12.最終決戦(後編)
芹香に助けてもらった悠也と結花は、着々と屋上へ向かって行っていた。
「普段は屋上まですぐ行けるのに今日は、屋上まで行くのにすごく時間かかるよ」
「まぁね〜、今日は仕方ないでしょ〜、悠也くん今日一日ラッキーボーイに選ばれちゃったわけだし……女子にも男子にも追われてるんだから長く感じちゃうよね」
「ほんまだよ……今日、ずっと走ってばっかだし……疲れちゃったな」
と、悠也はため息をつく。
「でも、それもあと少しで終わるじゃない!! 屋上にいる咲にあってキスすれば悠也くんの苦労も報われるわよ!」
結花は、ため息をついて肩を落としている悠也の背中をポンポンと軽く叩いた。
「それはそうだけど……咲ちゃんちゃんと屋上にいてくれてるのかなぁ〜?」
「い、いると思うよ……あれ以上ひどくなってなかったらね……たぶん……」
「あれ以上ひどくなってなかったらってどういう事?」
「ま、まぁ〜、屋上に行けば分かるから早く行きましょ!!」
結花は、さすがに咲がコーラで酔っ払っていることを言えなかった。
一方その頃、咲はというと、
一升瓶に一杯に入れていたコーラを全て飲み干していた。
咲は、すでに酔いつぶれる一歩手前の状態でいた。
「ったくぅ〜、いつまで私をまたせぇるのよぅ〜。いいかげんにしにゃしゃいよね。にゃにがラッキーボーイよ〜、悠也しゃんの相手は私しかいにゃいんだから……」
咲は、ずっと空に向かってぶつぶつ言っていた。
「悠也しゃんに今日告白したいのにぃ~。こまのままじゃ、告白出来ずに終わっちゃうよー。悠也しゃんのバカー」
悠也達は、屋上まであと少しのところまで来ていた。
「やっとここまで着たよー。咲ちゃんいるかなー?」
「大丈夫だよ。あの調子じゃどこにも行ったりはしないと思うから」
悠也と結花が屋上につながる階段を上がろうとした時、後ろからすごい勢いで迫ってくる足音が聞こえてきた。
だんだん近づいてくる足音に悠也と結花はまたかーとため息をついて階段を駆け上っていく。
しかし、追いつかれてしまった。
「まて、櫻井! このワシが自ら出向いてやったぞ。散々てこずらせやがって!」
そう、言ってきたのは体育教師の万田三郎だった。
悠也と結花は聞いてないフリをして階段を上がっていたが
「コラッ!! 待てと言っとろうがー!」
と、悠也の服を勢いよく引っ張った。
「ま、万田先生、何なんですか? 僕用事があるから急いでるんですけど……」
「ワシもお前に用事があるんじゃ! 櫻井、貴様は学校中の女子をたぶらかしてるそうじゃないか! けしからん!
ワシがお前を成敗してやる」
「いやいや、先生待ってくださいよー! 僕は被害者です。僕が望んでこうなった訳でもないし、女子をたぶらかしてる訳じゃありませんから…」
「問答無用だ! 貴様ばっかりいい思いして他の男子が可哀想だろーが!」
「それは、そうかもしれないですけど…そんなこと僕は知りませんよ…」
「うるさい! 言い訳はいい! 現に貴様女子と一緒にいるではないか! はっ! もしや、貴様等キスをしたんじゃないだろうなー! ワシは認めんぞー! 何がラッキーボーイ争奪戦じゃ。バカバカしい! 櫻井こっちへ来い!」
万田は、悠也の腕を引っ張って連れて行こうとした。
「万田先生、止めてあげてください。悠也くんが可哀想です。何で万田先生までこんなことするんですか? 信じられない。男子も男子だよ。悠也くんばっか目の敵にしてそんなに女子と遊びたいなら自分から女子に声かければいいのに。それもしないで悠也くんばっか責めてさ。ホント男子最低だよ。」
結花が悠也の反対の腕を掴んで言った。
悠也達が万田と揉めているころ、悠也を助けた女子達も駆けつけた。
「悠也どのー! 追いついたでござる。いかがなされた。」
「悠也くんまだ、屋上行けてないの? 何してるのよ全く」
と、蘭子と理央がきた。
その後を追って麻奈美、芹香、由美も駆けつけた。
「あっ! みんなー! どうもこうもないよー… 万田先生がさぁ~」
悠也の周りに駆けつけてきた女子達を見て万田はますます怒りが増してきた。
「櫻井悠也! 貴様は何人の女子をもてあそべば
気が済むんだ。中には小学生もおるではないかー! その上生徒会長までも」
「由美はちゃんとした高校生だもん! 先生のバカァ~」
「先生にむかってバカとはなんだ。バカとは! とにかくだ! こんなしょうもないイベント直ちに中止だ。」
「万田先生! それは出来ません。このイベントは生徒会で決まったことです。今更中止なんてできません。早くイベントを終わらせたいのなら悠也くんを屋上に行かせてあげてください。そうしたら終わるはずですから。」
「ダメだ。今すぐこの場で終わらせろ!」
「だから、無理なんですよ。悠也くんが誰かとキスするまでは終われません。そういうルールですから。」
「ワシはそんなん認めんぞ! 前からこのイベントだけは許せんのだ!」
「そーですよね! 私知ってますよ。万田先生はこの学校の卒業生で、先生が在学中にもこのイベントがあって、その時もラッキーボーイに選ばれなかった事は。それのはらいせで邪魔をしてるんですか?」
