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不思議な猫の道案内

ヴァロンティーノから手紙が届いたあの日からはや二週間。

階段を降り、玄関ホールについたルネは旅行かばんをどさりと投げ出すように地面に置き、深く息をつく。ルネはアパートメントの二階に住んでいるので階段を通らずに下へは行けないのだが、旅行かばんを持って急な螺旋階段を下りるのはなかなか辛い。幸い一人暮らしで荷物も少なかったので、少し大きめの旅行かばん一つだけで収まったのだが、それでも軽いとはいえなかった。


ヴァロンおじいちゃんから届いた手紙を取り出し、逆さにすれば手のひらに紺色のリボンでくくられた小さな鈴が落ちてきた。手紙の最後に、屋敷に行くときは鈴を鳴らすようにと書いてあったがこれを鳴らすと何か起きるのだろうか。とりあえず二回ほど小さな鈴をふってみる。ちりんちりんと軽やかな音色を奏でる小さな鈴を神妙な面持ちで見つめる自分はさぞかし滑稽だろう。耳を澄まし周りの様子を伺う。しばらくそうしてじっと動かずに待っていたのだが何も起こらない。


とりあえず鈴は鳴らしたし、どこかで馬車を拾おうかしら。

そう思った時だった。ルネの足元で猫の鳴き声が聞こえた。

あまりに近くで聞こえた鳴き声に驚いて目線を下げれば、猫がちょこんと座りこちらを見上げていた。


一体、いつの間に来ていたのだろう。鈴を鳴らしてから周りの様子を観察していたが、猫はどこにもいなかったはずだし、こんな近くに寄ってきていた猫に気がつかないというのもおかしな話だ。

しかもこの辺りでは見かけない猫だし、まるで王都にでもいそうな綺麗な猫だ。光沢のあるビロードのような美しい青灰色の毛皮はよく手入れされているように見えるので、迷い猫だろうか。

ルネがそんなことを考えていると、猫は立ち上がりルネに背を向けて歩き始めた。

そして少し歩いて立ち止まってはこちらを振り返るということを、三度ほど繰り返した。

もしかしてついて来て欲しいのだろうか、そう思って猫の後を追うと猫は再び歩き出した。今度はこちらを振り返らない。ルネの考えは当たっていたようだ。



石畳を歩くルネの足音のみがこつこつと響く。ここは街の裏通り。

周りに人気は無く、表通りの喧騒も遠い。

けれど目の前の猫は迷路のような路地を迷いも見せずどんどん進んで行く。

この街で暮らしているルネでさえ、この猫がどこへ向っているのかまるで見当もつかない。

ましてアパートメントまで戻ろうにもここがどこなのかも分からない。

猫の後についてきたものの本当に良かったんだろうか。

そんないまさらのような不安が過ぎった時だった。


突然、猫が駆け出したのだ。


慌てて猫を追いかけたルネだったが、足元にぶつかる旅行かばんが邪魔でしょうがない。

手に提げていた旅行かばんを抱きしめるようにかかえ直し、猫の後を必死に追う。

猫はしなやかな体を見せ付けるように、足音一つ立てず軽やかに駆けていく。

そんな猫を夢中で追いかける。

けれどしなやかな体躯を存分に使い、駆け抜ける猫のなんと速いことか。

そんな猫にルネが追いつくはずも無く、だんだん速度が遅くなっていくルネに対して、目の前を走っていたはずの猫はもう豆粒ほどの大きさになっていた。そしてとうとう終いには猫はルネの視界から消えてしまったのだった。


猫を見失い、走り疲れ、すっかり息のあがったルネはへなへなと道へ座り込んだ。

せっかくここまで追いかけて来たのに見失っちゃうなんて。

それにここから表通りに戻ろうにも道が分からないわ。

どうしようかと途方に暮れたルネだったが、ここで落ち込んでいるわけにもいかない。

そう思って立ちあがり、顔をあげた。そして驚きに目を大きく見開いた。


「ここは……どこ?」


見慣れた表通りでもなければ、猫と追いかけっこをした裏通りでもない。

ルネの目の前にそびえる繊細な造りの門。

門の向こう側には美しい庭園が広がり、その先には古めかしい屋敷が静かに佇んでいる。


「……もしかして、ここがおじいちゃんの屋敷?」


「その通りでございます」


突然背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには燕尾服を着た美しい男性がいた。



お待たせいたしました。やっとルシアンの登場です^^


3/15 修正致しました。詳しくは活動報告をご覧ください。

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