お前が言うな(四百文字お題小説)
お借りしたお題は「ステレオタイプ」です。
神田律子はプロの作家を目指して、今日もある出版社に原稿の持ち込みをしていた。
「お話は面白いのですが、登場人物の性格付けがねえ……」
原稿用紙の端をテーブルの上で合わせながら、編集者が言う。
「性格付けが?」
律子は身を乗り出して彼を見た。編集者は原稿用紙を封筒に入れ、
「どれもありきたりなんですよね。何と言いますか、ステレオタイプ? どれもどこかで見た事があるような気がするんですよ」
律子は椅子に戻った。
「ストーリーが面白くても人物設定に既視感を覚えるのでは、読者は食いつかないんですよねえ」
編集者は椅子にふんぞり返って語っている。
「ではどうすればいいのでしょうか?」
律子は無駄と思いながらも尋ねてみた。すると編集者は笑い出した。
「それは貴女が考えないと意味ないでしょ? ステレオタイプではない人物設定は人に聞いて作るモノではないですよ」
(お前もステレオタイプの編集者だな)
律子は愛想笑いをしながらそう思った。
お粗末なのは自覚症状があります。