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始末完了

この作品は今より更に未熟な当時の執筆のため、見苦しい箇所や指摘箇所もいくつかあると思いますが、あえてそのまま手を加えずに載せています。ご了承下さい。

「はーい、準備出来たよー」

 料理の途中だったので、折角だからと買ってきた食材も合わせ、バーベキューにすることになった。

「うん、美味そうだ」

「皆が愛情込めて作ったからね、不味いはずがないよ」

「そうですよぉ♪ 今日は始末依頼完遂祝いなんですから!」

「どんどん食べて下さい」

 白は大食いではなく普通なので、食べながら焼いていた。

「では、ここで改めて俺から言わせてくれ」

 一端作業を中止して、三人がこっちを一斉に向くものだから、何故か気恥ずかしくなった。

「あー、ゴホン! 先ずは葉月、金、白、今回は本当にありがとう」

「いえいえ」

 葉月はいつものように微笑んだ。

「俺の弱い心から始まって、あんな大企業が絡んだ大きな事件に発展してしまったのに、素早く対応してたったの三日で全てを終わらせてくれたことに、感謝が尽きない。今度は始末依頼なんかじゃなく、喫茶店の客として。いや、友人としてまた来ようと思う。本当にありがとう」

 たった三人の拍手だったが、俺の中では最高の拍手だった。

「では、そろそろ私も最後の仕事をしましょうか」

 そう言うと、書類を数枚バッグから取り出した。さっきから持ってたのはそれか。

「これは今回の発端であるブツと呼ばれた機密書類です」

 渡されたそれには、豚肉十tだのワイン千本だのの納品書が書かれていた。

「これが・・・例の?」

「ええ。それは暗号化されています。もう一枚が解読したものです」

「・・・・・・これは!」

 二枚目を見ると、驚くことにそこには武器弾薬や兵器の密輸の納品が書かれていた。

「これが・・・本当のブツ?」

「はい。それがあなたの持ち物に混ざっていました。恐らく手違いで送られたのでしょう」

「しかし、よくこれが例のものだって分かったな」

「よーく見れば、おかしな点があるんですよ」

 なるほど、俺では分からないはずだ。

「でも、本当に俺のところに本物があった・・・。それも手違いで。なのになんであんなまどろっこしいことを?」

「恐らくは手違いということです。ですから、相手も本物が本当にあなたのところにあるのか確証はなかったわけですね。下手に動けば他の組織に勘繰られますし、もしあなたを消してしまったら、放っておいても問題のない裏切り者を今更消すと怪しまれる可能性が高い。そしたら全ての計画が水の泡だと思ったんでしょう。どうやら余程慎重な組織だったようです」

「そうだったのか・・・。前から思ってたけど、なんか間抜けな組織だな」

「ふふ、そうですね。では最後に、この依頼された『機密書類』を始末しますが、よろしいですか?」

「ああ、頼む」

 白がやってきて、ライターで火を点ける。

 武器弾薬、兵器の密輸の証拠書類が、一気に燃え上がり、消し炭となって空へと飛んでいった。

「始末、完了です」

 そして、葉月はいつもの笑顔で微笑んだ。


Epilogue.

「葉一さま」

「ん? なあに?」

 週に一度の喫茶店の休日、葉一は自宅のソファでくつろいでいた。

「本当に、これでよろしかったのですか?」

「どういうこと?」

「あの依頼人に本当のことを言わなくて、よろしかったのですか?」

「いいの。あの人の依頼は『ブツを始末してくれ』という依頼だったし。それがダメな場合に備えての追加依頼も受けてたけど、それについては情報の開示の要求も最後までなかったし」

「・・・また、お優しい癖、ですか」

「・・・・・・それ嫌いだからやめて」

 初めて、葉一から明らかに嫌悪がこもった言葉出た。

「全く、始末屋としての義務をお忘れですか?」

「知ってるよ。『依頼された始末以外をするべからず』でしょ」

「そうです。何十年も代々受け継がれてきたこの非情とも受け取れる教えの一つが表と裏の均衡を保つ秘訣。あなたは『追加依頼を正式に受けていない』。確かにそれでは情報の開示もしようがありません。ですが、『何を始末したのか』ということは開示しなければなりません。あなたは、依頼人を嘘で守った。本来相手にするべきでない組織まで手を回したのですから。裏の世界が動きますよ」

「分かってるよ。・・・でも、私は後悔していない」

「ええ、あなたは『人間として』、道徳としては正しいことなさいました。しかし―――」

「『始末屋としては失格だ』って言うんでしょ」

「はい」

 始末屋を受け継いでから日は浅いが、裏の世界では初心者です。というのは通用しない。

 力や知ある者が裏の世界を制する。そこには暗黙のルールこそあるものの、マナーなんてものはない。

 始末屋を開業せよと命じられた初代葉月は、命を扱う職に就いていた。だからこそ、あえて厳しい枷と掟を自らのみならず、葉月家に課した。始末するだけの心無いカラクリではなく、人間として、人として、代々続くであろうこの辛い裏家業で生きていくために。

 当時の命令は国からのもので、葉月も一介の市民に過ぎず、逆らえるものではなかったが、現在はいつでも辞められる。なのに葉月がわざわざ受け継いだのは、なにより父親のためでもあった。

 どこにいるとも知れない父親を探すには、同じ裏である始末屋を受け継ぐのが一番だと思ったからだ。行方不明ではあるが、死の報せはない。つまり、希望がある。

 それまでは、どんなに苦しくても、辛くても、始末屋を続ける。そう、決意した。

「このままでは、お父さまに合わせる顔がありませんよ」

「大丈夫だよ。今は国も関係ない。私は私のやり方で始末屋をやり遂げる」

「・・・はぁ。分かりました。最後まで、見届けましょう」

 頑固な主に、白は折れた。

「分かったら、お茶の準備して。金も呼んで、三人でまったりしよう」

「かしこまりました。葉一さま」

 白はお茶の準備をして、金を呼びに行った。

 丁度その時、電話が鳴った。

「誰だろう」

 プルルルル

「はい、葉月です」

「葉一? 私よ」

「ああ、ミーナさん。今回はありがとうございます」

「いいのよ、葉一のためならこれぐらい朝飯前よ」

「それで、例の組織はどうなりました?」

「あの『機密書類』をちらつかせたら、一発で黙ったわ」

 可笑しくて仕方ないのか、電話の向こうでミーナと呼ばれた女が笑いをこらえていた。

「そうですか、圧力は上手くかかったんですね」

「ええ。もうあいつらの企みは水の泡になったわ。連中は保身が一番だからね、ある意味喜んで圧力を受けたわ。逮捕はされないから、ご要望通りニュースには出ないわよ」

「ありがとうございます。それでは、お礼はまたいつか」

「うん、今度そっちに行った時によろしく♪」

 電話を切ると、同時に白と金がやってきた。

「お茶の時間と聞いて飛んできました♪」

「うん、じゃあお茶にしようか」



 世界は、良くも悪くも、表と裏で回っている。

 そして今日もまた、いつもの日常と、非日常的な現実が繰り返される。

ご意見、ご感想などありましたら、よろしくお願いします。

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