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葉月葉一

この作品は今より更に未熟な当時の執筆のため、見苦しい箇所や指摘箇所もいくつかあると思いますが、あえてそのまま手を加えずに載せています。ご了承下さい。

「全く、電話が鳴っただけであんなにびっくりするんだからこっちが驚いた」

「悪かったな」

 先ほどの電話はただの勧誘電話だったが、思わずイラッときて「ふざけるな!」と叫んで切ったのだった。

「それより、もうすぐだぜ」

「あ? ああ、例の喫茶店か」

 車で揺られること二十分。山道に入っていた。

「本当にここなのか? 山道だけど」

「ああ。なんか知らないけど、舗装はしないんだってよ」

「へえ」

 少し前から山道に入ったのだが、揺れが大きく、車で行く道じゃないな。と思った。

 五分ほど耐えると、ログハウスのような建物が見えてきた。

「あれか?」

「そう! あれが<喫茶葉月>だよ!」

 舗装はされていないが、駐車場は5台分確保されていた。

「えーと・・・。お、オープンになってるぜ、入ろう」

 車を駐車場に止めると、店内に入る。

 カラーンとベルが鳴ると、明るい笑顔のウェイトレスとバーテンダー(?)が迎えてくれた。

「いらっしゃいませ、二名さまですか?」

「はい」

「お好きな席にどうぞ」

 テーブル席に着き、とりあえずメニューを見ると、意外と普通のメニューだった。

「おい、意外と普通のメニューだな。とか思ってないか?」

「え? なんで分かった?」

「お前は顔に出るんだよ」

 鏡がないから確認のしようがないが、恐らく見ても分からないだろう。

 てっきりメニューとかに始末依頼の記入欄とかがあるのかと思ったが、漫画とかの読みすぎだろうか。

「なに頼む?」

「コーヒー」

「ここまで来てコーヒーかよ」

「お前はなに頼むんだ」

「俺はこのオススメ紅茶だね」

 オススメを頼みたいだけじゃないのか?

「すみませーん」

「はーい」

 噂の金髪美人が来た。なるほど、日本人離れした美人という感じだ。

「お決まりですか?」

「えーと、コーヒー一つとオススメ紅茶一つお願いします」

「はい、分かりました。コーヒーとオススメ紅茶ですね」

 注文を受けると、ウェイトレスはカウンターにいる男に注文を伝えた。

「コーヒーとオススメ紅茶お願いしまーす」

 樋口は注文がくるまでに行っておきたいと、トイレへ行った。

 待っている間は特にすることもないので、メニューを眺めていたら、何故かウェイトレスがこちらに近寄ってきた。

 気があるのか・・・? んなわけないか。

「あのぉ」

「はい、なんでしょうか?」

「本業の、依頼ですね?」

 一瞬、心臓が止まるかと思った。

 しかし、本業だからといって始末の話とは限らない。

「えーと、なんの話でしょうか?」

「顔を見て分かりましたよ」

 小悪魔のように、そのウェイトレスは微笑んだ。

「始末屋の依頼ですね」


 コーヒーとオススメ紅茶を飲んだあと、俺は歩いて帰る。と伝えて、樋口とは喫茶店で別れた。

 ウェイトレスに「残って下さればお話聞きますよ」と言われ、未だに半信半疑だが、確かめる他はなかった。なんせ忘れかけていたが、今俺は殺されるかも知れない状況にいるのだ。

 喫茶店に戻ると、ウェイトレスが奥へ案内してくれた。

「喫茶店はまだ営業時間なので、主人の仕事部屋になります」

 主人? 男なのか? まあ、始末屋っていうから、訓練された屈強な男ってイメージもあるが・・・。

「こちらです」

 事前に話を通してあるらしい。「どうぞ」とすんなり通された。―――ん? 今の声・・・。

「失礼します」

 ガチャッ

 なんだこのドア・・・すごく重い・・・!

 それでもドア如きにてこずるなんてかっこ悪すぎる・・・。

 うおおぉぉぉ!!

 心の中で思いっきり叫びながらドアを開けた。

「ふふ」

 ウェイトレスが笑ったのが気になったが、今はそんなことを考えてる場合じゃない。

「あなたが、依頼者ですか?」

 やっぱりだ。イメージとは全く違う。まあ、イメージなんて所詮そんなもんだ。

 背もたれの大きな椅子に座り、窓に向いているから、どんな人かは分からないが、声から明らかに女だと分かった。

「正確に言えば、相談したい・・・です。まだ、正式な依頼じゃないんです。すみません」

「別に謝る必要はありませんよ、相談したい・・・ということは、少なくとも始末したい対象がいる。ということですよね」

「まあ、はい・・・そうですね」

「とりあえず、事情をお話ください」

 椅子が回転する。

 ゆっくりと姿が見える。艶やかな黒のショートヘア、目は大きく、端整な顔立ちをしている可愛い女の子といった感じだ。まだ高校生のような印象も受ける。しかし、なによりも特徴がある―――オッドアイ。

「私が、始末屋葉月家が現当主、葉月葉一です」

 こんな子が・・・始末屋?

