家族
この作品は今より更に未熟な当時の執筆のため、見苦しい箇所や指摘箇所もいくつかあると思いますが、あえてそのまま手を加えずに載せています。ご了承下さい。
今日からはこの葉月宅にお世話になることになった。
俺は帰ると言ったが、今の状況で帰るのは自殺行為だと葉月に言われ、渋々残った。
どうやら俺はとことん葉月に弱いらしい。
「手伝いはしなくていいのか?」
世話になるなら、いっそ喫茶の手伝いをと思ったが、今日の分の仕込みやら薪の準備は終わったので、手伝わなくていい。というより、手伝うことがないらしい。
「じゃあ注文取るとか」
「あなたは今狙われてる身なの。そんな人がいる時はお客さんでも信用せず常に注意を払ってないといけない。私にそんな苦労までさせるつもり?」
それもそうだと、やはり納得して大人しく部屋にいることにした。
ここは喫茶店と自宅が同じだが、分離されていて、一軒家に店をくっつけた形になっている。自宅の二階が使われていないというので、二階を使わせてもらうことになった。
なにもすることがないので、本でも読んでるか。
しかし、読もうとすると、すごく読みづらい。
「目が悪くなったか?」
しかし周りをよく見てみれば、外は夕陽が落ちる頃だった。
「もうこんな時間か」
色々あったせいか、時が過ぎるのがとても早い気がする。
「脅迫電話がきて、旧友と再会して、裏業者に依頼して、殺されかけて・・・。もう一生分の苦労をした感じだ」
だが、まだ終わってない。これからが本番といってもいい。
それにしても、俺が手伝えることはないのか? あるわけないか・・・。むしろ仕事の邪魔になりそうだしな。葉月なら上手くやってくれるだろう。
いつの間にか、葉月葉一を信頼している自分に、今更気づいた。
「そういや、腹減ったな」
もう夕飯時だった。確か居間に用意されていると言ってたな。
下に下りると、確かに居間に夕食が用意されていた。
「私たちの分はまた別に作る予定なので、用意してあるのは全部食べていいですよ」
金はそう言ってたが、全部食べるのは悪いしなあ・・・なんて思ってたら冗談じゃない。
「なんだ、この量は」
この家には大食いがいるのか?
どうみても一人で食べる量じゃない。一皿が三人前ほどある。それがざっと七皿だ。それが載るテーブルもすごいが・・・。
「こんなの、一人で食べきれる量じゃないだろ」
文句なのか感心してるのか、自分でもよく分からないまま椅子に座る。
「・・・いただきます」
とりあえず全ての料理を食べてみたが、全てプロ並みに美味かった。
「く、食いすぎた・・・」
あまりに美味いので、残すのはもったいないと食べていったら、さすがに無理があったらしい。
「だが、全部食えるとは思わなかったな」
「本当だ、全部食べれたんだ」
「しかし、ここにはこんな量を平気で食える奴がいるのか?」
「うん。金がけっこうな大食いでね。いつも多めに作ってるの」
「そうか、あの金髪美人意外と大食いなのか」
「金は美人なんだ、じゃあ私は?」
「葉月は可愛いな。つい見惚れてしまう」
「へー、嬉しいな」
あれ?
