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始末屋という闇

この作品は今より更に未熟な当時の執筆のため、見苦しい箇所や指摘箇所もいくつかあると思いますが、あえてそのまま手を加えずに載せています。ご了承下さい。

 朝、目が覚めると三人の姿が見えなかった。

「食材とかを調達に行ってくるから、明日はゆっくりしてて、うちにあるものを適当に食べててもいいけど、外には絶対行かないこと。それさえ守ってくれれば、後は心配ないよ」

 昨夜はそう言ってたのを覚えている。

「うーん、ゆっくりなあ」

 殺し屋と謎の組織に狙われている・・・なんて実感がわかなくなった。

 ここにいるからというのもあるが、やはり葉月が上手くやってくれているからだろう。

 そういえばあの書類はどうなったんだろうか。まあ、解読しなければ本当に始末するべきものかも分からないだろうし、時間はかかるんだろう。それにしても組織が動かないのは何故だ? それともここが特定できないだけか・・・。

「ここは安全ですから」

 白は確かにそう言っていた。それはやはり、全ての状況から判断した上での断言なのだろう。でなければとっくに見つかっているはずだ。

 というか、目を覚ましたのが朝の八時。ゆっくりしてて、という言葉や、適当に食べてて、という言葉から判断するに、今日は夕方まで戻らないということなのだろうか。

 ということは、それまで俺だけで過ごせということか。なんてこった、まだこの原稿かなりページが余ってるというのに・・・。

 とりあえず居間に行くことにした。下にはソファもあったしテレビもあった。一日過ごすには十分だろう。

 テレビをつけると、丁度ニュースをやっていた。

「ではここで臨時ニュースです。大手企業のA社が、本日倒産しました。詳しいことは情報が入り次第お伝え致します」

 ニュースはそのまま国会議員の汚職について報じていた。

 ・・・・・・・・・・・。

 理解が出来ずに、頭が真っ白になった。

 これまで色々と経験したが、今度は一番ぶっ飛んでいた。

 倒産した? あの、あの大不況にも屈しなかったA社が・・・?

 あまり良いとは言えない脳をフル回転させて様々なシミュレーションを行ったが、どう考えても倒産するような事態になり得ない。というか、あの大企業が倒産したとなったら従業員は一気に失業、雇用問題にも発展するぞ。

 プルルルル

 その時、電話が鳴った。

「電話・・・どうすればいいんだ?」

 自宅のようなベルではないせいか、あれほど怖かった電話が全然怖く感じなかった。A社が倒産したことによる安心感もあるのだろうか。もうこれで狙われずに済む。

 プルルルル

 何故かは分からないが、電話を取ったほうがいいと直感した。

「はい、もしもし」

「私です、葉月です」

 最早聞き慣れた声に安心した。

「葉月か、どうした?」

「電話に出てくれて良かった。今ニュース見てましたか?」

「ああ、A社が倒産したっていう・・・」

「その電話は盗聴されてないはずですが、手短に言います。A社は倒産しましたが、まだそこにいてください」

「状況はどうなってるんだ?」

「すみませんが、まだ詳しいことは・・・。ただ、そこは絶対に安全です。信じて待っていて下さい」

 もう、俺には迷いはない。ただ、葉月を信じることにした。

「分かった。だが、俺からも頼みがある」

「なんでしょうか?」

「絶対に、生きて戻ってきてくれ」

 電話の向こうから、ふふふ、と笑い声が聞こえた。

「分かりました。大丈夫ですよ、だって、食材の買出しですから」

 それでは。と、電話は切れた。

 もし、金や白からの電話なら、素直に分かったと言えただろうか。ふと、そんな疑問が浮かんだ。

 しかし、始末屋という裏業者に依頼して、世話になっているというのに・・・なんというか、ハードボイルドみたいな緊張感の欠片もない。まあ、そもそもそんなもの最初からないが。

