。

リサは知らないうちに真一を買うように誘導されてしまったようだ。

「この男は日本の商人の部下に当たる課長だったそうです。買えば必ず役に立ちます」

課長?

どう見ても25歳位なのに中間管理職なのか?

「真一の年齢を聞きたい」

リサは思わず仲買人に質問した。

「23歳です」

「何の職種なの?」

「水着職人だったそうです」

水着職人の中間管理職?

リサ伯爵領の村にも一応水源はあるし、水着で儲けるのもいいかもな。

「よく分かった。100ディルスなら入札してもいい」

リサはこの奇妙な男に心引かれたようだ。

貴重なディルスを惜しみなく投入する。

部下はこの散財に呆然としたが、あえて口にはださなかった。

日本人なら問題ない。

「他に入札者はいませんかぁ」

仲買人が声を張り上げた。

せっかく異世界から誘拐してきた日本人を、100ディルス程度で叩き売ってたまるか。

しかし水着職人というファンタジー世界では馴染みのない職種に完全に引かれてしまったようだ。

リサの他に入札者はいない。

「リサ姫様。100ディルスで落札です~」

仲買人は泣く泣く真一をリサに引き渡した。

リサはお金を払う。

リサはこの真一の部下として、15名の職人奴隷を400ディルスも使って購入した。

村人候補の奴隷も2千ディルスで300人購入する。

因みにさっきの奴隷も含まれていた。

村人は一気に315名も増加する事になった。


「あのう・・・。何で俺を買ったんですかね?」

真一がたどたどしいエルザス語でリサに尋ねた。

ええ~い。

そんなの私の方が聞きたいわ。

何故か買ってしまった。

これも縁だろう。

「姫ゆえの気紛れだ」

アトルピーは取り合えずそう説明しておいた。

「水着商人だそうだが、間違いないのか?」

リピームが念を押す。

「俺のいた会社は、2年前に倒産しています」

食えなくて困っていたので、エルザスからやってきた奴隷商人に自分を売り込んだのだ。

奴隷なら少なくとも食わせてもらえる。

「では自ら志願したのか?」

リピームが尋ねた。

この少女には、奴隷に志願する奴の気持ちが理解できないらしい。

「空腹の苦しさは、味わった奴でなきゃ分かりませんぜ」

お嬢様育ちのリサ一党に嫌味を言った。

貧乏伯爵だが、リサの生まれは一応公爵家の7女である。

食べ物に苦労した経験はまったくないのだ。

一応中間管理職の経験がある真一には、リサの育ちのよさがひと目で分かる。

「確かに私は食べ物に困った事は、一度もない」

リサは認めた。

だがここまで伸し上がるまで姉(6女)のフォートレスとどれほど苦労したと思ってるんだ。

「水着作る材料は何?私の村に帰ったら、早速私の水着を作ってもらうわよ」

女性用水着の試着に男を使う訳にいかないから、フォートレスがリサしか該当者はいない。

リピームはリサより背が低かった。

水着で領地の収入を上げるのだ。

観光客も来るようになるかもしれない。

「使える材料があるかどうか分からないですよ」

真一が答えた。

ファンタジー世界で材料が調達できるか分からない。

「試作品を作れないの?」

エルザスにも水着はある。

だが川と海に魔物がいるので水泳は流行らなかった。

だが材料のエルザス羊の毛があれば水着は作れるはずだ。

「水着職人だというからわざわざ大枚をはたいて買ったのだぞ」

アトルピーがつい本音をもらす。

哀れに思って奴隷を買う物好きがどこにいる。

「普通の服も作れます」

真一は慌てて弁明した。

普通の服なら、麻か木綿で作れる筈だ。

真一が着てるボロ服は木綿である。

「分かった。できるだけ安く私の領地で服を生産して。衣類業界で領地の収入アップを目指そう」

リサには現在村民150名の民衆を守る義務がある。

真一が水着商人として自活できるまで開放する訳に行かない。

投資した真一に逃げられたら大損だし。

「衣食住は保証する。私の屋敷に住むと良い」

リサの屋敷は農家の耕作放棄地にあったボロ小屋である。

食糧貯蔵庫は山賊の砦跡である廃墟だ。

「ボロ小屋だが、30人位は住める良い屋敷だぞ」

真一は思った。

30人住める屋敷がボロ小屋だとは、この姫は金持ちらしい。

それにこの300人の奴隷をどこに宿泊させる心算なんだ?

まあそれは俺の知った事じゃない。

「ふもとの街まで物資を売りに行かなければならないので不便だがな」

毛皮なら沢山ある。

ふもとの街まで運べれば、数百ディルスは儲かるのだが。

「真一君。君にはたっぷりと働いてもらうとする。努力すれば解放される日も来るだろう」

リサは恩賞で釣る事にした。

ケチな事を言ってこの男に逃げられたら大損だ。

「それと日本ではどうやって少ない人口から富を収奪するかこっそり教えてくれ」

リサ伯爵領は過疎化に悩んでいるのだろうか?

真一はそう思ったが直ぐにどうでもよくなった。

「分かりました」

「では宿泊している宿へ行く事にする、心配するな。私は騎士の資格もあるから宿代はタダだ」

騎士の宿泊はタダと言う有難い作法がエルザスにはあるのだ。

騎士の部下からも料金は取れない。

「それは有難い。久しぶりにたらふく食える」

「お~」

奴隷達の歓声の声が上がった。

リサ伯爵の名が、帝都ルギャンの金持ち貴族に知れ渡った瞬間であった。






たまには水着職人の異世界人がいてもいいでしょ?

誘拐となってますが、真一は志願奴隷です。

たまにそう言う奴隷がいます。


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