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Checkmate  作者: 柳乃 晟
異端騎士
4/13

003   狩人

 ――――翌日、早朝。

 アルトは街から出て草原へと来ていた。


 此の世界には魔物が存在している。

 街には其の魔物から街を守る防壁が作られていて其処から外に出てしまえば危険地帯だ。

 良く此方の世界にあるRPGでは街付近に強い魔物は存在しないものだが此の世界では少し違う。

 勿論ドラゴン等と言った上級種は各々の集落から基本離れたりはしない。

 だが、街付近に弱い魔物が集まるなんて事はない。

 何故なら弱い魔物より人間のほうが強いからだ。

 弱肉強食―――等という言葉があるように強い存在がいる集落等には危機感を感じて下級種は近寄ったりしないのだ。


 ――――となれば、街付近に存在する魔物は必然と中級種以上となっている。


 アルトは剣を持って草原へ足を運んでいた。

 唯、其の剣は学校等で扱う木刀モドキではなく、―――真剣だ。


 アルトは集合時間よりもやや早めに到着し、周りを見渡す。

 目的の人物が未だ到着していない事を確認し、それならば、と暇潰しにストレッチをする事にした。

 運動の前の準備体操だ。やっておいて損はしないだろう。


 と、暫くストレッチに時間を割いていたのだが―――突然感じた殺気に瞬時に臨戦体制を整える。


 目を向けると其処には灰色の毛をした狼(グレイウルフ)の群れがいた。

 グレイウルフは中級種の中でも下位に存在する魔物で集団で行動をする。

 大体十体前後の群れを形成しており、目の前の群れは目算で九体。

 今のアルトには若干手に余る。


(グレイウルフ、か。―――――リハビリにはもってこいだ。)


 グレイウルフの攻撃手段は爪と牙を用いた接近戦のみだ。

 今日アルトが此処に来た理由は剣を使った接近戦の勘を取り戻す事。

 無傷で倒せるとは思っていないが、殺られる事もないだろう。


 ―――――――さて、と。


 剣を構えて相手を見据える。

 一体、片目に傷を負っているグレイウルフが見える。

 多分、奴がボスだろう。


 ザッ、


 という地面を蹴る音を残してアルトはそのボスらしきグレイウルフに向かって一直線に走り出す。

 それを攻撃の意として受け取ったのであろう、そのグレイウルフは高々と咆哮を上げた。


(ビンゴ。―――奴がボスだな。)


 其の咆哮に合わせて周りの八体がアルトへと駆け出していった。


 ザシュ!


 先ず一番足の速かった一体を斬り捨てる。

 が、それは囮だったのだろう、攻撃後の隙を突いて二匹が挟み込むかの様にアルトへ飛び掛かる。

 それを視界の隅で確認し、一体を剣で受け止め、もう一体は足で蹴り払う。

 ……一体が吹き飛んで行った事を確認し、剣で受け止めている一体をそのまま振り払う。


 その一連の動作でグレイウルフ側は警戒心を強めたのか間を置いてアルトの出方を窺い始めた。


(残り八体、か……。今のファーストアタックで少なくとももう一体は殺っておきたかったな。)


 剣で受け止める、じゃなく突き刺すという行動でも…否、それよりも先ず最初の攻撃で隙を見せたのがそもそもの失敗か。

 ……己の中で軽く反省会を行う。

 其の間集中力を切らす事無く周りの警戒は怠らない。


「ふっ!」


 カシィン、とグレイウルフの牙と剣が音を立てて交じり合う。


「…てやぁああ!」


 ザシュッ!

 力任せではあるが、そのまま剣を力強く振り抜いて一体を倒す。


「グガァァァアアアアアア!」


 其の瞬間、今度は三方からアルトを囲む様に襲い掛かってくる。

 アルトはそれを視認すれば、振り抜いた力を利用しそのまま一回転する。


「てりゃぁぁぁああああ!」


 ガシュザシュ!と音を立てて二体倒す、が―――


「ガウ!」

「チッ!」


 一体のみ剣の太刀筋に入っておらず攻撃が当たらない。

 其れを好機と見たのか回転の軸となっている足元へ牙を向けるグレイウルフ。

 アルトは其の攻撃を掠りながらも交わすと、


「はっ!」


 地面ごとグレイウルフに剣を突き立てた。

 キャン!という声と共に動かなくなったグレイウルフを尻目に振り返り様、一太刀を浴びせる。


「外した!?」


 背後からの気配を感じ地面と平行に剣を振り抜いたが、手応えが無い。


 ―――――何処だ?


 と、視線を向ければ、


「!?」


 振り抜いた剣の上に立つ――――グレイウルフ。

 其の片目には傷が生々しく残っていた。


「チィッ!」


 視界に其れ(・・)が写った瞬間、剣を振って振り落とそうとするが一瞬遅い。

 振り落とされる前にアルトに向かって飛び掛るグレイウルフ。

 咄嗟に聞き手とは逆の、左腕を差し出して防御体制に入る。


「ぐあああ!」


 カブッ、と左腕に噛り付いた。

 瞬間、左腕に激痛が走る。

 その痛みに耐えかねて声が漏れたが、それを恥じる余裕なんてない。

 左腕に噛み付いてるそいつを剣で斬り捨てようと体制を瞬時に立て直せば、それを察知したのか剣が届かない距離まで間合いを広げる。


(……意外と賢い野郎だ……。)


