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Checkmate  作者: 柳乃 晟
異端騎士
10/13

009   剛と柔と智

「よっ、ほっ、っととと。」


 キン、キーンッ、キンッと金属音が響き渡る。

 場所はアンブレイの中庭である。

 此処アンブレイは三つの棟に分かれていている。

 丁度三角形の三つの隅に棟が設置されているような形であり真ん中は中庭として数多くの生徒が多目的に使用している。

 因みに三つの棟はそれぞれ一年棟、二年棟、三年棟である。

 それぞれの棟に必要な分の教室が用意されており基本別の学年の生徒に逢う事は少ない形になっている。

 剣術実技や魔法実技のように屋外を使用する場合は少し離れた演習場を使用する。

 演習場も五つ確保されており一つ一つが離れている。


 中庭にはアルトと慎とクライスが居た。

 三人とも各々自分の好みの模擬剣を持って二対一という模擬戦を行っていた。

 無論言うまでもないが一は慎で二はアルトとクライスである。


 実力の差は圧倒的だった。

 半径一メートル程の円の中心に慎が剣を構えて立っている。

 アルトとクライスは如何にかして慎を円の外へ出せば勝ち。

 慎に勝利条件はない。

 ()いて言うならば時間がなくなれば勝ち、といった具合だが時間制限は特に設けられていないので明確な勝利条件ではない。

 アルトとクライスは波状攻撃や陽動、同時、様々な方法で慎に襲い掛かるが難なくといった感じで慎はそれを(さば)く。

 それどころか攻撃してくるふたりにアドバイスを送る始末だ。


「アルト、今の攻撃、眼でフェイント入れたつもりだろうけど剣先が素直だったぞー。――と。クライス、攻撃に移る瞬間気配が雑になってる、攻撃する前にバレちゃあ意味がないぜ?」


 その言葉を受けふたりは苦い笑みを浮かべる。

 正直言って慎は強すぎる。

 本当に同級生か? と疑いたくなるほどだ。


「――クライス。フェイもこんな化け物みたいに強いのか?」

「フェイはここまで人離れしてないよ。僕とミリアのふたりで此の条件の模擬戦やったらフェイは一応円から出せるだろうし。」

「――おーい。ふたりして俺を人じゃねえみたいな言い方すんじゃねえよ。」


 そんなやり取りを笑いながらする三人。

 が、決して集中を切らせてる訳じゃない。

 隙あらば襲い掛かろうとするふたりに決して隙を見せない慎。

 少しの間笑いを交えた雑談を楽しんで誰からという訳もなく口を閉じた。


 ――静寂が場を支配する。


 バッ、と勢いよく慎に向かって駆け出したのはアルトだ。

 一直線に慎へ向かい直前で真上へ飛ぶ。

 慎を飛ぶ越えるほどの跳躍を見せて慎は軽く感心するがそれは長く続かなかった。

 アルトの後ろで気配を消して、慎へ向かっていたクライスが急に視界に入ったからだ。

 アルトを盾にして慎の視界から隠れる。

 そしてギリギリのところでアルトが慎を飛び越しアルトの後ろから現れたクライスと慎の背後に着地したアルトとの挟み撃ち。


(お。)


 慎は綺麗に決まったふたりの作戦を他人事のように感心した。

 クライスが急に視界から現れた時は流石に驚いたが今は感心する余裕がある。


 キンッ!


