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Checkmate  作者: 柳乃 晟
異端騎士
3/13

002   違和感

「おーい、アルトー!」


 学校登校二日目、アルトは校門の前で慎に呼び止められた。


「おはよーさん!」

「おはよう。」


 慎はエルティックで登校、か。と横目で慎が乗ってきたであろうエルティックが去っていくのを眺めながら思った。

 ――――エルティックとは大気中のマナを使用して動く一種の乗り物である。

 外見は小型の車のような形で魔力版の車と言ったところだ。

 だが、使い勝手は車よりも格段に楽でイメージとしてはタクシーに近い感じだ。

 使い方は乗り場まで足を運ぶ(だが、乗り場自体は町中色んな場所に設置されているのでそれ自体も苦ではない)そして、空いてるエルティックに乗り込む。

 後は行き先を入力して到着するのをのんびりと待つのみ。

 値段もかなり良心的で無人であり、結構くつろげたりもする為、国の大半の人間はエルティックを利用している。

 アルトも機会があれば勿論利用するし、慎に関しては毎日登下校使用しているのであろう。


 兎にも角にも、生活には欠かせない公共機関である。


「今日から本格的な授業が始まるな!」

「ああ、そうだな。」


 どんな授業なんだろー、と期待に胸を膨らませる慎の横で誰にも気付かれないほど小さな溜息を吐いた。

 アルトは慎のように期待で胸を膨らませる事は出来ない。

 どう考えても授業内容が全て億劫なのだから――――



*******************************



「御前さ。"a heretic"《能無し》ってだけじゃ済まされるレベルじゃねえぞ?」


 午前中の授業が終了し、今は束の間の休み―――所謂お昼休みだ。

 今日の午前中の授業は剣術実技。

 慎は見た目通りの戦闘派であり、愛用する武器は大剣だった。


 ――――剣術実技は誰の眼から見ても慎の独壇場で終わった。


 次々に襲い掛かってくる同級生の攻撃を全て紙一重で交わし大剣の形をした木刀(形や重さは平均的な大剣のそれだが、威力や強度は木刀のもの)で的確に一撃を喰らわす。

 ……全員、その一撃で敗れ去っていったが。


「次ィ!」


 剣術実技の教師なのだろう、物凄い(いか)つい顔と厳つい身体。

 そしてその外見から発せられる裏切らない野太い声。

 明らかに好戦的な騎士の方で間違いなかった。


「…だらしねえぞ!次!………次ィ!!緋色!!」


 その声に「お。」とした表情で迎え入れる慎。

 対するアルトは乗り気じゃないといったやる気の無い表情だ。

 それでも慎は挑戦的な笑みを浮かべるとアルトに向かって一直線に走りこんできた。


 バキィ!


