期限一週間の依頼
この作品は今より更に未熟な当時の執筆のため、見苦しい箇所や指摘箇所もいくつかあると思いますが、あえてそのまま手を加えずに載せています。ご了承下さい。
「分かりました・・・。私は以前、Aという会社に勤めていました」
「あの大手企業の?」
「そうです。しかし、嫌気が差してやめたんですよ・・・」
少し、多分ほんの少しの・・・一分にも満たないような時間だったのだろう。
それがなぜか、とても長く感じた。
「そのA社は、裏でなにをやっていたんですか?」
この子と話していると、寿命がいくつあっても足りない気がした。
「なぜ・・・裏があると」
「さすがにそれはおかしいからですよ。あなたが勤めていたA社に対し嫌気がさして辞めた。というところまでは普通ですが、その後の脅迫電話がA社だとしたら、そんなことぐらいで脅迫する会社がおかしいことになる。しかし、その脅迫電話がA社を辞めた後に来て、あなたが不安がる理由は一つ。裏切り者としての始末」
やはり見抜かれていた。
そう、一番の理由はそれだ。
もしかして麻薬を持ってきてしまったのでは・・・などを考え、家をひっくり返す勢いで探したが、何も見つからなかった。
考えられる理由はやはり一つ。勝手に抜けたことでの裏切り者としての始末。
表の世界ではそんなことはないが、裏の世界では抜けた者の情報が漏れることほど面倒なこともない。だから裏切り者は即刻始末するしかないのだ。もし戻りたいなどと言っても。余程のことがない限り叶わぬ夢のようなもの。結局は始末されてしまう。
「さすがですね。そうです。A社は裏で麻薬の密輸をやってるんですよ」
「麻薬ですか」
「そして、その裏事業に俺も使われました。名目は小麦粉の輸入。可笑しいでしょう? そんな名目で輸入して、バレてないんですから。恐らくは警察関係者に圧力をかけられるほどの人物が幹部か上層部にいるんでしょう」
「なるほど、これであなたが殺されそうになっている理由が分かりました」
葉月は一旦区切り、今までにない始末屋としての目で、こちらを見据えた。
「お話をお聞きしたところ、始末するべき相手があまりに大雑把すぎて絞れません。どうしますか?」
「どうする・・・というと」
「確定する要素がこれ以上出ないと、こちらとしても始末するべき対象が決められません。しかし、あなたがどうしてもこれを始末して欲しい。というのであれば、こちらで始末致します。
もちろん、我々の始末というのはただ消すものではありません。依頼人や我々が関与した事実や、その対象が存在していた事実をも消し去り、全てがリセットされるわけです」
「じゃあ、全て終わるわけか?」
少しずつ、希望が見えてきた―――が。
「いえ、それで全てが終わるとは限りません」
「どういう・・・ことだ?」
「臭いの元を始末すれば、もう心配はありません。しかし、その臭いの元がはっきりしないまま、これを始末しろ。というのは、臭いものに蓋をするだけになるかも知れません。そうなると、もしもその蓋が壊れたり外れれば・・・」
「意味がなくなる・・・ということか」
「はい。その通りです。もしあなたがこれを始末してくれと依頼し、我々がそれを始末しても、それが今回の事件の本当の原因でない場合には、また繰り返される可能性があります。それでもよろしければ、あなたが指定する対象を始末致します」
このままでは、結局一週間後には確実に殺されてしまう・・・。それなら、例え一時的に蓋をするだけの処置になったとしても・・・。
「その間に本当の原因を究明する。ということはできないか?」
「結論から言えば可能です。とりあえずの原因を取り除き、その後で正確に原因を突き止めるのであれば、それはまた別の依頼ということになります」
「別料金ってわけか・・・」
「それか―――」
葉月の目が妖しくきらめいた。
「殺される予定の一週間の間に原因を突き止める。という方法もありますよ」
結論から言えば、まず蓋をする。というプランにした。
その対象は、向こうからしつこく言われているブツだ。
彼女の評判などはもちろん聞いたことがないし、いくら可愛くて実力がありそうでも、一週間以内に原因を突き止めるという賭けに似たことはリスクがでかすぎると判断した。
可愛いは余計か・・・。まあ、本当のことだが。
「さーて、どうしたものかな」
あの後は喫茶店にいた男―――白というらしい―――に送ってもらった。
そして、ついでだからということで、帰りにうちの書類やらビデオやら何もかもを片っ端から持っていってしまった。なので、今あるのは冷蔵庫とテレビと電話と布団だけだ。
ちなみに電話はすでに盗聴器の有無を調べた上で、葉月家に会話内容を転送するための専用盗聴器のようなものを取り付けていった。便利な世の中だ。
こんな風に気楽にゴロゴロしてるのは久しぶりだなあ。
しかし、こんなに悠長にはしていられない。いつ電話が来るとも知れないのだ。
「もし電話が来た時には、できるだけ話を延ばして下さい」
と例の白という男に言われてるのだ。
逆探知でもするのかしら? と思ったが、そんな機器のようなものは見当たらない。
ジリリリィィィーーーン!