 アルトとクライスの剣が音を鳴らして止められた。

 アルトの剣を自らの剣で防ぎ、クライスの剣を腰に下げてる鞘で防いだのだ。

 その行動にふたりは眼を丸くして驚き、その一瞬の隙を慎に与えてしまった事を後悔する間もなく蹴りと裏拳による反撃をまともに喰らってしまった。


「慎君さすがだねー。」


 そこまで、とでも言うかのように間に入ってきたのはフェイである。

 手には模擬剣を持っている。


「もし良かったらあたしとも手合わせ願えるかな?」


 相手の返答を聞かずに言うだけ言って剣を構えるフェイ。

 問答無用って感じだなあ、と少しバツの悪そうな笑みを浮かべて仕方ないと諦める。


「あ、その円から出てきても良いから。――てか、きっとそんなの気にしてる余裕なくなると思うよ。」

「だろーな。…あんまり女子とはやりたくねえんだけど。」

「女の子だからって思ってると痛い目見るよ?」


 そう言葉を残してフェイはキッ、と顔付きを変えた。

 (まと)ってる空気さえも変えてしまうフェイの顔付きを見て自身も本気を出すべく剣をしっかりと構える。


 突然自分達の練習相手を横取りされた挙句になんとなく空気が先程よりも冷たく鋭いものに変わってしまって居心地の悪い気分になったクライス。

 それと対象的に純粋にフェイの実力が気になるアルトは自身の練習など忘れふたりを見入る。

 シン、と静まった中庭。

 空気を察してか先程までちらちら見えた他の生徒達も場所を変えたのか人がいなくなっていった。

 一部の人間が興味本位で残り野次馬化しているがふたりは気にしない。

 ――否、気にしてる余裕がない。

 対峙して相手の力量をある程度測ることが出来た。


 ――強い。


 同年代でここまでの実力者に逢える事なんて早々ない。

 ふたりはそう感じていた。

 逆に言えば自身達の実力が既に高校生レベルじゃないという事も判っている。

 それ故に楽しみで仕方がなかった。


 ふたりの間に一枚の落ち葉が舞い散る。


 それを開始の合図としたのかふたりは相手に向けて剣を振るう。


 キンッ、と金属音が鳴り響いたかと思えば剣が交差してる場所に先程舞ってきた落ち葉がある。

 ハラリ、と真っ二つに切断された落ち葉が地面に着くや否やフェイが怒涛の攻撃を仕掛け始めた。


 上、下、右下、右、下、左上。


 あらゆる方向に剣が向かい斬撃が飛び交う。

 常人には反応するどころか眼で追う事さえも出来ない速度で剣を振るう。

 それを紙一重に――しかし余裕のある動きで避ける慎。

 誰もが息を呑みただただ魅入ってしまう光景だった。


「…アルト見える?」

「右、下、左…だな。追う事は出来るが反応出来るかは怪しい、な。」

「アルトには追えるんだ。」


 その言葉に「ん?」と首を傾げるアルト。


「クライスは追えないのか?」

「昔は追えてた。――正直言って高校入ってから短期間でここまで腕が上がってるとは思いもしなかったよ。」


 先程の発言を撤回したいのだろう、気まずい表情でフェイの動きを見ている。

 アルトはその表情に気付き、それ以上聞く事を辞めた。


 フェイと慎の実力差は慎の方が上だと当事者のふたりは気付いていた。

 ただ問題はどうやって戦闘を終わらすか、である。

 唯一フェイが慎に勝っている部分は早さであり、それが決着を付けるのを厄介にさせている。

 フェイの攻撃を完璧に見切って避ける事は出来るが反撃する暇を与えないフェイの攻撃に防戦一方である。

 フェイはフェイで慎の一撃をまともに受けたら耐え切れないという事は承知してるので一撃もまともに受けられない。

 だが、慎はフェイの攻撃ならば何度か耐え切る事が出来るだろう。

 こつこつとダメージを与え地道に削ってフェイが勝つか、一撃どでかい攻撃を決め一瞬で慎が勝負を決めるか。

 結末としては此のふたつのどちらかだろう。


 だが、そうなると体力勝負にもなってくる。


 フェイの体力が尽きた瞬間、決着は付く。

 ふたりはそう考え各々体を動かす。


「やっぱり、強いねー」


 アルトとクライスが魅入って言葉を発するのを忘れていた時ミリアがそんな事を呟いて近付いて来た。