 左腕が未だ激痛を感じてる。

 スー、ハー、とひとつ深い呼吸を間に挟み頭を少しでも冷静にしようと試みる。

 試みは成功した、激痛が薄れた訳ではないが頭を冷やす事には成功したのだ。


(残り四対………。)


 其の内一体は片目に傷を負っているボスだ。

 奴だけ此の群れの中で郡を抜いて厄介な相手だと認識する。

 奴さえ倒せば残りは烏合の衆だ。ならば――――


 バッ、と今度はアルトから仕掛ける。


 待っていたとばかりに三体がアルトに向かって襲い掛かるが、アルトの眼はそれを見ていない。

 視界の片隅で視認はしているが―――――アルトの眼はボスを捕らえて離さない。


 襲ってくる牙や爪を紙一重で交わす。

 息が荒くなる。

 それは恐怖や身体的な疲労から来るものではなく、精神的な疲労から来るものであった。

 今のアルトは気配のみで相手の攻撃を察知している。

 其れを成すには相当な集中力が必要だ。


「くあ…!」


 攻撃が掠める。

 声が漏れる。

 だが、それでも集中を切らしたりはしない。

 切らした瞬間―――己の生が終わるとアルトは悟っていた。


「グガァァアアアア!!」


 ボスまである程度距離が縮んだ時、痺れを切らしたのかアルトに向かって突撃してきた。

 だがアルトも足を止める事無く突っ込む。


「てやぁぁあああああああ!」

「グルァァアアアアアアア!」


 シュピッ!


 牙と剣―――ふたつの武器が交差した瞬間、其の場に響いた。


 ドサッ


 そして、其の音から数秒経ってから聞こえる何かが倒れる音。


 ―――――倒れたのはグレイウルフの方だった。


 ボスが倒された事で動揺しあたふたしている残りの連中に向かって視線を移す。

 刹那、残りの三体は一目散にアルトから逃げる様に立ち去っていった。


「ふう……」


 出来ればもっとスマートに勝ちたかったな、なんて心の中で呟けば、今度は視線を違うところに移して。


「で、いつから其処に居らしたんですか?」


 視線の先には髭を生やした金髪のだらしない中年の男。

 サングラスを掛けていてスーツ姿の中年は何処から如何見ても怪しさ全開である。

 見方を変えれば其の手の職業の人にも見えなくは無い。


「ん~。いつから、と言われてもねえ。俺は最初から此処に居ましたよ。」


 そう言うと懐から煙草を取り出し火を点ける。

 火は呪文で出して―――


「ふー。しっかし、最近顔出してねェからどんな修行をしてるのかと思えば……まさかサボっていたとは思いもしませんでしたよ。」

「……………。」

「まあ、確かに息子さん(・・・・)だったら剣を扱う必要も魔法を扱う必要もねェでしょうし、というか、そんなの扱わんくても騎士になれるでしょう。」

「……………。」

「たーだ、アンブレイに通ってんだったらせめて剣術くらいはやっておかねェと駄目じゃないっスか。」


 ガキィン!


 そこまで言い終えた相手に向かって剣を振り下ろす。

 だが、何も無い空間で剣が金属音を上げて止まった。


 中年の男はまるで姿が見えない剣を扱っているかのような格好でその場に立っている。


「おー。危ない。」

「………息子さん(・・・・)と呼ばれるのは好きじゃない、と以前から申している筈ですが?」

「……嗚呼、怒ったのは其処だったんですかい……」


 ふう、とアルトは溜息を漏らして剣を仕舞う。

 それに伴って中年の男も腕を下ろし楽な体制になる。


「それにしても、また腕を上げたんですね。ウェルさん。」

「あれ、判っちゃいます?」

見えざる斬撃(インビシブルチョップ)の強度と発生時間が以前より増していましたからね。」


 ウェル、と呼ばれた中年の男はアルトの問いに満足気に微笑んで。

 又アルトはウェルの成長に驚きを隠せない表情で。


「まあ、こっちの方は腕上げてるんスけどねェ。本業の方(・・・・)は全然ですよ。」

「…でしょうね。親父は厳しいでしょうし。」

「………息子さ…否、――――アルトさんは実家、まだ帰らないおつもりで?」


 ウェルの問い掛けに顔を(しか)めるアルト。

 その顔を見ただけでアルトの心境を察したウェルは―――


「まあ、アルトさんの気持ちも判らなくはねェんですけど。唯、親父さんの気持ちも少しは汲んでやって欲しいってのが、俺の意見で御座いまして。」


 頭をボリボリっと掻いてそう呟いた。


「別に親父の気持ちが判らない訳じゃあないんですよ。でも、ウェルさん。親父の考え方じゃ国は変えられない。世界は変わらない。――――俺は"偉人"になりたいんですよ。」


 そう言葉を返せばウェルに向かって軽く微笑んだ。

 其の笑みを見たウェルは「やれやれ」と言った表情でアルトを見詰める。


「息子さんならなれますよ、偉人に。――――さて、と。今日態々足を運んでもらったんスから剣の稽古始めましょうか。」


 とアルトに向かってにっ、と笑うウェル。

 その顔に笑顔で拳を放つアルト。―――ジャストミート。


「息子さんと呼ぶのは辞めろと何度言ったら理解出来るんでしょうね、此の頭は。」


 鼻を押さえながら見たアルトの表情は般若そのものだったとか。

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