「さすが、生徒会長だな。よく知ってたな。そうだ。ワシが在学中にもこのイベントはあった。その時ワシはラッキーボーイに選ばれなかった。そのせいでワシのマドンナだった杏子先生をとられたのだよ。その時のラッキーボーイにな! だから、このイベントが開かれる度ラッキーボーイの邪魔をしてワシが味わった思いを思い知らせてやるんだよ!」
「最低な理由でごさるな…」
「バッカみたい」
「最…低…」
「由美この先生嫌いだょー」
「え~い! うるさいわー! 理由はどうあれイベント中止だ。櫻井来い!」
万田は悠也を強引に連れて行こうとした。
「そうはさせん!」
蘭子は竹刀を万田が悠也を引っ張っている手に叩きこんだ。
「貴様~! 先生にむかってなんたること!」
万田が悠也を離した瞬間結花が悠也の手を思い切り引く。
「蘭子ちゃんありがとー! このまま私が悠也くんを屋上まで連れて行くわ!」
「了解した! 結花どの! ここは、私達に任せておけ。悠也どのを任せた!」
「うん! じゃ、悠也くん行くわよ!」
「わかった。ありがとーみんな!」
悠也と結花は急いで階段を上がっていく。
「全く、悠也くんってホントほっとけないのよねー。」
「ホントでごさるな! でも、そんな悠也どのを好いてしまった私達も私達だ。」
「そーですよね! 私達の誰かが悠也先輩の唇奪ってもよかったのにこうして悠也先輩の手助けするようになるとは思いませんでしたぁ」
「うん…」
「私はお兄ちゃん大好きだよー」
「貴様等がワシに適うわけなかろーが! そこをどけー!」
「それは、どうかな! 万田先生覚悟するでござる! 麻奈美どの、芹香どの!」
「はぁ~い!」
「う…ん」
麻奈美は白衣を開き白衣の下に隠してある試験管を取り出し万田に投げつける。
芹香は呪文を唱え悪魔を召喚させ万田を押さえつけた。
麻奈美が投げつけた試験管が万田に当たり爆発した時、蘭子は竹刀で頭を一撃。
由美は、
「私も~」
と、万田目掛けて走って行ったが万田の目の前で躓きそのまま頭から何と万田の股間に頭突きを食らわせた。
さすがの万田もふいに思い切り股間に頭突きされては耐えれずその場にうずくまる。
「由美ちゃん! ナーイス! 今のうちに私達も屋上に行きましょう。最後はみんなで悠也くんを見届けないとね」
と、理央が言って屋上に向かって行った。
屋上に着いた悠也と結花は屋上へとつながる扉を開ける。
外はもう、夕陽で紅く染まりつつあるころだった。
屋上に出た悠也達は、咲を捜す。
「あっ! 悠也くんあそらこに! ほら!」
結花が指差した方を見るとベンチに座っている咲がいた。
「よかった。咲ちゃんいてくれたんだ。」
悠也は咲の元へと向かう。
「咲ちゃん! やっと会えたね! 咲ちゃん!」
悠也の言葉に何の反応もしない。
気になった結花が咲の顔をのぞきこむと
「もー、咲ったら寝てるよー! 全くもー! せっかく悠也くん来たのにぃ~、ちょっと、咲! 咲ったら起きて!」
と、結花は咲の体を揺する。
「ふぁ~。あれ~。結花、戻ってきたの~。早くコーラちょーだい」
「咲! ちゃんとして! 悠也くんがいるのよ!」
「えっ! えっ! 悠也くんいるの? どこに?」
「ここにいるよ! 咲ちゃん!」
と、悠也はえがおて咲を見つめた。
「きゃー! 悠也くん! 私ったら…恥ずかしい…」
咲は、一気に酔いが冷めて顔を真っ赤に染めた。
「ごめんね、悠也くん。咲ったら悠也くんに会えなくてはぶててさコーラをやけ飲みしちゃったの。で、この娘コーラ飲み過ぎると何でかお酒でもないのに酔っ払っちゃうんだよねー」
「そ、そうなんだ。だからこんなにコーラの缶があるんだ」
「びっくりしたでしょ!」
「ちょっとね。でも、意外な咲ちゃんを知れてよかったよ。咲ちゃんも、ごめんね。待たせちゃって。やっと会えてうれしいよ」
「うん。私も嬉しい! やっと、悠也くんの声聞けたし、顔も見れた!」
その頃、万田を倒した蘭子達も屋上に来ていた。
「悠也どの、やっとでござるな…」
「ホントよね! 全く大変だったわ。後はあの二人を見守るだけね」
悠也は、咲の手を握り
「咲ちゃん、ホント待たせてごめんね。やっと気持ちを伝えられるよ。俺、咲ちゃんが好きです。よかったら俺と付き合ってください!」
「はい! 私も悠也くんが大好きだよ。よろしくお願いします。今日、一生懸命私を捜してくれてありがとう。」
咲は、悠也に抱きついた。
「咲ちゃん、文化祭残り少ないけど一緒に見て回ろうね!」
悠也も咲を抱きしめそして
「咲ちゃん」
「悠也くん」
二人は見つめ合ってお互いの唇を重ねた。
夕陽をバックに二人のキスを見た結花達は
「あ~あ、見せつけてくれちゃってさ」
「ホントよー! でも、これでイベントは終了したわねー。よし、終了の宣言しないと」
理央は、そう言って屋上を後にした。
そして、
「ただいまをもちましてラッキーボーイ争奪戦の終了を宣言いたします!」
悠也と咲は誰にも邪魔される事なく手を繋いで残りの文化祭の時間を二人で楽しんだ。
(おわり)
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