 ただ、今は葉月たちの帰りが待ち遠しかった。


 午後三時ぐらいに、葉月たちは帰ってきた。

「意外と早かったな」

「そうですか?」

「てっきり夕方になると思って、今夕食の準備をしていたところだ」

「え? 私たちの分もですか?」

「ああ。あ! 逆に迷惑だったか?」

 三人は一瞬、呆気に取られていたが、笑顔になった。

「いえ、全然。むしろありがとうございます」

 葉月が頭を下げて礼を言ってるのを見て、思わず止めようと思ったが、金と白も同様にするので、頭をかきながら「別にいいって、これくらい」と気恥ずかしく言った。

「それで、なにを作ってらしたんですか?」

 真っ先に訊いてきたのは金だった。

「ああ、鶏肉とかあったから鍋物にしようと思ったが、大食いが二人もいるからな。ありったけの食材を使って出来る限り多く、豪華な料理にしてみようと思う」

「二人、ですか?」

「ああ、俺もけっこういけるみたいだ。金の料理が美味くてな」

「じゃあ、午後のお茶にして、それからお料理の続きにしましょうか」

 葉月の提案に、全員一致で賛成した。


「え、じゃああの殺し屋ってもういないのか?」

「はい。白が懲らしめましたから」

 あの時、狙撃の一回目が失敗し、しばらくボーッと放心状態にあったのに助かったのも、遅れて白と合流したのも、白が殺し屋を倒してくれてたおかげだったのか。

「ということは、もしかして・・・始末したのか? 殺し屋を」

「いえ。白は始末してないはずです」

「なんで?」

「よく誤解されますが、始末屋というのはなんでも始末するわけではありません」

 誤解されることによる不満に聞こえるが、葉月の言葉はとても優しかった。

「私たちが始末するのは原則依頼者から指定された対象だけです。それ以外は余程の事情がない限り、殺生も始末も厳禁なんです」

「それじゃあ、見られたらどうするんだ?」

「色々と方法はありますが、よくやるのは記憶を飛ばしたり、姿を見られる前に眠らせるとかですね」

「へえ、意外と地味なんだな。じゃあ一番良いのは誰にも見られない。っていうことか?」

「そうですね、誰にも見られず知られず、対象を始末することが出来れば、それが一番です」

「ふーん。そうか。いくら裏の人間といっても、誰もが派手にハードボイルドにやってるわけじゃないんだな」

「ふふ、それは漫画の読みすぎですよ」

「やっぱりそう思うか?」

 こんな話をしていながらも流れるように料理の作業は続く。これはやはり慣れか。

「でも、極論を言ってしまえば、私たちがいない世界が一番なんですよ」

「葉月がいない世界!?」

「ふふ、勘違いしてません? 私たちっていうのは始末屋のことです」

「ああ、なんだ始末屋か。びっくりした」

「本当に面白い人ですね」

 笑われて悪い気がしないのは葉月が初めてだった。

「私たちは例え対象がなんであろうと、始末するのが仕事です。それは『存在してはならない』から、もしくは『消えてほしい、消したいから』です。存在してはならないというのは、たいていが機密情報などですね。こういった依頼はいいんですが、特に消えてほしい、消したいというのは、そんな情報なんかじゃないんです」

 何を言いたいのかは痛いほど分かった。だが、ここで「そんな仕事やめろよ! もっと普通の女の子として生きろ!」なんて言うことはできない。それは、彼女を傷つけるだけではなく、彼女を否定してしまうからだ。

 葉月はこの仕事を無理矢理やらされてるのではない。と以前白から聞かされたことがある。「葉一さまにはご内密に」と言われているので言わないが、どうやら自らこの仕事を受け継いだらしい。詳しい事情は聞かなかったが、なんらかの決意があるようだ。きっと俺には理解できない何かが、そこにあるような気がする。

 白には、踏み切った質問もしたことがある。さすがに葉月には訊けない質問。

「葉月は、人を・・・始末したことがあるのか?」

「それを聞いて、どうするおつもりですか?」

「どうするって、別にどうもしないが」

「興味本位の浅はかな質問であれば、控えていただきたい。葉一さまや、この始末屋という仕事の闇は、あなたが思っている以上に深い。もしもそこまで足を踏み入れたいと本気で思うならば、葉一さまと一生共に生きていく。それぐらいの覚悟で訊いて下さい」

 その覚悟は、当然なかった。

 ただでさえ脅迫電話にすら怯えていた男だ、俺は。

 そんな俺が、葉月を理解し、この闇に身を投じて共に生きるほどの決意が出来るわけがない。

 今回の俺の依頼だって、俺が見てないところでかなりの苦労があったはずだ。

 最初の依頼はブツの始末だけだったのに、いつの間にかあれほどの会社相手に、更には別の組織だって出てきたらしい。その二つの組織を相手に事態を収拾してしまったのだ。

 まだ何も言われてないが、俺にも理解できた。

 葉月は、A社を始末したのだ。

「ところで葉月、一つ訊いていいか?」

「ん? なに?」

「お前の部屋のドア、なんであんなに重いんだ?」

「ああ、あれね。防弾仕様の特注ドアなんだよ」

「通りで重いわけだ・・・」

「そりゃあ、そのまま開ければ重いよねえ」

「そのままって・・・どういう意味だ?」

「あのドアは、普段開ける時は補助装置を使うんだよ」

「補助装置?」

「あのドアの取っ手にボタンがあって、普段はそれを押しながら開けるんだよ。普通に開けたんじゃ重過ぎるからね」

「ちょっと待て、俺はそんな説明一つも受けてないぞ」

「そりゃそうだよ。金が説明しようとする前にがんばるから、金も黙って応援してたんだって」

 なるほど、それであの時金は笑ったんだな。

「強引に開けて、悪いことしたな。無理矢理やったが・・・壊れてないか?」

「それぐらいで壊れるようなものじゃないから、大丈夫だよ」

「しっかし、そこらじゅう防弾仕様なんだな・・・」

「なにかあったら大変だからね」

「あの車、どのぐらいかかってるんだ?」

「お金?」

「ああ」

「うーん・・・」

 詳しく分からないなあ。と言いながら考え、ふと思い出したように答えた。

「全部含めれば、多分五千万ぐらいかな」

 始末屋って、儲かるのか・・・。

ご意見、ご感想などありましたら、よろしくお願いします。

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