-prologue-
この物語はフィクションです。
この世界は現実世界とは異なる世界であり実在する人物、団体、国家、領域その他固有名称等が出て来ても一切関係ないものです。
―――――騎士になる為には、まずは魔法を扱える事。
騎士になる為には魔法が必須項目になったのはそんなに古い話じゃあない。
剣より魔法が強いと証明されたのは割りかと最近の話だった。
――――否、この言い方は語弊がある。
正確に言えば唯の剣士より魔法剣士、である。
昔までは前衛は剣士、後衛は魔法使い。
この隊列が基本だった。
だが、近年この常識が覆される戦いがあった。
ネオルターク大陸を統べる要塞都市グランディア。
この都市は山や森に囲まれている立地により魔物の襲撃率が異様に高い。
魔物が襲ってこない日など一日もないというくらいの襲撃率だ。
運が悪ければ一日に何度の襲撃を経験する日だってある。
だが、グランディアの騎士達は一度も魔物相手に屈した事が無いという強者の集まりである。
その為、都市全体の騎士能力自体が他国の騎士に比べて桁違いに高い。
それだけグランディアの騎士は強いのだ。
―――――――無論、それは他国にも知られていた。
特に隣国であるギルハバート帝国はグランディアを畏れていた。
あの屈強な騎士たちの矛先が魔物ではなく、自分達に向けられたら――――。
そう考えてしまうのは仕方ない話なのかもしれない。
だが、冷静にものを考えられる人間ならばグランディアに他国と争う余裕なんてものがないという事に気付くものである。
連日連夜いつ魔物が襲ってくるかも判らない状況なのに態々自ら争いの種を増やしたりしない。
そう気付く筈なのだが―――――。
「全軍突撃ー!」
ワァァァアアアアアアア!!と雄叫びを上げながら突撃する無数の兵士達。
その兵士たちの鎧にはギルハバートの紋章がしっかりと胸に刻まれていた。
――――そう、ギルハバートの上層部は冷静にものを考えられる人間が存在しなかったのである。
ギルハバートの騎士達は都市を警備していたグランディアの騎士達と激突する。
個々の技術ではグランディアの騎士達には敵わない。
だが、それでもギルハバートの騎士達は自分達の勝利を疑わない。
ギルハバートの騎士達は攻めよりも守りを重視した戦いをしている―――まるで、時間を稼ぐかのように。
「チッ」
戦場に響くひとりの舌打ち―――それはグランディアの騎士によるものだった。
その騎士の視線の先、ギルハバートの騎士団の遥か後方。
その視線の先には魔法を発言しようとしている術者大隊。
―――ギルハバートは魔術戦闘に長けた国だった。
騎士を盾に使い後方の魔術大隊の圧倒的な火力で敵を薙ぎ払う。
シンプルではあるが、この時代の模範的な戦闘方法である。
我が国の必勝パターンに入ったとばかりにニヤリと笑うギルハバートの騎士達。
勿論、油断はせず気を緩めたりもしない。
そして術式の発現を感じた。
その瞬間、ギルハバートの騎士達は誰もが己の勝利を確信した―――――
のだが、
「……ッッ!?」
声にならない叫びが戦場を包む。
何が起こったのか判らないといった表情で立ち尽くす騎士もいた。
それもその筈だ。
何故なら、
魔法が発現されようとした瞬間、魔法の発現そのものを止められたのだから。
原因を突き止めるべく何が起こったのか後ろを確認する騎士達。
その光景を見て騎士達は更に驚く事になった。
そこにはいつの間にか盾の役割を果たしていた騎士達の列を掻い潜って術者達に剣を振りかざす敵の騎士達。
――――何故?
という疑問はすぐに解決される事になる。
そこには何も無い筈の空間から急に姿を現し戦線に参加するグランディアの騎士の姿だった。
(隠密魔法!?)
そんな馬鹿な!とその光景を目にした者は誰しも思った。
隠密魔法はかなり高度な術式だ。
それこそ自陣の後方から使用して敵側の後方(数字にすれば約四百メートルといったところだろう)まで持つなんて事は有り得ない。
精々自陣の後衛から前衛付近までが行動の限界値だ。
又、この術式は遠隔操作が効かない。
術者に対して半径一メートル以内にいなければ使えない術式な上、使えるのは単体のみ。
その為、使う状況は著しく限定されている術式なのだ。
なのに、敵兵は今もその数を増やし術者大隊を駆逐し出している。
(拙い!)
このままでは術者が全滅してしまう!
そう思うよりも先に術者のほうへ向かおうとした……のだが、
足が、動かない。
(クッ…、足だけじゃない!)
全身、身体の全てが硬直している。
声を出そうにも口が動かない。
どういう事だ…!
そう思った瞬間、
ザシュ!
ゴトリ……
何かを切る音と何かが地面に落ちる音。
――――地面に落ちたのは騎士の首だった。