 表情に元気がない、とふたりは思ったが()えてそこには触れず無言で頷く。


「本気のフェイちゃんの攻撃、あたしも避けれる気はしないなー。」

「ミリアも眼で追えるのか?」

「うん。授業一緒だからね。クラちゃんと違って今も昔もずっと見れるから眼は慣れてるんだよ。」


 その言葉にクライスは苦い表情を浮かべるがミリアは気にせず言葉を続ける。


「あたしとしてはフェイちゃんの攻撃をあそこまで余裕で避けてる慎ちゃんのがびっくりだね。…正直慎ちゃんってフェイちゃんより強いでしょ?」


 そう言ってミリアはふたりに視線を送る。

 クライスは言いずらそうに顔を歪ませアルトは軽く頷き肯定する。


「だが、慎が本気を出すのは初めて見るな。いつも授業中は手加減をしてるから慎の実力は良く判らなかった。」

「やっぱり? 僕もフェイと黒峰君の実力差がここまでだとは思ってなかったよ。フェイの実力を見誤ってたのにも関わらず黒峰君はそれ以上に強かったし。」


 と、そこまで言って自身の発言に対して深い溜息が出た。


 人の実力を見抜く力がない自分の不甲斐なさに――だ。

 フェイに対しては成長を見抜けなかった。

 慎に対しては本気の実力を見抜けなかった。


 そういった眼力や嗅覚が乏しい自分の弱さに苛々する。


 だが、かと言ってアルトやミリアが見抜いていたか、と言えばそれも違う。

 アルトは大雑把ではあるが慎の全力をある程度は把握していた――が、フェイに関しては完全に思惑以上の実力を持っていた。

 ミリアはフェイの実力をほぼ完璧に見抜いてはいたが慎に関しては完全に見抜けてない。

 ミリアの中にフェイより強い訳がないという身内贔屓(ひいき)に近い思想があったから当然と言えば当然だ。


 とはいえ、誰も彼等を責めたりは出来ないだろう。

 普通に考えれば学生レベルでここまでの実力者がふたりもいるというのが既に異常なのだ。

 計り違えたとしても誰にも文句は言えまい。


「くっ! …――慎君。こうなったら奥の手、使わせてもらうよ!」


 フェイは一言慎にそう叫ぶと攻撃速度をそのままに呪文を練り始める。

 その行動にアルトと慎は驚き、ミリアとクライスは呆れに近い表情で見詰める。


 フェイの魔法力はそれほど高い訳じゃない。

 以前魔法実技の時間に暴走させた事がいい例だ。

 だが、彼女には例外が起きる状況ある。


「あんな状態で呪文を練って大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。フェイちゃんは戦ってる最中は極限に集中してるからね。補助系の簡易呪文程度なら成功するんだ。」


 ミリアの言葉を聞いて確認を求める視線でクライスを見る。

 その視線を受け取ってアルトの考えてる事をしっかり理解し口を開く。


「ミリアの言う通りだよ。(ただ)いくらか条件は付くけどね。――まあ、条件って言うか状況なんだけど。自分が本気を出して戦ってる時は呪文を正確に扱えるんだ。…普段からそれくらいの集中力を発揮出来れば良いんだけどね。どうやらフェイは剣を握って本気を出して動いてないと集中出来ないタイプらしい。」


 それを聞いてふむ、と軽く頷く。

 確かに前衛タイプの人間には良く聞く話ではある。

 剣を手にする事で集中力が増す、というタイプだ。

 自身の知り合いにも似たタイプの人間がいるので良く判る。


 ――と、そこで思考を一時止める。


 目の前で呪文を使用したフェイの動きが徐々に早くなっていったからだ。

 速度増加の補助系呪文だろう、とアルトは理解する。


「……ミリア、追えてる?」

「……いや、あたしももう追えないね。授業中にまず呪文なんて使わないからこんな速さ見た事ないし。――そもそも速度増加の呪文をフェイちゃんが扱えるようになってるって事に驚きだよ。」


 と、そこまで口にしてミリアはアルトの方へ視線を向ける。

 ふたりの会話が耳に届いていないのだろうと思えるほど集中して目の前の光景に慌しく眼球を動かして見詰めてる。


 ――アルちゃん、もしかして追えてるの?


