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Checkmate  作者: 柳乃 晟
異端騎士
6/13

005   接触

 ミリア達と過ごす様になってから数日が過ぎた。


 ――――放課後、学校が終わった後アルト達は何気なく近くの喫茶へ集まった。

 学校周辺には学生向けに色々な店がそこかしこに並んでいる。


 その内のひとつである喫茶店に足を運んだ。


 何故こうなったのかと言うと、



「みんな折角仲良くなったんだからさ、何処かでお茶しない?」



 というミリアの一言だ。

 その言葉にフェイと慎は目を輝かせて賛成し、クライスとアルトは仕方ないなあ、といった表情で同意した。

 各々、予定もなく暇だったという事もあるがミリアの発案は何も問題なく受理されたのだった。


「普通さー。剣術実技終わらせた後に学問なんかさせるかなあ…頭に入らないでしょ。」


 そう愚痴を零しながら頼んだコーヒーを口に運ぶのはフェイだ。


「ほんとほんと!身体中が悲鳴を上げてるってのに、鬼だよね!」


 フェイの愚痴に全力で頷きながら自身の注文した紅茶を飲むのはミリア。


「そうかあ?別にあれくらい大した運動になんねえだろ。」


 ふたりの言葉に軽く首を傾げながらハンバーガーを豪快に(むさぼ)ってるのが慎。

 アルトとクライスは苦笑とも呆れてるとも言えない中途半端な表情で三人を見ていた。

 因みに、アルトはコーヒー。クライスはミルクティーを注文している。


「それは慎ちゃんだからだよ!あたしみたいなか弱い女の子にはあんな運動の後に学問なんか教えられても判りません!」

「……ミリア。そうやって自分の成績が悪いのを誤魔化そうとするの良くないよ。」


 ギクッ!


「や、やだなぁ…クラちゃん何言っちゃってるのー。あたし判んないなぁ。」


 ア、アハハ…と表情を崩して笑う。

 それを見て、ああ成績悪いんだ。と納得したのはアルトと慎。


「クライスは良いよねー。中学の時から成績良いじゃん。」

「そりゃ僕は君達と違って真面目に勉学に励んでるからね。」

「あれ、クライスとフェイって中学一緒だったのか?」


 ふたりの会話を聞いてた慎が疑問に思って問い掛ける。


「ああ、そうだよ?黒峰君と緋色君には言ってなかったっけ。僕とフェイとミリアは幼馴染なんだ。まあ、腐れ縁ってやつだよ。」


 ははは、と幼少の頃からの思い出を思い出したのだろうか。

 クライスは苦笑を浮かべながらそんな事を言った。


「へー。まあ、高校入りたてで仲良くなったにしちゃすっげー仲良さそうだし、そりゃ当然か。」


 うんうん、と何度も頷いて納得する慎。


「そうゆうふたりはどうなの?中学から一緒だった?」

「いや、俺と慎は入学した時に知り合ったが?」


 アルトの発言に三人は意外そうな表情をした。

 ミリアなんかは口に出して「えー!」と驚いていたが。


「だってだって、いっつも一緒に居るじゃん!」

「あー。それはどちらかと言えば慎が勝手に引っ付いてくるんだ。」

「おーい!待て待て待て待て!何迷惑そうに言ってんだよ!」

「………いや、事実だろう?」


 ガーン、という効果音が聞こえてきそうなくらいショックを受けました!という表情をする慎を見て。


(犬みたい………)