「こんな小娘で、驚きました?」

「あ、いえ! そんな」

「いいんですよ、年齢もまだ大人ではありませんし、実際小娘ですから」

 微笑む姿は、営業スマイルこそあれ、冷ややかな皮肉もなく、暖かい笑顔だった。

「では、そこにお座り下さい」

 目の前に用意されていた椅子に座る。なんとも高価な椅子・・・と思いきや、意外と普通の椅子だった。そういえば彼女が座っている椅子も、社長椅子とかではなく、少し背もたれの大きい普通の椅子だった。

「まず、ご相談というのは?」

「あ、はい。それが―――」

 一瞬、目を奪われた。

 先ほども見たが、彼女は左右の瞳の色が違うオッドアイだ。

 彼女の場合、瞳の右が銀で、左が黒だった。

 それがなんともキレイで、つい見とれてしまった。

「どうしました? ・・・ああ、この目ですか」

「あ、すみません、そんなつもりは」

「大丈夫ですよ。初めてお会いする人たちは、最初不気味に思うそうですが、私は慣れてるせいもあってか、気に入っているんです」

「いえ、あの、不気味とかではなく・・・なんというか、あまりにキレイな瞳だったので見とれてました」

 世辞でもなんでもない。しかし、こんなに率直にキザな感想を言えるとは・・・この葉月とかいう女の子の前では、それが普通だと思えてしまう。

 こりゃあ、隠し事なんか出来そうにないな。

「ふふ、ありがとうございます。そう言われると嬉しいです」

 本当にこの子が始末屋なのか・・・。こんなに笑顔の似合う可愛い女の子が・・・。恐らくだが、年齢で言えば、まだ高校生ぐらいのはずだ。

「眠そうですね」

「え?」

 唐突な俺の質問に、一瞬唖然とする。

「あ、いえ。その、眠そうな半目状態なので、眠いのかと」

「ああ、これは昔からですねー。わざとこうしてるんですよ」

「わざと?」

「はい。まあ、理由は企業秘密ということで」

 そんなのが企業秘密なのか? と少し疑ったが、考えないことにした。

 今は、そんなことを考えてる余裕はない。

 改めて深呼吸をして、落ち着くと、本題を切り出した。

「実は、俺、殺されるかも知れないんです」

「殺される。とは、どういう理由で?」

「分からないんです。最近なんの前触れもなく脅迫電話が毎日のようにかかってきて、『ブツを返せ』と。俺にはなにがなんだかさっぱりで・・・」

「心当たりはないんですか?」

「はい。今日も電話がありまして、麻薬か? 金か? と言ったら『馬鹿にしてんのか!!』と怒鳴られまして」

「なるほど・・・。その男を始末するか迷っていると?」

「いえ、その男は多分組織の下っ端ですし、そんな奴を始末したところで終わらないのは分かってます。しかし、あと一週間以内にブツを渡さないと殺し屋を送る・・・と」

「なるほど・・・確かに始末依頼ではありませんね。しかし、あなたは以前どこかの組織に所属していた。そして最近そこを抜けた。だからあなたはその組織に殺されるのではないか。ブツなんて言っておきながら実はそんなものはなくて、ただ殺すための理由付けで嘘であると、そう思っているんですね?」

 心臓が止まったり飛び跳ねたりと今日は心臓が大変忙しかったが、今日一番の心臓に悪いものだった。

 今すぐはち切れて死んでしまうのではないかと思うほどに心臓の鼓動が強く、速い。手を触れなくても楽に脈が計れてしまいそうだ。

「ななな、なあ、ああ、なぜ、分かったのですか?」

 あまりの動揺に、平静を装うなんてとてもじゃないが無理な相談だった。

「あなたの言葉と状態、状況から推測しただけですよ」

 そう言ってニコッと微笑んだ。

 その笑顔は反則だ・・・!

「ええ、その通りです」

「できれば、もっと詳しく・・・組織のことなども聞きたいんですが」

 はあ、この子には負けるな・・・。

 本人は気づいてない・・・というか、自然なことなのだろうが、仕草一つとっても可愛いし、なにより安心する。そういう雰囲気がある。多分依頼人が女でも、この子相手には素直になってしまうだろう。

ご意見、ご感想などありましたら、よろしくお願いします。

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