 出掛かった言葉を無理矢理飲み込んでミリアは首を振る。

 邪魔しちゃ駄目だ、そう言い聞かせて自分も集中して目の前の光景を見る事にした。

 フェイの攻撃は全く見えないという訳ではなかった。

 が、先程とは比べ物にならない速さの攻撃に眼で見たものに頭が付いてきてないといった感覚だ。

 どこに剣が向かったのか把握出来てるが理解する暇がないそんな感覚。


「…慎に何度か攻撃が入ってるな。」


 ボソリ、とアルトが呟いた。


「緋色君! 見えてるの!?」


 その呟きに驚きを隠せず声を荒げてクライスが問い掛ける。


「――なんとかな。慎もあの速度の中よく反応してる。…が、剣を使って上手く(さば)いたりはしているようだが全てを防げてるわけじゃないようだな。」

「…どれくらいフェイちゃんの攻撃は当たってるの?」

「大雑把に見積もって二十回に二、三回程度だな。唯、十回で計ると一回当たれば良いって感じだ。少しバラつきがある。」


 なんでそんなバラつき方を? とふたりは首を傾げた。

 それを集中して見詰めてる視線の(すみ)に捕らえ気配で察したアルトは口を開く。


「慎のガードを崩すのに十回以上の攻撃が必要だって事だ。二十回程度まで進むといくらか当てられるようになる。――だが、その攻撃は当ててるんじゃなくて慎がわざと喰らってる。」

「……なんで?」


 態々(わざわざ)攻撃を喰らう理由が判らない、と当然の疑問を口に出すミリア。

 その問いにアルトは軽く笑みを浮かべ。


「ミリアなら考えて集中してあいつ等のやり合いを見てたら理解出来る。――御前は弱くない。理解出来ない訳がないさ。」


 ミリアの顔を見て、そう言い切る。



*****



 慎とフェイの凄まじい攻防を遠目で苦い笑みを浮かべながらとある部屋の窓から見詰める三人の姿があった。


「ヴァン隊長のおっしゃる通りですね。」


 白服の隊長は苦笑を浮かべたまま隣にいる――ヴァンへ言葉を投げ掛ける。


「今年の新入生は例年より実力者揃いのようです。」

「そうだな。正直言って私もここまでとは把握し切れていなかった。」

「そうなのですか? ヴァン隊長の言葉通りあの四人は並々ならぬ力を感じますが――」


 ヴァンの言葉にアイザードは不思議そうな声で問い掛ける。

 ヴァンの言葉通りあの場に集まっている四人は一年生にしては出来すぎた能力を持っている。

 尾行に気付いた前衛タイプの慎とフェイの剣術はアイザードでは太刀打ち出来ないものであり、尾行に気付いていたもう一人のアルトは前衛なのか後衛なのか能力は未知数だが知識は非凡だ。