 そこに居た四人が同じ事を思った。



********************************************



 未だショックが残っている慎を仕方ないといった感じにアルトが慰めながら五人は店を出た。

 長居した為、辺りは日が落ちて暗くなっている。


「結構話し込んだね。…まあ、楽しかったから仕方ないか。」


 クライスは誰にでもなくそう呟いた。

 クライスの言葉に各々頷いたり「うん」と言葉にしたり同意の意を表し、


「これからもよろしくね。」


 ミリアはニッコリ、と微笑みながらアルトと慎に視線を向けた。

 その言葉を受け「ああ。」「おう!」と言葉は違えどふたりは笑顔で返した。


「さて、もうこんな時間だし。帰ろうかー。」

「そうだね。……と、アレ?どうしたの?」


 ミリアとクライスは帰ろうと(きびす)を返そうとしたその時、三人が複雑な表情をした事に気付いた。


「ん?いや、なんでもない。……フェイ、帰り道は三人とも同じなのか?」

「…え。あ、ああ、うん、家近いからね。」

「そうか。それじゃあ、此処でお別れだな。」


 とアルトはフェイに向けて言った。

 ……対するフェイは何か言いたげな表情をしたが何かを堪えるかのように表情を戻し。


「そうだね。ふたりとも気を付けて(・・・・・)帰るんだよ。」


 とだけ言えばふたりを連れてその場を去っていった。

 ミリアは「さようなら!」と元気よく、クライスは「…じゃあね。」と疑問の表情を浮かべながら別れの言葉を口にし。

 ――――途中、クライスが怪訝そうに此方を何度か振り返っていたが慎が笑顔で見送るとクライスも笑顔で帰路に戻る。


 沈黙。


 三人が視界から消えてもふたりは動こうとしなかった。

 ――――否、待っていた。

 ずっと此方を観察するかのように見ていた存在が出てくるのを。


「……なあ、アルト。いつから気付いた?」


 ふと慎がアルトに小さな声で問い掛ける。


「……学校から出て少し経ったくらいからだな。」


 アルトの返答に少しだけ驚いた表情を見せ、軽く息を吐く。


「…やっぱり気付いてたか。」

「ああ。…フェイも気付いていたみたいだがな。」


 俺達ふたりを残して帰るのが不安だったんだろう、とアルトは小声で続ける。

 どうゆう理由で付けているのか判らなかったが、可能性としては"a heretic"《能無し》を快く思っていない人間がちょっかいを出そうとしているというのが一番有り得る理由だろう。

 そうゆう意を込めての発言で、慎も勿論理解していた。


「だが、――――そうでもないようだ。」


 アルトの言葉に慎は動揺したが、現れた人物に視線を向けるとああ、と納得した。


 目の前にはヴァン・ハーツ。

 アンブレイの教師であり。

 ―――ギルハバート騎士団四番隊隊長の姿がそこに居た。



**************************************



 ヴァンは目の前に居るふたりの生徒の行動に驚きを隠せなかった。


 学校から出る彼の姿を見て尾行を開始したのだが、すぐさま警戒された事。

 四番隊隊長と言う肩書きを持つ自身の―――得意分野ではないと言っても―――尾行に気付いた事。

 自分が付けられているというのにいつもと変わらぬ行動をしていた事。

 ―――そして、その人間が出てくるまで覚悟を決めてその場で待っていた事。


 本当に学生か?


 ヴァンはそんな疑問を感じながら彼等を見ていた。


「―――で。ヴァン・ハーツ先生、ですよね?俺等…いや、俺に何の用でしょう?」


 その言葉にヴァンは驚愕の表情を隠せ切れなかった。

 無論、アルトの発言に慎も驚いたがヴァンはその比ではない。

 何故彼等、ではなく、彼を尾行していた事に気付いたのだろうか。

 警戒されている事に気付き彼に視線を集中させる事は控えた筈なのに、だ。


「その表情を見るに、何故俺を付けていた事がバレたのか判らない。という感じですね。―――、多分先生は尾行に慣れていないでしょう?視線を誤魔化しても意識を此方に集中していれば気付かれてしまうんですよ。」

「………っ」


 言葉にならない叫びがヴァンの口から発せられた。

 既に表情を隠す事を放棄―――否、忘れてしまった。

 それ程の衝撃がヴァンを襲う。


「…ふう。さて、話を戻しますが、何の用でしょう?」


 今この場の空気の主導権は紛れもなくアルトが握っている。

 慎はおろかヴァンでさえアルトの気迫に飲まれている。


 ―――――最善の注意を払うように。


 尾行を指示した上の人間の言う通りだった。

 学生だから、と舐めて掛かったのが駄目だった。


 そう、思い返し、自身に気合を入れ直す。


(仮にも私は四番隊の隊長を任せられている存在だ。―――飲まれてどうする!)


