執事の役目
居間へと通されたルネは、大きすぎるソファの真ん中に身を沈めていた。
ルネは小柄な方、というか年頃の女性にしては子供っぽいのが悩みだ。
床に届かない己の足とにらめっこしていると、先ほど部屋を出て行ったルシアンさんが銀のトレイを片手にして戻ってきた。足を斜めにそろえワンピースをさっと一撫でし、届かないつま先を伸ばす。
「ルネ様、お待たせいたしました。お飲み物は紅茶でよろしかったでしょうか?」
「ありがとうございます」
ルシアンさんがてきぱきとお茶の準備をするのを眺めながら、さり気なく足に意識を持っていく。
私のいつもの癖だ。少し気をぬくと足がつりかねないので要注意である。
もちろん、すらりとした手足さえ持っていればこんな余計な気など使う必要なないのだが、それは推してはかるべし。レディって大変だわー…と、いう一言で片付けるにかぎる。
「ルネ様、お茶をどうぞ」
「ありがとうございます」
受け取ったティーカップからはベルガモットの香りが漂い、自然と心も落ち着く。
しばらくして、美味しいお茶と茶菓子で十分に心もお腹も満たされたところでルネは口をひらいた。
「ルシアンさんは…祖父がわたしに宛てた遺言こと知っていたんですか?」
「はい。生前ヴァロン様には自分の死後、屋敷の管理を続け、ルネ様が屋敷の主人になられた際には執事としてお仕えするよう申し付かっておりました」
「じゃあ…大事なものが何か知ってるんですか?」
「はい。ですが、わたくしは大事なものをお守りする番人というお役を預かっておりますゆえ、残念ながら手助けをすることは許されておりません……けれど、ルネ様が大事なものを見つけるときを心待ちにしております」
番人…そんなものまでしてヴァロンおじいちゃんが守りたかったものとはなんなのだろう。ルネにはまったく検討もつかなかった。
「…わかりました。時間はかかるかもしれないけど…頑張って探してみます。不甲斐ない主人ですけど、これからどうぞよろしくお願いします!」
「こちらこそよろしくお願いいたします。では、さっそくルネ様のお部屋に案内いたします」
白い手袋をはめられた手を差し出され、目を瞬く。
「お手をどうぞ」
「あ、ありがとうございます…」
ソファから立ち上がるだけなのに、手を差し伸べられる。
慣れないエスコートに頬が赤くなるのを感じて、それを隠すように俯むいた。
大変遅くなってしまいました。
スロウペースな物語ですが、どうぞよろしくお願いします*
3/16 修正いたしました。詳しくは活動報告をご覧ください。