 そもそも、ヴァンの言葉を借りれば彼は軍師タイプであり、部隊長など隊の指揮を取るタイプとして酷く優秀そうだ。


 ――ヴァンはあの一件以来アルトの印象は智将になっている。

 騎士団の隊長である己との言葉での駆け引きを見る限りアルトは前衛でも後衛でもない軍師、――参謀という立場が似合いそうだと判断した。

 その事を白服の隊長、副隊長であるアイザードには既に伝えてあり白服の隊長は「ああ。」と簡単に納得された。


 そこまでアルトへの評価を思い出すと、その思考を辞め視線を再び中庭に戻す。

 クライスは尾行に気付いていなかったようだが後衛として非凡なのは入学前から知られている。

 クライス本人は屈辱を覚え、天才の名は失ったつもりでいたが他者から見れば彼は紛れもない天才の類だ。

 後衛特化である為、尾行の気配を探る事はまだ出来ないみたいだが高校生でヴァンの尾行に気付く事の方が特異なのでそこは問題ではない。

 問題ではない筈なのだが――

 他の三人が気付いていただけに気付いてないというクライスが駄目な奴だと錯覚しかける。

 その感情を何度も首を振って否定した。

 ――そう、気付いていないのは正常なのだ。

 気付いたほうが異常であり、普通ならば起こり得ない現象なのである。


 ふう、と軽く息を吐き中庭での攻防に集中した。


「アイザード。」

「…えっ! は、はいっ」


 集中した瞬間、不意打ち気味に発せられた言葉に慌てて声を上げてしまった。

 それを恥ずかしいのか落ち込んでいるのか、本人以外には判らないが少しだけ俯いてしまう。


「優秀な者が四人、と私は確かに言ったがそれが把握し切れていなかった部分だ。」


 その言葉を聞いてアイザードだけではなく白服の隊長も眼を見開いて驚く。


「それはミリア・フローレンスも非凡だと、そうおっしゃりたいのですか?」


 今度はアイザードではなく白服の隊長がヴァンへ問い掛ける。


「彼女だけではないが――そういう意味だと受け取って貰っても構わない。」


 言葉上でははぐらかしている印象を受けるが意味合いとしては殆ど肯定である。

 あの五人以外にも優秀な者がいるのは予想の範疇であり別段不思議ではない。

 だが、ミリアが非凡な存在であるとはどうしても思えずヴァンの返答にやはり驚きを隠せ切れなかった。


「私の予想では緋色君の次に厄介な存在だよ。」


 そう、呟いた言葉にふたりは驚いた表情を維持したままヴァンの顔を見る事しか出来なかった。



*****



 アルトに言われた言葉通りふたりのやり取りを集中して理解しようとするミリア。


 ――だったのだが。


 思い出せば出すほど違う方向に思考が巡り頬が熱くなるのを感じた。

 彼に認められている事が嬉しくて己も肩を並べて歩いて良いと許された気分になり浮ついた感情が支配する。

 が、それをどうにか首を振る事で頭の片隅に追いやろうと努力する。

 ここでそんな感情に支配されてはいけない。

 そんなので満足してはいけない。

 前向きに捉え過ぎてる己の思考回路を一度シャットダウンし、理解すべく眼前の光景へ集中する。


 慎が敢えて攻撃を喰らう理由。


 それをしなければならない。

 攻撃を喰らうのは普通に考えればデメリットであるがそれを如何にメリットのある行動に変換するか。

 思考を巡らせ頭を回転させる。


 数十秒目の前の光景と己の思考に集中するとひとつの答えが導かれた。


「――体勢を立て直す為に攻撃を受けざるを得ない?」


 疑問系なのはまだ己の答えに確信を持てていないからである。

 だが自信がない訳ではない。


「正解だ。」


 ミリアの答えにアルトは静かに頷き微笑む。

 その笑みに胸が軽く跳ねる感覚を覚えたがすぐに収まった。

 なんだろ? と今の感覚を疑問に思ったがすぐさま違う方向へ思考を巡らす。


「そういえばクラちゃんは判ってたの?」


 ふたりの下に来た時よりも元気になっているミリアを見てクライスは安堵(あんど)を覚える。

 が、その問い掛けに若干顔を引き()らせた。


「……クライスは違う答えを出していたみたいだな。これは俺の予想だが攻撃に転じようと防御を犠牲にしてフェイの僅かな隙を狙ってるとでも考えたんじゃないか?」

「…う。」

「二十回中数回フェイの攻撃に隙が生じると仮定しその隙を突くために防御を犠牲にする。確かに有り得る仮説ではあるがそこまでしなければならないほど慎は追い詰められていないし、そもそも今のフェイの攻撃速度では隙なんて起きない。――そろそろ眼が慣れてきた筈だ。クライスも集中したら追えるようになってると思うが。」


 実際、アルトは眼が慣れ今ではそこまで集中しなくても見れるようになっている。

 ミリアは集中こそしなければならないが集中しても見れなかった最初に比べ今では眼で追える。

 ならば、とアルトは考えていたのだが。


「無茶言わないでよ。僕は最初の状態でも追えてなかったんだから。」


 と苦笑を浮かべクライスは恨めしそうにアルトを見る。

 魔法に関して優秀でも直接戦闘は苦手なのだ、眼は培ってきていない。


 が、アルトは引く事をしない。


「それは思い込みだろう? 出来ないと最初から思い込んでしまえば見えてても見えてないものだと錯覚する。俺を信じろ。」


 そう言うアルトの眼を見て軽く息を吐く。

 そして「そういう事は男に言うもんじゃないよ。」なんて悪態を付きながら集中して目の前の光景を見詰める。

 先程よりも集中している事に本人は気付けていない。


「――見え、る?…いや、……――見える。見えるっ」


 僅かな間を空けて見えてる事に驚き、笑顔で声を張り上げる。

 が、見えた事によりフェイと慎が如何に出鱈目な存在だという事に気付きすぐ笑顔から青褪(あおざ)めた表情に変わる。


「……ふたり共なんて動きしてるんだよ。」


 気付けた嬉しさよりも気付きたくなかったという想いのほうが強い声で搾り出す。

 こんな動きを今の今まで繰り広げていたなんて信じられない。

 クライスは唯ふたりの実力に脱帽するしかなかった。

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