心の声をとりもどすとき、風も海も、やさしくうたう。
1. かぜのいえ
おかあさんの かおをみて
きょうの そらをよんでいた
おこっている? わらっている?
こどものこころは
ちいさな てんきよほうし
「いいこでいなきゃ」
そうおもうたびに
じぶんのこえは すこしずつ
ちいさくなっていった
2. しずかなうみ
おおきくなったぼくは
だれにでも やさしくできた
でも じぶんには やさしくできなかった
「きょうは なにがしたい?」
じぶんにきいても
こたえが かえってこなかった
こころのなかの うみは
いつも しずかで
なにかを のみこんでいた
3. ふるいおじいさん
あるひ みなとで おじいさんにあった
おじいさんは なにもいわずに
つりいとを たらしていた
やがて ぽつりと いった
「なみはな、自分のかたちをもたんと、くずれてしまうんじゃ。」
ぼくは そのことばを
なみのように こころのそこで きいた
4. こえを とりもどす
すこしずつ
すこしずつ
ぼくは じぶんのきもちを いってみた
「かなしい」
「うれしい」
「つかれた」
「もう いやだ」
こわかったけど
だれも おこらなかった
だれも ぼくを きらわなかった
5. おかあさんへ
あるひ ぼくは おかあさんにいった
「おかあさん、ぼくはもう、だいじょうぶ。
いつも わらってなくても いいんだよ。」
おかあさんは なにもいわなかった
でも なみだが ひとつ
ほほを つたった
そのしずくが
ひかりになって ぼくのこころに ふりそそいだ
6. ひかりのこえ
いま ぼくは かぜのなかで きいている
せかいの おとを
ひとの こころを
そして――
じぶんの こえを
「ぼくはもう、だれかのそらじゃなく、
じぶんのそらで いきていく。」
ひかりのこえが
ぼくを やさしく つつんだ
おわり




