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第一話『夢も希望もない、ただの中年(前半)』

『週刊少年ジャンプ』――それは、集英社が発行する日本の週刊少年漫画雑誌である。1968年に創刊されて以来、毎週月曜日になると全国の書店やコンビニエンスストアに並び、多くの読者に届けられてきた。バトル、スポーツ、学園、ファンタジーと多彩なジャンルを取り揃え、「努力・友情・勝利」の三本柱をテーマに掲げたその誌面は、少年だけでなく大人の心も惹きつけてやまない。

 創刊当初は一部の少年向け雑誌にすぎなかったが、やがて老若男女がその物語に胸を熱くし、いまでは“国民的漫画誌”と呼ばれるほどの存在となった。最盛期には週刊で650万部以上を発行し、時代の象徴ともなったその人気は、現在に至るまで衰えることなく、2025年時点でも平均して週に100万部以上を発行し続けている。

 創刊から半世紀以上、総発行部数はおよそ75億部を超え、世界でもっとも売れた漫画雑誌としてその名を刻んでいる。アニメ化や映像化、グッズ展開を通して作品はさまざまな形で読者と繋がり、日本のポップカルチャーの中核を担い続けているのだ。



「ボツ」


 あぁ、またか。


「駄目だね。これじゃ、とてもじゃないが、誰も読んでなんてくれないよ」


 また、いつものやつだ。


「あのさ、君がワンピースをすごく好きなのは、漫画を読めばすぐにわかる。いや、面白いよ。俺だって好きだし、ワンピース。」


 視界は一寸先も闇に覆われ、何ひとつ見えはしないのに、なぜか声だけは鮮明に響いてくる。その声と、吐き捨てるように放たれた言葉は、今でも一音一語、耳の奥にこびりついたままだ。


「でもね、ワンピースはもうあるの。尾田栄一郎っていう天才漫画家が描いてるんだ。君は尾田栄一郎じゃない。画風もストーリーも、何もかも“っぽい”だけ。今さら幼稚な能力バトルものなんて、他にもっとすごいのがいくらでもある。わざわざ君のを読む理由なんて、ないよ」


 私はきっと、この生理的嫌悪感を伴う、癪に障る声音と喋り方を一生忘れることはない。

 無駄に聞き心地の良い、低く響くその声が、何よりも腹立たしい。

 標準語のはずなのに、どこか下卑ていて耳障りなイントネーションが混ざっていて、その不快さが胸の奥をざわつかせる。


「はっきり言うよ。君には才能がない。絵も大してうまくないし、漫画ってのは才能の塊なんだよ。センスのある人間だけが描ける。だからこそ、ほんのひと握りの人間しか、この業界では食っていけない。」


 この時、私の脳裏にはっきりと焼きついているのは、あの男の顔だ。

 私は生まれて初めて、いや、おそらく人生で唯一、他人に対して本気で殺意を抱いた瞬間だ。

 なぜ、あいつはあれほど冷笑的な表情を浮かべながら、自分が受け持つ漫画家を見下すことができたのだろうか。

 まるで他人の人生を斜めから眺めるかのような無関心さで、自分が魂を削って描き上げた原稿を、まるで汚れた紙屑でも扱うように、無造作に、冷たく否定する。

 それでいて、あの男は自分の担当編集であったはずなのだ。

 どうすれば物語が面白くなるのか、そんな助言を受けた記憶は一度たりともない。いや、それ以前に、私の描いた作品に真摯に向き合おうとした気配すら感じられなかった。

 ただ否定し、描き直させ、また否定し、そしてまた描かせる。

 この男は漫画の編集に携わっているはずなのに、そこに漫画への愛情や敬意といったものは微塵も感じられなかった。あるのはただ、夢を追い、必死にもがく人間を冷笑し、その姿を高みから見物して、あざけりながら楽しんでいるかのような、どこか下卑たサディスティックな喜びだけだった。


「とにかく今回のネームもダメだ。こんなんじゃ、連載会議に回せるようなレベルじゃない。次はもっとマシなの描いてきてくれよ。いい加減、俺も暇じゃないんだからさ」


(漫画なんて大して好きでもないくせに、そんなお前に、俺の漫画の何がわかる)


「このネームはボツだから、全部初めから書き直してきて」


 この瞬間からすべては狂い始めた。

 私の人生は、呪われたんだ。

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