春の嵐
眠りの世界からゆっくりと現実の世界へと引き戻される。
目の中に差し込んでくる光は朝だと教えてくれているようだ。
ぼんやりと天井を見つめたまま、先ほどまで見ていた夢を思い出そうとする。
けれど、やはり思い出すのはいつも同じことだけだった。
ルネは物心つく頃から同じ夢を見続けている。
初めは靄がかかったようだったのだが、その夢は見るたびにどんどん鮮明になっていった。
それもここ最近は特にはっきりとした映像になってきている。
夢の中身はいつも同じ。
長い緑のトンネルに鍵穴の無い古めかしい扉。
しかし扉が開いたことは一度も無く、夢はいつもそこで終わってしまう。
あの夢は私に何を伝えたいのか。あの扉はどこにあるのか。
出口の見えない迷路のような問いかけだ。
けれど、今考えたところでどうしようもない。とりあえず起きなくては。
まだまだ寝たりないとでも言うようにだるい体に鞭をうちつつ、ベッドから起き上がる。冷たい水で顔を洗い、着替えをすませれば幾分かすっきりとした気分になった。
カーテンを開き、窓を開ける。まだ少し肌寒いけれどくすぐるような風に暖かい日差しはすっかり春のもの。
けれど、春は穏やかなだけではない。花びらがふわりと舞うような優しい風を吹かせるのが春ならば、咲き誇る花を散らすような強い風を吹かせるのも春。
それはとある春の日のこと。
春の嵐を巻き起こしたのは、とある一通の手紙。
三年前に亡くなった、魔術師ヴァロンティーノからの遺言だった。
それは数年前に亡くなった、ルネの大好きなおじいちゃんからの手紙。
追憶の魔術師ヴァロンティーノからの遺言だった。
この小説と出会ってくださり、ありがとうございます^^
目を通してくださった貴方に心より感謝を申し上げます。
3/15 大幅に修正致しました。詳しくは活動報告をご覧ください。