 慎の一振りが見事に脇腹に入った。

 朝食べた物が体外へ撒き散らされそうになっている衝動を何とか堪えながら見事に宙を舞ってしまった。

 その光景を見て呆気に取られてる慎。


 ―――――すまない、慎。本気でやったんだが反応し切れなかった。


 心の中で慎への謝罪を呟いて約十メートル飛び続けたアルトは地面へと墜落していった。

 きっと慎も手加減しなかったのだろう、今迄で一番惨いやられ様だった。


 ―――――これが今日午前中の授業風景である。


 因みにアルトはそれから慎に受けた傷が後遺症となり、午前丸々休む事になった。

 慎は、と言うとその後クラスの全員をひとりで叩きのめすと言う偉業を成し遂げ教師の口をあんぐりと開けっ放しさせたという。


「大体、そんだけ良い身体してんのになんであんなに飛び散ったんだ?」


 散ってはいないぞ?とつっこもとしたが言うだけ無駄なんだろうな、と諦める事にした。

 まあ、慎の言い分も判る。

 自分で言うのもなんだがそれなりに身体は鍛えてあるし体型も悪い訳じゃない。

 だがしかし、世の中には例外ってのがある。


「あんな馬鹿力で思いっきり脇腹にフルスイング決めたらそれこそ飛ばないほうがおかしいぞ?」


 一般的な高校一年生の攻撃ならばアルトも避ける事くらい可能だったであろう。

 否、全員は無理でも何人か倒せるだけの実力はある。

 だがしかし、世の中の例外―――規格外の存在が目の前に居た訳で……


「大体、慎の力はあれだ。最早高校生どころか騎士団の中にも早々居ないくらいずば抜けてる。」


 そんなのが手加減抜きで攻撃なんかしてきたら眼で追えても身体が反応してくれない。

 なんて溜息混じりに呟けば、


「それは言い過ぎだってーの。俺なんかまだまだだ。」


 と此方は苦笑気味に呟く。

 その瞬間、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた――――



*******************************



「…………魔法実技は正直いらねーよなぁ。」


 放課後。

 誰も居ない教室でアルトと慎のふたりは疲れ切った表情で各々の机に座っていた。


「……いらないと言うか。俺達には必要ないものだな。」


 "a heretic"《能無し》であるふたりには魔法は扱えない。

 という事は必然と魔法実技の時間は何も出来ないのだ。

 とはいえ、サボる訳にもいかないし、騎士団の養成所としても機能している此の学校で魔法を扱えないまま卒業させる訳にもいかない。

 そういったふたりの思考と学校側の指導方針の結果、形だけでも授業を受ける事になった。

 ――――しかし、本当に考えれば考えるほど"a heretic"《能無し》の入学を許可した理由が気になる。

 アルトは入学時からその事に違和感を感じていた。


「なあ、アルト」

「ん?なんだ?」

「なんで俺達入学出来たんだろうな。」


 どうやら疑問に思っていたのはアルトだけではなかったようだ。


「………最初、俺は魔法無しでも俺の剣術の実力は立派な力になるんじゃ、とかそんな風に受け取ってもらえたと思ってたんよ。」

「……ああ。」

「けどさ、そしたら魔法実技免除して剣術学ばした方が効率良くないか?」

「そうだな。」

「別に"a heretic"《能無し》だって事を隠蔽なんかしてないんだぜ?」


 俺は正直に全部言った!と胸を張る慎。

 それを見て少し笑みを零しそうになったが今は耐えて、


「俺もそうだよ慎。――――だが、そう考えると益々不思議だ。」


 駄目元で、と言った感じでもない。

 駄目元も何も、今まで"a heretic"《能無し》が魔法を扱おうと努力しなかった訳じゃない。

 という事は少なくとも駄目だったやり方、事例なんて山のように存在する筈だ。

 なのに、先程の授業は慎とアルトに対して何ひとつ対策を取っていない。

 周りの生徒と同じ課題を出されただただ出来るまで反復で練習させられた。

 流石にこればかりは学校側の対処としては、ずぼら過ぎる(・・・・・・)

 そう、まるで何かを試している(・・・・・・・・)かのように――――


 ―――少し警戒を強めてみるか。


「……アルト。何か心当たりでも?」


 慎の発言にアルトは素直に驚いた。

 顔に出さぬようポーカーフェイスは崩さなかったが、それでも衝撃は大きい。


(ほんの僅かな空気の変化に気付いたのか…流石嗅覚(・・)が鋭い。)


 此処で言う嗅覚とは人間の五感に存在する嗅覚の事ではなく六感(シックスセンス)の事である。

 剣術実技の時にも思った事なのだが、

 慎は空気の僅かな変化に敏感なのだ。

 読心術、のような細かな心境を悟る事は出来ないが大まかな心境くらいは察する事が出来る。

 今の慎はアルトが僅かに強めた警戒心、此れに反応したのだろう。

 アルトはそんな慎の嗅覚に感心しながら小さく笑みを零した。


「そんなものじゃあないよ。気のせいじゃないか?」

「んー。そうか、俺の気のせいか。」


 悪ィ悪ィ、なんて笑いながら詫びる慎。

 ―――けど、眼を見れば判る。

 付き合い自体はまだ全然短いが、それでも少しくらいお互いを理解する事は出来るようになった。

 慎の眼は――――今は聞かないでおくぜ、と語っていた。



****************************



 帰宅後、アルトは自室にいた。

 目の前にはWCM(world connector machine)がある。

 WCMとは此方の世界でいうPCみたいなもので、例の如く電気の変わりに魔法で動いているものだ。

 箱型の液晶にマナの通り道であるケーブルを指す。

 後は起動する事で自動的に大気中のマナを微量に吸収し、それを情報へと変換させてケーブルへと流れていく、又はケーブルから画面へと流れて表示されていく。

 マナとは最近の研究で世界を構造させている情報体ではないか?という仮説が立たれている。

 魔法も魔力でイメージした物をマナと練り合わせる事によってイメージから現実へと発現させているのではないか?という説が最近では主流になりつつある。

 だが仕組みはどうあれ結果としては魔法は発現されているのだからあまり重要視していない術者もかなりの数存在しているのだが。


 カタカタ、とキーボードを打つ音が室内に響いている。

 画面には拳銃の形をした武器(・・・・・・・・・)が表示されていた。

 カタカタカタカタ…色々な数値が打ち出され色んな数値が書き換えられていく。


 「ふう……。」


 暫く打っていたからだろう、眼が疲れた。

 疲れた眼を少しでも癒すために眼を閉じ軽く揉み始める。

 すると画面上に一通のメールが届いた。


「……………。」


 それを無言で確認すると先程とは違う種類の溜息が口から漏れる。


(最近サボっていたからなぁ………。)


 今日の剣術実技を振り返ってみてぼやく。

 自分の武器は近距離戦用ではない(・・・・・・・・・)

 しかし此の世界には近距離戦闘…否、騎士の武器は剣しか存在していない。

 というよりも、剣と魔法しか騎士団の武器は存在しないのだ。

 弓や斧、槍や銃などといった武器も確かに存在はするがそれを戦場で使用する事はない。

 何故なら後方援護は魔法で事足りるし、斧や槍は魔法によって剣にそれらの武器と同じ性能を付加させる事が可能だからだ。

 前衛が盾になり後衛の詠唱時間を稼ぐ。

 いつの時代でもこれが基本スタイルには変わりない。

 それが魔法によって前衛が強化されているといっても変わっていない。


(明日、剣術の修行お供します…と。)


 例え自分の武器が剣でなくとも最近サボっていた所為で今日のような不甲斐ない結果になったのには変わりない。

 昔の自分ならば慎を倒すとまではいかなくとも一太刀くらい防げた筈だ。


「………魔道具(・・・)の製作も一段落着いてるし、暫くは剣の修行に打ち込む事にしよう。」


 そうと決まれば明日に備えて今日は早く寝よう。

 アルトは己の中でそう決めてベッドへと潜り込んだ。

 あの人の剣の修行は早朝と夜だ―――早めに寝て体力を回復させないと痛い目を見てしまう。

 

 そんな事を考えながらアルトは意識を手放した――――

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