「は、は、は、は!」
「は? 歯?」
「葉月!? いつの間に!?」
「ついさっきから」
「店はどうした!?」
「十一時までの営業だから、まだやってるよ」
「そうじゃなくて、もしかして金と白だけでやってるのか!?」
「うん。正直あの二人で十分なんだよ。私は気ままに店に出る感じ」
「よくそんないい加減で店主が務まるな」
「今はあの二人がいるからねえ。昔は一日中お店にいたよ」
「あの二人はアルバイトかなにかか?」
「違うよ、立派な身内」
「親戚か?」
「うーん、まあ、似たようなものだね」
「複雑なんだな」
「そうだよ。家族なんてそんなものでしょ」
家族・・・か。
「両親はどうしたんだ?」
「深入りするねえ。両親は死んじゃった。って言ったらどうするの?」
「うっ・・・それはその、悪い」
「ははは、面白い人だね。母さんは知らないんだよ。父さんはちょっと生死不明だね」
「そうか・・・。大変、だな」
「ありがとう、もう慣れたけどね」
確かに、普段の葉月からはそんな悲しみの影というようなものは見えない。だが、まだ高校生ぐらいの歳だ、寂しくないことはないだろう。
「それに、今は金と白がいる」
「そう、だな」
そうだ、この歳で両親がいないことの悲しみや寂しさは拭いきれなくても、支えてくれる人がいるのは、幸せなことなのだろう。
「あ、もうこんな時間か、ちょっとお店に行ってくるね」
「ああ、分かった」
時計を見ると、もう夜9時近かった。
「あと三時間で閉店か・・・」
とりあえずすることもないので、食器を洗うため勝手にキッチンを借りることにした。
「おお、ここはイメージ通りなんだな」
キッチンはしっかり整理されていて、とてもすっきりしていた。食器洗い乾燥機まで完備されていた。
「食洗機か、いかにも葉月らしいな」
葉月がいたら、なにが? と言われそうだが、面倒な感じが出てるとはさすがに言えない。何十年も付き合いがあるわけじゃない、つい昨日知り合ったばかりでそれは失礼だ。
「いや、それを言ったら失礼な数々が思い浮かぶな」
思えば、あの夜に話した時は歳相応ではなく、なんかこう思わず畏怖したが、それからはそんなこともなくほぼ対等に話している。
「最初は雲の上のような奴だったからなあ。本物の裏の業者だし」
だが、今ではただの少女として接している。不思議なものだ。仕事の話をする時は別人だが。
やはり苦労が絶えないのだろう。ただでさえ裏の世界は厳しい。下っ端の俺ですらそう感じたのだ、本来なら少女が踏み込む世界ではない。
「よし、完了」
一人暮らしが長いせいか、こういった家事仕事は手馴れている。考え事をしたり独り言を言っているとあっという間だ。
あれ? 今更気付いたが、そういえば俺も下っ端とはいえ裏の業者だったんだよな・・・?
「へえ、家事お上手なんですか?」
「まあな。一人暮らしが長いと自然に身につく」
「助かります、ありがとうござます」
「いえいえ」
独り言のつもりだったから、気付いた時にはため息をついた。
「いつからそこに?」
「ついさっきです♪」
気がつけばもう夜も十一時になる。
自分の皿を洗ってただけの気がするが・・・。いつの間にか居間で考え事をしていたらしい。
「戻ってきたらお皿が全部キレイになってましたから、びっくりしました」
「勝手にキッチン使って、悪かった」
「いえいえ、問題ありません。葉一さまから聞きましたよ? 全部食べて下さったんですね!」
「ああ、残したら悪いなあと思ったら、予想以上に美味かったもので。少し食いすぎた」
「ありがとうございます」
この子も、笑顔を絶やさないよな。
よく見れば、日本人離れした美しさと言えるが、年齢は葉月とあまり変わらないだろう。そのぐらい若々しく見えた。
「本当に―――!」
何を言おうとしたんだ俺は!
本当に、葉月の親戚、身内なのか?
それを聞いてどうする。本当に身内なら更に失礼なだけだ。
「? どうしました?」
「・・・・・・」
俺は、俺の現実で闘わなければいけないんだ。葉月に構ってる余裕は、ない。
「あの酢豚、味付けが独特だったが、香辛料が違うのか?」
「そうなんですよぉ!」
料理好きなのか、料理の話に目が輝いた。
「あの酢豚にはちょっと工夫してありましてね―――って、あなたもお料理好きなんですか?」
「ああ、食うのも作るのもな」
「依頼人さまと料理の話が出来るとは思いませんでしたぁ♪ では続きいいですか?」
「ああ、お願いするよ」
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