いきなりの呼び出し音にびっくりしてまたもやカエルのように飛び跳ねてしまい、ドシン! と床に落ちてしまった。
落ち着け! 出来るだけ話を延ばし、冷静に話すんだ。
呼吸と心臓を落ち着け受話器を取る。
「はい、もしもし」
「おぅ、俺だ・・・へへ、ちゃんと生きてるみたいだな」
生きてるみたいだな・・・って、あの後自殺したとでも思ったのか。
「今日は、なんの用ですか?」
「お? 今日はいやに落ち着いてるじゃねえか、まさか警察がいるんで安心してるんじゃねえだろうな?」
「警察なんかいませんよ」
なんか誘拐犯との会話のようになっているような・・・。まあ警察は本当にいないから、嘘は一切ついてない。
「ふん、まあいい。で? ブツを返す気になったか?」
「今探してるとこだ」
「ほぉ? じゃあやっとブツがあると認めたわけだな」
「認めてはいない。怪しいのがないかどうか確認してるだけだ」
「ふん、本当に落ち着いてやがるな。吹っ切れたか? 開き直ったか?」
「両方かな」
「ははは! そうかそうか、じゃあせいぜいがんばれや」
電話は切れた・・・。
俺が妙に落ち着いていたせいか、以前のような高圧的な態度はあまりなかった。いや、単に機嫌が良かっただけか・・・?
とにかく、出来る限り会話を長引かせたつもりだが・・・葉月のほうはどうだったか・・・。
まあ、今俺が考えてもしょうがないことか。
とりあえず買い物にでも出掛けよう。
よっこらせっと立ち上がった瞬間、パァン! という乾いた音と同時に頬に痛みが走り、フローリングが一部吹き飛んだ。
「なんだ!?」
一瞬頭が真っ白になった。
何が起きた? 爆竹のような・・・いや、違うけどそんな感じの音が聞こえたと思ったら頬に痛みが。
手で頬を拭ってみると、そこには赤い血が付いていた。
「うわぁ!」
撃たれたんだ! 俺は今狙撃されたんだ!
その事実に気づくまで大分かかった。その間に撃たれなかったのは奇跡と言えるのではないか。しかし、一週間だと言わなかったか? それなのになんで殺されそうになってるんだ?
とにかく外へ出て、携帯電話で葉月の直通に電話した。
プルルルルルル・・・。
早く、早く出ろ!
プルルルルルル・・・。
くそっ! 早く! 早く!
気ばかりが焦る。どこを走っているのか分からない。どこに向かっているのかも分からない。 だが、今は走るしかない!
すると、目の前に一台の車が止まる。
「あ、ああ、あ、危ないじゃないか!!」
思わず叫ぶが、よく見るとその車・・・。
「早く乗って!」
例の白だった。
慌てて飛び乗ると、車はすぐに発進した。
「たた、た、助かった! ありがとう!」
「お礼は生きて帰れたらにして下さいね」
「え?」
理由は一瞬で理解できた。後ろから銃撃されたのだ。いや、そうだろうと思った。車で銃撃を受けたことなんかないから分かるわけがない。しかし、タタタタと音が断続的に聞こえるのは、やはり銃なのだろう。
「うわあああ!! 殺される! 死ぬぅぅぅ!!」
「死にたくないなら、口を閉じてシートベルトをして下さい。舌を噛みますよ!」
「へ?」
言うが早いか、いきなりドリフトで交差点を曲がった。
「うわあああ!!」
車は大丈夫だが、五十㎞/時ほどでカーブするので、Gがけっこうかかる。
その後も五十㎞/時以上のスピードで曲がるので、次第に車も横転するのではないかと心配になってくるが、そんなこともなく。この白はきっとスーパードライバーに違いない、と確信した。
上手くまけたのか、追跡車はもうなかった。
「着きましたよ」
車が止まると、そこは<喫茶葉月>だった。
ご意見、ご感想などありましたら、よろしくお願いします。