8.男子軍団の襲撃!
悠也は、結花に連れられ屋上で待つ咲の元へと足を運んでいた。ただ、悠也が目指す屋上は、一度グラウンドに出て行かないといけない。
悠也は、グラウンドに近づくにつれて足どりが重くなってきていた。
それもそのはず、グラウンドには悠也を見つけようと必死になってる女子や男子がうじゃうじゃいるのだ。そんな悠也を見兼ねた結花は
「櫻井くん、そんなにオドオドしないの。かえってオドオドしてたら目立っちゃうよ」
「う……うん、それは分かってるんだけど……」
「ほら! シャキッとする! 咲が屋上で待ってるんだからしっかり唇守ってよ。私も、協力するからさ!」
と、悠也の背中をバシッと叩いた。
「痛っ! 早く咲ちゃんに会わなきゃ! ありがとう唐川さん」
「結花でいいよ。悠也くん! あっ、これ使う? 少しだけでも変装してみたらどうかなぁ?」
と、結花は眼鏡を悠也に手渡す。
「ありがとう、この眼鏡どうしたの?」
「それ、だて眼鏡だから大丈夫だよ! 私、いつも持ち歩いてるんだ、ファッションの為にね!」
「へぇ~、そうなんだ」
悠也は、受け取った眼鏡をかけた。
「あら、意外と似合うじゃない!」
「本当、ありがとう。てか、これで大丈夫かな? バレなければいいんだけど……」
「それは、行ってみないと分からないわね」
そういうと、悠也と結花は、ゆっくりとグラウンドに向かって行った。
その頃、とある部屋で集会を開いている男子達の元に連絡が入っていた。もちろん、悠也に関しての連絡だ。
「リーダー! ご報告です!」
「何だ! どうした? アイツの足取り掴めたのか?」
「はい! 食堂の近くにいた男子からの情報によると、櫻井悠也は一人の女子と一緒に食堂を出て校舎の方へ向かったとの事です!」
「何ぃ~! 女を連れていやがるのか~! おのれぇ~、よし、近くにいる男子達を至急集合させ校舎とグラウンドに向かわせろ! 急げぇ~!」
「了解しました! 早速向かわせます」
「櫻井悠也め~、ただじゃ済まさんぞ!」
リーダーと呼ばれる男が、イライラしている中一人の男がリーダーの前に現れた。その男が、
「まぁ、リーダー! そんなにイライラしないように。ここは、我に考えがあるので任せてもらおうかな!」
「ほほ~う! 自信ありげだなぁ~! よし、分かった。お前に任せたぞ。雪乃介!」
「了解した! 我に任せておきたまえ」
と、雪乃介と呼ばれた男は部屋を出て行った。
その頃、悠也と結花はグラウンドの中央のとこまで何とか変装しているのがバレてないのか? スムーズに来れた。
「意外に眼鏡かけただけで分からないものなのかなぁ~?」
「本当よね~! 女子何人かとすれ違ったのにね。私と一緒にいるからカップルかと思われてるのかな?」
「あはは、周りから見るとそう見えちゃうのかな?」
「じゃ、腕でも組んで歩く? 悠也くん」
「いや、それは……ダメだよ! さすがに恥ずかしいし……」
「あははは、悠也くんってからかいがいが本当にあるよね! 冗談だよ。もし、腕組んでるところ咲に見られでもしたら大変だしね」
「もう、結花ちゃん! からかわないでよ!」
「ごめんごめん。でも、この調子ならすぐに咲のところに行けそうだね」
「う、うん。何事もなければいいんだけどね」
悠也達は、足早にグラウンドを歩いていると突然後ろから見覚えのある女の子が声をかけてきた。
「櫻井どの?」
声をかけてきたのは早乙女蘭子だった。
急に声をかけられ悠也達は、同時にビクッと体が反応して振り向いた。
「ち、違いますよ! 人違いです」
と、咄嗟に言うも
「櫻井どの、私の目はごまかせぬよ! 眼鏡かけていてもすぐ分かったでござる」
「うぅ~、みんなに気付かれずに行けるとおもったのに……」
「甘いな、櫻井どの。で、櫻井どのの隣にいるのは、唐川どのではないか! 二人一緒にいると言う事は、櫻井どのもう唐川どのとせっ、接吻を済まされたのか?」
「えぇ~、な、何でそうなるの? ただ一緒にいるだけだよ」
「私は、キスしたいってせがんだんだけど悠也くんに拒否されちゃったのよ。で、今は悠也くんの心に決めた相手のところに行く途中って訳なのよね」
「気になっていたんだが……櫻井どのの心に決めた相手と言うのは誰なのだ。気になって仕方がないのだ。教えてはくれまいか?」
「いやいや、恥ずかしいよ。それは秘密って事でいいかな?」
と、悠也は言葉を濁すと
「ほほぅ、私がこんなに頭を下げて頼んでいると言うのに言えないのか、男子たるもの隠し事とは見苦しくないか? 櫻井どの」
と、蘭子は持っていた竹刀を悠也にチラチラ見せ威圧する。
完全に蘭子の威圧に飲み込まれオドオドしてる悠也を庇うように結花が