「用は、ない。私は命令によって君を尾行するよう指示を受けただけだ。―――失敗したがね。」


 ほう、と今度はアルトが感心する番だった。

 隊長相手に可笑しな話ではあるが、アルトは感心した。


 先程まで支配していたこの場を相手が押し返してきたのを感じたからだ。


 流石、隊長の肩書きは伊達じゃない。

 そう思い、唇の端を吊り上げる。


 面白い、と。


「そうですか。ならば問いを変えましょう。…誰からの命なんです?」

「それに答える義理はないな。」

「そうでしょうね。」


 ギリッ、と歯が軋む音が響く。

 ヴァンは、この飄々とした自分よりも遥かに幼いこの青年に苛立ちを感じていた。


「慎。これから俺が言う事は他言無用だ。―――一方的で悪いんだが、御前は信用に値する人間だと短い間だが、俺は判断した。」


 まあ、結構深い話になるから無理だと思ったら去ってくれても構わないぞ、とアルトは言う。

 そのアルトの言葉に。


「馬鹿言うな。俺と御前の付き合いは確かに短いけど、そこまで言われちゃ親友としては聞かずにはいられねえよ。」


 と口元を緩ませて照れ臭そうに慎は言う。


 その答えに満足したのかアルトも笑みを零し、


 ――――ヴァンに視線を向け口を開く。


魔道具(・・・)の件でしたらお引き取り下さい。今はまだ答えるつもりはありません。―――力付くで、とそちらが仰るのでしたら、此方もそれ相応の対応をさせて頂きます。」

「やはり、魔道具を開発してるのは君か。」


 魔道具、という単語に首を傾げる慎。

 だがそれを問おうという気は彼にはない。

 時が来れば話してくれるだろう、と。


「それが俺を入学させた理由でしょう?そして、俺と慎をくっ付けたのも計画のひとつだ。慎の剣術に俺の知識、そして魔道具。これが合わされば相当な戦力になるでしょうから。」

「俺とアルトを…?」


 だが、こればかりは言葉に出ていた。

 アルトに近付いたのは己の意思だ、間違いない。

 それをアルトは計画だと言った。


 ―――どうやって?


 思考を巡らす、が答えは出ない。


「慎。俺と御前が知り合う切欠になったのは何だ?」


 そんな慎にアルトは助け舟を出す。


 ―――知り合う切欠?


 たまたま席が隣だったから―――違う。

 下校時、偶然出逢った―――違う。


 まさか、


「……っ」

「気付いたか?御前の友人に俺の情報を渡して、そして俺と御前の席を隣通しにさせる。―――それだけだ。だが、それでも結果俺と御前はこうして行動を共にしている。俺と御前の性格を良く調べたんだろうな、見事だ。……俺も気付いたのはついさっきだよ。」


 そう言ってアルトは睨む様にヴァンを見る。

 自分達の意思でこうなったとは言え自分達が他人の掌の上で踊らされた事にアルトは苛立ちを覚えた。


 その視線の先にいるヴァンは、


 フッ、と笑みを零す。


「君は本当に学生か?私が君を尾行したというだけでここまで気付くとは…いやはや恐れ入った。」


 参ったよ、とばかりに両手を挙げて首を横に振る。

 この職に就いてから決して短くはない時が過ぎたがこんな経験は初めてだった。

 こんな自分から見ればまだまだ子供の相手にここまで驚かされるなんて。


「そちらの詰めが甘いだけですよ。俺は別に凄い事をした訳じゃあない。」


 ヴァンの行動を見て首を横に振った。

 それを否定しようと慎は口を開こうとしたのだが、それを遮って。


「魔法を使える"a heretic"《能無し》がよく言うよ。」


 ヴァンの呟きがその場に響き、


 ――――慎はその開いた口をそのままに、驚いた。

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