「悠也くんが好きな人は、あなたもよく知ってる娘だよ。同じクラスの秋元咲なの。これでいいかな?」
「結花ちゃん……」
「悠也くんごめんね、でも、ここは言ってた方がいいと思ったの! そしたらさすがの早乙女さんでも諦めがつくでしょ」
その言葉を聞いた蘭子は 「そ、そうか……櫻井どのは、秋元どのの事が好きなのか? 私も諦め切れずあまよくば、接吻をしてやろうと思ってたのだが仕方がない。私も櫻井どのに協力しようではないか!」
「えぇ~、協力って何の?」
「それは、もちろん秋元どのの元まで櫻井どのの唇を私も守る手伝いを」
「よかったじゃない! 悠也くん! 強力な助っ人だね」
「う、うん……」
蘭子が合流して三人はグラウンドの中央に差し掛かった時、男子達が猛然とダッシュしながら悠也の元までやって来た。
「櫻井悠也~! 貴様、ラッキーボーイという立場を使って女子二人をはべらかすとは羨ま……いや、許せれん! 俺達ももう我慢の限界だぞ! 櫻井悠也、俺達と勝負しろ~」
「えぇ~、勘弁してよ」
「いや、勘弁ならん!」
と、一人の男子が悠也の胸ぐらを掴み悠也を脅す。その様子を横で見ていた蘭子が
「貴様等、それでも日本男児かぁ~、貴様等のようなやつを見ると虫ずが走る! 櫻井どのの邪魔をすると言うのなら私が相手をしてやろう」
と、竹刀を握る手に力を込め構えた。
「けっ、女ごときに負けっかよ! でしゃばると女といえども容赦しねぇぞ!」
と、男子達は蘭子に飛び掛かる。
「愚かな、返り討ちにしてくれる」
蘭子は飛び掛かってくる男子達に竹刀を振る。バシッと竹刀の音が鳴り響くと同時に男子の一人が地面に倒れる。一瞬のうちに蘭子の放った竹刀が男子の頭に命中したのだ。周りにいた男子達も次々と蘭子の竹刀の餌食となり倒れていく。
「これで分かったであろう。今後、櫻井どのの邪魔をしたらこの程度では済まさぬよ」
と、蘭子は倒れている男子達に言い放った。
「では、先を急ごうか櫻井どの」
「うん、ありがとう、早乙女さん」
と、再び歩き出そうとした際、蘭子は殺気を感じ振り返ると蘭子の頭の上に木刀らしき物が降ってきた。蘭子は、咄嗟に竹刀を頭の上に構え防ぐ。
「ほぅ、さすがだな! よく防いだ!」
蘭子に攻撃してきたのは雪乃介だった。
「兄上! 何をなさるのか! 不意打ちとは卑怯ではないですか!」
と、蘭子は不意打ちをしてきた雪乃介を睨む。そう、蘭子と雪乃介は兄妹なのだ。
「何を言うか、蘭子よ! これも一つの作戦ではないか。ところで、何故に我が妹が我等の敵である櫻井悠也に味方しているのだ?」
「私が櫻井どのの味方をしていても兄上には関係ないではないか!」
「ほぅ、蘭子よ、あくまでも兄の我に逆らうか? まぁ、それもよかろう。ただし、兄妹だからと言って手加減はせぬぞ」
と、雪乃介は蘭子に向けて木刀を構えた。
「望むところ! 兄上! 勝負!!」
蘭子も雪乃介に向け竹刀を構え雪乃介にむかって竹刀を振る。
先に仕掛けたのは蘭子だ。竹刀を雪乃介に向かって頭、体等に何度か振り下ろす。しかし、
「ははは、まだまだ甘いな、蘭子! そんなんでは、まだ我には勝てぬぞ。よし、では次は我の番だな!」
雪乃介は、蘭子に容赦なく木刀を振り下ろす。蘭子は必死に木刀を防ぐ。
そんな攻防が何度も続き
「蘭子よ、そろそろ決着をつけようか!」
「望むところ!」
と、二人はお互いに木刀、竹刀を振り上げる。
その時、不意に蘭子が
「あっ! 杏子先生!」
と、叫んだ。
その言葉に雪乃介が
「何ぃ~! 何処だ、何処に我がマドンナの杏子先生がいるのだ!」
と、辺りをキョロキョロと見回す。蘭子は、その瞬間を見逃さなかった。雪乃介が蘭子から目を離した瞬間スキができ、蘭子は力一杯雪乃介の頭に
「スキあり~!」
と二発くらわせた。
「兄上! 私の勝ちのようだな!」
雪乃介は、頭を押さえながら
「ら、蘭子よ……卑怯ではないか!」「何を言うか、兄上よ! これも作戦だ。兄上、勝負はついた。今後、櫻井どのを狙うのは止めてもらおうか」
「くっ、仕方ない。負けは負けだ。約束は守る」
「では、兄上、私は先を急ぐので、これにてごめん」
と、二人の勝負に見入っていた悠也と結花の元に行き
「櫻井どの、唐川どの先を急ぎますよ」
「う、うん……早乙女さんってやっぱ強いんだね……」
「な、何を急に、て、照れるではないか!」
「いやいや、カッコよかったよホントに! ね、結花ちゃん」
「うん、巧みな戦術で油断させて叩きのめすなんてね。カッコよかったわ。早乙女さん」
「あ、ありがとう」
蘭子は、恥ずかしそうに頭を掻きながら言った。
そうして、再び悠也達は咲の待つ屋上へと歩を進める。